【溺れる君】真実
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番外編
チュッ
つむじ
チュッ
額
チュッ
鼻
チュッ、チュッ
左頬と右頬
チュッ
唇
ジュッ
そして首筋には強く吸いつく。
ふふっ
満足したように笑うようちゃん。
ああ、もう朝なんだ。
「今日もかわいいね」
髪をなでながら、優しい声でつぶやく。
「なんでこんなにかわいいんだろう……食べたくなるよ」
耳の裏を滑って、顎をなで、僕の口元をつつく。
もう起きてるけど、寝てるふりをして微笑む。
その一瞬で人差し指が挟まれているから、いつもなめてしまうんだ。
「食べられちゃった♪」
またふふっと笑ったようちゃんは僕の額にくっついてきた。
「愛してるよ、マイハニー」
いや、違う。
ようちゃんじゃない。
理由は2つ。
1つ、咥えた人差し指がいつもより短く、第二関節のこぶが硬くて大きかったから。
2つ、ごっつんこした額の位置がいつもより低く、やりにくそうだったから。
2つ目から夜彦の可能性は消え、確信した。
この人は……真昼だ。
そっか、今日こそ僕は殺されるんだ。
「これで、ゆめごこちのまましねるからな」
こんな柔らかい声で話す真昼、珍しいな。
「ぜっちょうのあと、くびしめたるから。まずはゆっくりきもちよくしたる」
イッヒッヒって意地悪な笑い方はいつも通りだ。
ガブッ
いきなりの胸の痛みになんとか耐えたけど、顔はしかめてしまう。
「ごめんな、かげんがわからんねん」
おかしいな、真昼が弱気になっている。
「だってぼくぅはほんま……ネコやねんもん」
ネコ……まさか。
「えらそうにするやんか、にいちゃんなら……それとこれとはちゃうやん」
受けだったんだ。
まぁ、ベータはどっちもありらしいからね。
「さいごやから、すなおになりたいねん。めちゃんこ、あいしたいねんもん」
ああ、まだ夢を見ているんだ……きっと。
「やっぱり、おまえはぼくぅたちをつぶすためにおくらるてきたすぱいやった。ほんまのなまえは""御前五鬼(おんまえごき)らしいで?」
ああ、やっぱり。
僕はあなたたちの敵だったんだ。
バカだったな、愛してくれると思ってたなんて。
愛してもらえるつもりでいたなんて、本当にバカだったな。
でも、最後だから。
最後まで夢を見たいから、言ってみるんだ。
「キス……し、て」
わざとがさがさした声で寝言のように言う。
数秒、黙る真昼。
ダメかな。
「ええよ……ほれんなや?」
フッと笑い、気配が近づいてきた。
プチュ
僕の口を食べるようなキスをする。
プチュ
右に傾ける。
プチュ
今度は左。
「……あかん」
僕をきつく抱きしめる真昼。
「めちゃんこ、すきやわ」
優しくて
あまくて
低い声。
「なんでおんまえやねん」
声が震え始める。
「なんで! ほんまのおとうとやなかったんや!!」
そして、怒っている。
「なんで……せいかくわるないねん」
御前の兄たちみたいになっていたら、すぐに死んでいたのかな。
「はじめてのときに、まよわずやればよかった」
力が強くなる。
「そうすれば、じょうなんてわかんかったのに」
そうだよ。
迷うことなんてないんだ。
だから、今からでも悪くないから。
「はよせんと、やーひがきてまう」
焦った真昼は僕のぺニスをいきなり掴む。
「まじか……とろとろやんか」
そりゃあそうだよ。
オメガだから。
滝のように出ている先走りを絡め取り、お尻の穴へ塗り込む。
「ずぶずぶはいってくやん……かんじてんの?」
肉壁を擦りながら指を構わずに入れていくから、静かに息を吐く。
「ようのしつけ、ちゃんとしてたんやな」
切なく笑う真昼の本心はわからなかった。
グググッ
許可もしてないのに太いものが侵入してきた。
あの長いぺニスがまさか僕の中に突き刺されるとは思いもしなかったな。
"わかれはいつもついてくる"
夜彦が歌いそうな暗い歌を口ずさみながら、真昼は抜いていく。
"しあわせのうしろをついてくる"
今度は奥へと進んでいく。
「あかん……めちゃんこ、きもちええ」
本当に気持ち良さそうにハハッと棒読みで笑う。
「しめつけんなや……おわったらしぬんやで?」
嘲笑いながらも、穏やかな声で言うから変な感じ。
グチャ……ズブズブ……グチュリ……ズチュ
だんだん生々しい音が聞こえてきて、僕も本当に気持ち良くなってきた。
もう、死んでもいいよ。
ここに来てからの僕の人生はあまりにも幸せ過ぎた。
好きな人といれて
好きなくらい学べて
イヤになりそうなくらい愛をもらった。
もう、なにもいらない。
これ以上もらったら、爆発しちゃうから。
「あっあッアぁ……ンアアアアアッ!」
気持ち良さが溢れるくらいに喘ぎ、吐き出した。
身体はガクガクするほど震え、動く力を失うくらい力が抜ける。
「いくの、はやすぎやわ」
嫌味を言うくせに楽しそうに抜き出す真昼。
「かわええ……ほんまに」
僕の髪を撫で、耳の後ろを伝い、首に手を置く。
僕は完全に力を抜き、息も吐ききった。
あとは、力を込めるだけ。
「こいつは、うらぎり、もの、や」
また声が震え始めた。
「ぼくぅしか、ころせ、へんね、ん」
あと少しだよ。
「ころさ、な……あかんねん」
気配が遠ざかる。
「なんで! やれや、あほぅ!!」
なぜか真昼自身を殴る音がした。
「こいつは! こいつは……てきや」
だから、やってよ。
頑張れ。
「……ファイト」
真昼がよく僕に言ってくれていた言葉をつぶやく。
僕が九九に苦しんでいる時など、勉強が上手くいかない時に歌ってくれていた歌詞。
「ファイト!」
僕は真昼の手をなんとか探す。
「ゆうちょ……ここやで?」
真昼は震える手で僕の手を掴む。
僕はその手をまた首へと手繰り寄せる。
「大丈夫、まあにぃは悪者をやっつけるだけだから。それが:使命(さだめ)」
僕は目を開き、真昼をじっと見つめる。
「僕が死ぬ……それが:運命(さだめ)だから」
僕は穏やかに微笑んだ。
真昼は目を見開いたまま、固まったんだ。
「僕の敵は僕自身だから」
御前が朝日家に行った悪行の罪は、僕が背負う。
それが僕の生きる意味だったから。
「そんなさだめはたちきったる。ぼくぅがかみやからな」
真昼は瞳を緑色にしてニヤッと笑う。
僕の脳ミソの隅から隅までふわふわしたものが駆け巡る。
「おまえはなにもしらんかったんやん。それなのに、すべてをせおうなんて、あほやわ」
イッヒッヒと笑い、僕の額にデコピンをする真昼。
「いたい……」
力加減がバカだからかなり痛かった。
「ええか? こせきがどうだろうが、じんせいさいあくだろうが……もうおまえはあさひゆうまや。ただ、いきてくれ」
じんじんする額に今度はキスを落としてきた。
「それだけでええから、おねがいや」
抱きしめられて首元に触れた頬が冷たく濡れている感覚がある。
「ほんまに、いきて……くれ」
ああ、やっぱり夢だ。
真昼が
僕を恨んでいたはずの真昼が
許してくれるなんて。
でも、夢だから。
僕は受け入れようと思う。
現実では叶うはずがないから。
僕は真昼のことが好きなんだけどね。
「ありがとう、まあにぃ……好きだよ」
僕の瞳からも冷たい雫が溢れる。
ぽろり
また、ぽろり。
一番はやっぱりようちゃんだけど。
夜彦も真昼も好きだよ。
ごめんね、このまま好きでいいかな?
僕があなたたちの弟であるかぎり。