音楽と選挙♪ 候補者の意図まるみえ
フィリピンの選挙には音楽がかかせないね、と感じるこのごろ。
大統領選に出る主要候補3人の代表的なテーマ曲を聴いてみたら、それぞれのメッセージがくっきり浮かんで見えました。
のし上がり人生ラップで
まずは、民間調査で3番人気とされるマニラ市長イスコ・モレノ氏。
ラップ調のMVを見てぶっとびました。
うは、かっけー!と。
うすぐらく、貧しい家の食卓。ノースリーブで、みけんにしわを寄せたモレノ本人が干し魚と米の食事を手でとっています。
「パンと飯があるだけまだマシ 澄んだ目も字が読めなきゃ意味ナシ」
とでも訳したくなるリリックがたたみかけるなか、モレノは意を決したように立ち上がり、路上に干した洗濯物からトレードマークの青のシャツをとり、通りをぐいぐい歩いていく。
サビの歌詞にもでてくるタイトルの「Nais Ko(ナイスコ)」は、「…したいな、できたらなあ」という時に使うタガログ語で、「イスコがいい」という意味に、「イスコ、あんたみたいになれたらなあ」という意味を重ねているのだと思います。
ラップの途中にモレノの声で「なれるさ!できる!」という意味のPosible, Pwede, Kaya!と合いの手が入るのもいい感じ。
マニラ・トンドのスラム街に育ち、ごみ拾いで日銭をかせいだという生い立ちから、ショウビズの世界に見いだされて俳優となり、政治の道へ。2019年にエストラダ元大統領らをやぶってマニラ市長につくという、大逆転人生。
「夢物語」を実現した張本人だからこそ、もたざる者が夢を実現できる社会をつくれるのではないか。そんな思いを、この音楽はかき立てます。
というわけで、イスコ・モレノのメッセージは
「君にもできる そういう国に俺がする!」
ばら色の明日 日本語アニメまで
次は2番人気とされるレニ・ロブレド氏。
テーマカラーをピンクにしたのは、反マルコスの象徴とされ、教育を受けた権力層のイメージがしみついた「黄色」を避ける意味もあったと思います。
テーマ曲もばらを意味する「Rosas」。フィリピンの人が好きな、高音で歌い上げる系の女声バラードです。
歌詞は「心配しないであなたは大事な人、置き去りになどしない」「あなたがフィリピン人だとまた胸を張って言える日まで、休みなく働きます」といった内容。
政治家の汚職が続いたり、麻薬犯罪にかかわった人がつぎつぎと殺されたり、コロナで家族や仕事を失ったりして深く傷ついた社会に「愛と癒やし」を、というメッセージをアピールしています。
ちなみにこのRosasという歌は、日本語バージョンが支持者のあいだで独自に作られ、公開されています。日本で生活するフィリピンの人がいかにたくさんいるか、国外での選挙活動がいかにさかんか、わかりますが、さらにその「ジャパニーズアニメバージョン」までつくった人が!
選挙の応援が、創作意欲につながっていますね。
おやじの背中
1番人気といわれるボンボン・マルコス氏の街宣車が通るとき、聞こえてくるのは「Bagong Lipunan」という歌です。「新しい社会」という意味で、こちらも口ずさんでしまうようなリズミカルな曲なのですが、じつは昔からある歌のニューバージョンだと知って驚きました。
旧バージョンは、ボンボンの父であるフェルディナンド・マルコス元大統領の時代につくられた歌です。
「共産主義の脅威がせまっている」ことを理由にあげ、1972年に戒厳令をしいたマルコス元大統領は、「経済発展に向けた新しい社会を建設しよう」とうたい、国民の理解を求めました。そのテーマソングだったわけですね。(下は1973年バージョンのYouTube動画)
マルコスを支持する人たちは、「戒厳令下は犯罪もなく、平和でいい時代だった」と口をそろえます。一方でまったく別の意見をいう人もいます。
「高校時代にBagong Lipunanを学校で歌わされました」と振り返る男性(62)は、その後、反マルコスの活動に参加したとして逮捕され、9カ月拘束されて警察から暴行を受けたといいます。「ボンボン陣営がいまこの歌を流しているのを聞くと、とても皮肉な感じがします」。
戦争で傷ついた人が軍歌を聞くような、複雑なものがあると思います。
戒厳令のイメージがある歌をPRしているわけですから、ボンボンは当時をよいものだと考える人たちに、父マルコスのようにやってまいります、と訴えたいのでしょう。
メッセージはこれに尽きるでしょう。
「私は マルコスの息子です」
それぞれカラーもうったえたいことも、わかりやすく違いがみえてきます。
歌ってすごい。