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【溺れる君】文潟の歴史

一番最初

番外編

 「ここの先住民だったオーラヴはオーロラを両親と観るのが大好きで将来は天文学者になって世界中の空を観測するのが夢だった」

「しかし、吸血鬼だった両親はハンターに殺され、オーラヴは日本へと売られてしまった。日本国籍をとった彼は朝日百樹へと変わったんだ」

僕はその名を聞いて、ヒュッと変な風に息を吸ってしまった。

トトが関わっているなんて思いもしなかったんだ。

「白い肌に整った顔の彼は女装バーで働き、生活費を稼いでいたんだけど、それに負けないくらいかわいくて本当に女性かと見間違うくらいの人と出会った……それが千佳だったんだ」

カカは男性だったことにも驚いた。

アルファとオメガであれば異性でも同性でもかまわないとは教わったからわかってはいるんだけど。

「百樹と千佳は惹かれるまま付き合い、運命の番になることを決めたんだけど……千佳の家が許さなかったんだ」

なぜならと一息置く万生くんは僕をじっと見るから、僕は息を飲む。

「彼女は御前家の次男で、『女の格好をするなんて病気だ、オメガの恥さらし』と忌み嫌われていたんだ」

雷にうたれた気分になった僕はボウゼンとするしかなかった。

『あら、私と一緒じゃないの』

そう言っていた本当の意味をやっと理解した。

「でも、百樹は諦めず御前家の発展に尽くしたんだ。持ち前の予知能力でね」

予知は真昼がひきついだ能力で、言った通りにやると必ず上手くいくんだって。

「認められた2人はここの領地を与えられて自由にしていいと言われた。だから、この街は世間に見捨てられた方々を救うために出来たんだ」

「そして、文潟は20年の間に世界中で問題になっているものを解消した自由かつ最新の街へと成長したんだ」

キラキラと流れる曲と共に語られた話に僕は感動しつつ、とまどいを隠せない。


 「トトとカカがこの街を作った人なんだよね?」

「うん、それを支えたボクのパパとママは夕凪と苗字をもらったんだ」

少しずつ確認していくことにした僕の問いに優しく答えてくれる万生くん。

「カカが御前家の次男なら、僕の兄ってこと?」

「単純に言うとそうだけど、こう考えれば君の望んでいた通りさ」

僕の望み通り……?

「カカと君は血が繋がっている。だから、君の3人の兄たちとも血が繋がっている証拠になるんだよ」

僕はそれを聞いて、ハッとしたんだ。

「そして君は朝日家の一員だから、そのうちにこの街の重要な役目を務めることになるだろうね」

僕は思わぬ予言に動揺する。

「そんな、僕……オメガだし、まだまだダメダメだよ」

自信がなくてうつむく癖は相変わらず直らない。

 「この街には障壁なんて存在しないって教えたでしょ?」

トントンと肩を叩かれたから、思わず顔を上げる。

細い眉、一重の瞳、筋が綺麗な鼻、適度なバランスの唇を持つ万生くんの顔がとてもカッコよくて目を奪われそうになる。

「万生くんの方がカッコいいし、頭も良いから、きっと良い役職に就けると思うよ」

お世辞じゃなく、本当に思って言ったのに、鼻で笑う万生くん。

「そしてボクはベータだけど、そういう問題じゃないんだ」

万生くんは僕を抱きしめて、耳元でこうささやいた。

「暴れん坊のアルファ……朝日陽太を嗜めるのは君しかいないんだよ」

僕は大きく身体を震わせた。

 万生くんが右手を伸ばすと、1冊の本が本棚から自ら飛んできた。

「αの対処法の書籍を貸すよ……これはたぶん1日では読み切れないだろうけど」

ほどほどにしてくれよとため息を吐く万生くんにまた首を傾げた。

「首の痕、丸見えだから」

笑いながら首元を指差すからそこを押してみると、身体がズクンとうずいたんだ。


 「午後は絵本を作っているんだってね」

コーヒーとフルーツサンドを食べながら、雑談をする万生くんと僕。

「僕を主人公にしていて、3人の得意分野を活かした作品なんだ」

日本みたいに卒業作品というわけではないんだけど、作って発表するのが今の僕らの夢なんだ。

「文潟の明日を担う四兄弟のものだからね……楽しみにしてるから」

「もちろん、最初にひろうするのは万生くんと志朗さんだよ! それは絶対だと夜彦と言ってるから」

ありがとうと微笑む万生くんを見て、僕は恵まれているなと改めて思ったんだ。

続き

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