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[パロディ]長いごぼう

 おじいさんが畑のごぼうを抜こうとしましたが、なかなか抜けません。ごぼうはとても長く、地下深くまで伸びているようです。
「おおい、ばあさん、ごぼうを抜くのを手伝ってくれ」
 しかし返事はありませんでした。
「そうだ、ばあさんは去年、ガンで死んでしまったんじゃった。すっかり忘れてた。おおい、息子や、手伝ってくれ」
 しかし返事はありませんでした。
「そうだ、息子は外資系のコンサルティング会社に就職したんじゃった。すっかり忘れていた。おおい、娘や、手伝ってくれ」
 しかし返事はありませんでした。
「そうだ、娘は去年からアメリカの大学に留学しとるんじゃった。すっかり忘れていたわい。わしを手伝ってくれる者はひとりもいない。自分でがんばるしかない」
 おじいさんは仕方なく、一人でごぼうをひっぱりました。
「仕方ない。スマホで米津玄師かYOASOBIでも聞きながら抜くか」
 おじいさんは畑で音楽を流して景気をつけながら、いっしょけんめい、ごぼうをひっぱりました。
 ごぼうはとうとう抜けました。その長いことといったら、おじいさんの背の高さよりも高く、京都銀行のCMに出てくる大根よりも長く、ナベツネやムバラクよりも長いほどでした。
 おじいさんがごぼうの抜けた細長い穴を覗き込むと、穴の向こうからも、こちらを覗き込む目玉が見えました。
「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだと言ったのは、ニーチェだったな」
 おじいさんはため息をつきました。
「しかし今の私を見ていてくれるのは、深淵の奥の目しかいない」


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