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15時の手紙

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ささやかな昨日のできごと。
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#音楽

歌い手の人生のご褒美

妻のみみさんが、秋のコンサートに向けて熱心に楽曲えらびをしている。 古い歌曲がのびやかに流れ、部屋がぐっと格調高く高貴なムードに包まれる。クラシック音楽はぼくにはまるで縁遠い世界だったので、すこぶる新鮮である。彼女は楽譜をテーブルに広げ、時折、口ずさむ。とてもいい。 彼女は、重厚で懐の深い大柄な楽曲に挑みたいという気持を抱いているけれど、ぼくはどこか明るくコケティッシュな雰囲気の小品のほうが、今のみみさんの声質やチャーミングなキャラクタには合うように感じている。 もちろん、

音楽の魂

妻のみみさんが、舞台に上がる日がきた。 新型コロナウイルスで長らく休止されていたコンサートが、久しぶりに催された。 彼女は日ごろから練習に明け暮れていたが、この数日間の追いこみは体調を危ぶむほどだった。 教会のホール。舞台中央にスタインウェイと複数の譜面台。先頭の客席に座る。いちばん近くの席で見守りたかった。客電が消え、奏者が登場し、華やかなドレス姿の妻が現れる。 すっと背筋を伸ばして立つ姿は凛々しく、気品があり、息を呑むほどに神々しい。(うちでは普段着で気ままに過ごすチャ

スピッツの讃歌

スピッツの新譜『ひみつスタジオ』を、Spotifyで聴いている。 今でも新作アルバムが出るとかならず聴く唯一のバンドだ。中学生のころから聴いているので、よく言えば習慣で、わるく言えば惰性で、つど「観測」しているという感覚がいちばん近い。熱心なファンとも言いがたい。 この10年ばかりは、90年代の楽曲のように一度聴いたら耳に残る強力なメロディというより、偉大なるマンネリとでもいうべき円熟した安定感と、大らかな安心感がある。(あまり褒めているように聞こえないかもしれないが、これ