風に吹かれて

風が強い日は嫌いだ
髪が乱れるし、スカートを履いていたらなびいてなびいて歩きづらい。
どこからか、誰かの吐いた唾が風に吹かれて飛んできているかもしれない。

わたしのバイト先は海の真ん中にポツンとある。そこに向かうには海にかかった橋を渡らなければならない。
なににも遮られない橋。
風。
なににも遮られない橋。
太陽。
なににも遮られない橋。
海。

気分がいい日には、すべて爽快、すべて受け入れてしまえる気持ちになる橋だ。
地球よ、私は今日も生きている。
電車の並びを抜かすばばに、地べたを見つめる日々、さようなら。わたしは澄んだ空気をめいいっぱい吸ってめいいっぱい吐く。
ありがとう。感謝。地球に感謝。

でも今日は違った。
なににも遮られない橋。
ベタつく潮風
なににも遮られない橋。
鼻につく海の香り
なににも遮られない橋。
どこにもゆけない閉塞感

海の匂いが鼻につく時は腐った卵のような匂いがする。
腐った卵の匂いを嗅ぎながら誰が爽快などと言えるだろうか。

こんな気分なのは今日、イヤホンを家に忘れて来たせいだ。

海と音楽、これは切り離せないものなのに。
わたしは一人寂しくボブディランを口ずさんだ。


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