【メタファー:リファンタジオ】ストロールのアドリブ力がおかしい
アトラスの新作RPG、メタファー:リファンタジオをクリアした。非常に楽しめたので感想記事でも書こうと思ったのだが、それにあたってゲームを振り返っているうちに、プレイしながら常に頭のどこかにあった突っ込みがもはや無視できなくなっていることに気が付いた。
いくらなんでもストロールが有能すぎる。
確かに公式サイトの紹介文にも「頭が切れる」と言及されているし、設定的に年の割に優秀でも不自然ではない。そのことでストーリーの面白さにも貢献してくれている。
だが正直言ってこの方向性でこのレベルの頭の切れは予想しておらず、中盤以降は感心を通り越して半ば引きながら活躍を見守っていた。どの局面でも最低1〜2回はストロールの活躍があった気がする。
この記事は1周目クリアまでの間に蓄積された「ストロールの能力、主にアドリブ力が高すぎる」という突っ込みである。
一言でアドリブ力と書いたが、分解すると咄嗟の機転であるとか、発想力、行動力、度胸、弁舌、そしてもちろんアドリブを可能にするスペックなどの集合だと思われる。しかもこれからも全然成長しそうな気配がある。あいつのポテンシャルはおかしい。
異変に気付く
冒頭で潜り込んだ募兵舎で出会う青年、レオン・ストロール。警備に向かった砦で共にニンゲンとの戦いに巻き込まれて親しくなり、「ルイに死の呪いをかけられた王子を救う」という任務に協力してくれる。主人公の次にアーキタイプに目覚める相棒枠、正義感と責任感の強い言動、貧しい田舎貴族の出身でその領地も尊敬する両親も今は無い…という生い立ち、これらの情報が最初に与えられるおかげで「真面目な性格で損して出世できないタイプの善人貴族キャラかなあ」などと錯覚してしまうがこれはトラップである。
ん?と思い始めたのは勇者品評会に向けて王都を発ったあたりだ。怪物の首を持ってきなさいという課題に対し、ストロールは街を苦しめる凶悪犯ハイザメを捕まえて突き出す案を出す。怪物の、という指定をハナから無視するわけである。失格になったら…と懸念する仲間に、俺たちの目的はルールの範囲内で点を稼ぐことではなく、ルイの目に留まって上手く取り入ることなのだから、と説得する。目ぼしい魔物は先を越されている以上、注目を集めるためにはこれが最適解なのだと。
確かに半端なモンスターの死骸を提出するくらいなら、生きて口をきくヒトを連行した方が目立つに決まっている。
話の流れからすると、募兵舎にてハイザメの手配書が売れ残っているのを主人公と一緒に目にした時に既にこの案を思いついている。
生真面目キャラにしては柔軟すぎないだろうか。
ペルソナで言うとポジションは直近で坂本竜司、外見と口調がやや真田明彦っぽいのでその印象に引きずられていたが、出してくる案はダーティーな発想をするようになった新島真である。もしかして頭脳派担当が加入するまでの繋ぎ(ペルソナで往々にしてある)などではなくストロールこそがその役回りなのかもしれない。マルティラに向かいながら私は少し認識を改めた。
ブライハーヴェンの品評会本番、この時点の目標であるルイへのアピールのためだけでなく、王位争いにおいてもストロールの方針は正解だったことが分かる。言ってしまえばフォーデン派が勝手に主催しているだけの競技会であり、これに勝てば王になれるというものでもない。彼らの定めたルールに反していようが民にウケた方が勝ちなのだ。
そして結局のところ、「怪物の首」の討伐難易度について正確な評価を下せる一般人などそういない。実際、会場での反響の大きさはビジュアル的なインパクトか「人々の悩みの種を候補者が退治してくれました」のようなストーリーに拠っていた。同じくらいの死闘を繰り広げても単なるモンスター討伐では目立てなかっただろう。
せっかくニンゲンを討伐したのに、誰も見たことがない、しかもわざわざ小さな首だけを持参したグローデルは罠にはまった典型だ。ニンゲンのデザインの気色悪さは各パーツの組み合わせにあるのだから丸ごと持ってくりゃよかったのに。本人のミスではあるのだが、視覚的な説得力に欠けると見るやすかさず「証拠はあるのか」と声を上げて空気を一気に否寄りに持っていったストロールの機転が本当に油断ならない。
グローデルに限らず、参加者はみな「首」「怪物」の指定を律儀に守っていた。支持率2位のルイがそもそも競技会を黙殺しているくらいなのだからそこまでお行儀よくやらなくてもと思わないでもないが、フォーデンやルイほど支持を集めていない立場で堂々とルール破りをするのは度胸が要るのかもしれない。ストロールがおかしい。
カラドリウス潜入作戦
結果的にハイザメは犯人ではなかったが、それ以上の大物を連れて行くことに成功し、無事にルイに認められ部下として迎えられることになる。そして、ルイが私室に置いていると思われる呪いの設計図を入手するミッションが始まる。
この頃からストロールが本格的に作戦立案担当になってくる。面白いことに、参謀役でありながら事前に完璧な計画を立てておいてその通りに事を運ぶようなことはしない、というかできない。そもそもあらゆる陣営がそれぞれの思惑で動く中で(この時点では)後ろ盾のないエルダのガキがルイを出し抜こうとしているのだから、成功間違いなしの作戦なんてもんはないのである。完璧に拘るのではなく、とりあえず少しでも可能性のある策を無から生み出せるかが肝になる。
作戦立案におけるストロールは、「このままでは全員解答用紙に何も書けずに零点になってしまうところを、どうにか赤点回避できる作戦を出力する」とでもいうような才能に溢れている。欲をかいて満点の答えを探していたらテスト時間が終わる。そして、解答を記入しながら足りない点数分を可能な限りどうにかする臨機応変さにも溢れている。
とにかく何かしら動き出すことができるのである。動いてしまえば土壇場の判断力とリカバリー力が凄まじいので、どのターンでも失点を最小限に抑える選択ができる。
このあたりの才覚は今回の潜入でも充分発揮されているが、最も輝くのは物語が後半になってからである。
話を戻せば、ストロール発案の潜入作戦は「自分たちのお披露目も兼ねて行われるルイの夜会の最中に一人が抜け出し、あらかじめ確保しておいた潜入経路で私室に入る」だ。絶対どっかで失敗するだろこの作戦。だが、じゃあ他に何か案があるのかと言われると無い。目的が無茶なのだから綱渡りをするしかないのだ。
ストロールが偉いのは、自分が言い出した危なっかしい作戦のフォローは責任を持って自分でこなすところだ。潜入経路確保の際に見張りの兵士を言葉巧みに酒に誘って隙を作るくらいのことは当たり前にやってくれる。夜会当日、潜入役の主人公が場から消えると、後の仲間はひたすらルイたちの気を逸らして時間を稼ぐことになる。そこでストロールがどうするのかと思えば、ルイに真っ向から近づき、かつて自分の故郷と領民を見捨てたことについて問い質すのである。
思えば初めてルイに接触してから懐に入るまで、ストロールは外交でもチームに貢献していた。率先してルイと会話し、心にもない共感を語りつつ下手に出過ぎて軽んじられることもない絶妙なラインを保っていた。こいつ話術と演技力まであるのかよ。半分呆れながらも、「演技とはいえ仇の部下になりきるのは精神的に辛いのでは?」と少し心配していた。ストロールが何かミスを犯すとすればそれが原因だろうなと予測もしていた。ここに至ってもまだストロールを甘く見ていたとしか言いようがない。
よく言われるように、嘘をつく時にはなるべく真実を混ぜて語るのが良いとされる。悲しみや怒りは本心なので、このタイミングでルイにぶつけた真意は見破られないまま注意を引くことができる。ストロールは悲惨な過去とそれにまつわる自身の感情を一歩引いて客観視し、利用することまでできるようになっている。本編が始まる前に成長イベントを2つ3つ済ませてきている可能性すらある。
この記事の最初に、ストロールは一見真面目故に損をするタイプの貴族に見えると書いた。フィクションの貴族キャラは往々にして善良さと政治力が反比例しがちである。良識や領民という守るべきものがハンデになるからだ。しかしストロールの場合、心から貴族的精神を尊び領民を思い、それが戦略上マイナスに働くどころかプラスになっている。嘘がないから信頼されるし、腹が据わってブレない原動力にもなる。
しかも後に明かされるルイの過去を踏まえると、この時のストロールは知る由もないが、故郷を奪われた憤りの率直な表明はルイの心証としてもかなりポイントが高かっただろうことが窺える。一行の中では最もルイに対する敵意が強いくらいなのに、ルイへの対応で毎回ベストな選択をしている。
ビルガ島の槍探し
潜入作戦は成功したが、入手した設計図は王子の呪いの解呪ができるものではなかった。ひとまずルイの命令に従い、次の競技会のお題に向けてビルガ島の神器を調達することになる。
この時期になると後半の加入キャラたちも一通り顔を出し、行動を共にするようになる。世界観が世界観なので今作のキャラクターは全体的に頭が良いが、人数が増えてもストロールは不動のブレインとして収まっている。というかストロールが何でもやってくれるもんだから完全に任せられている。神器回収だけでなく生贄のユーファを助けたいとなった際、監視のマグナス兄弟向けには下手に情に訴えず「神器の場所は巫女のユーファしか知らないから」と説得するし、負傷した長を助ける時にも冷静にメリットを指摘する。ルイから離れたので大がかりな策略を巡らせる必要は減ったが、代わりにさりげない誘導をしてくれる。ビルガ島編に限らず、この手の細かいナイスアシストまで数えていくときりがない。後から仲間になったメンツはストロールのことを参謀役として独自にリクルートした人材とでも思ってるのではないだろうか。
神器の槍を手に入れ、後は期日までにルイに届けるばかりという時、それが王の魔法を無効化し候補者を殺せる武器だと判明する。こうなるとにわかにルイの暗殺が現実的なものになってくる。設計図が駄目だったので、術者と思われるルイを叩くことで呪いを解くのだ。
ストロールはここの作戦も立ててくる。内容は要約すると、偽物の槍をルイに渡し、アルタベリーの歌劇場にてジュナが歌っている間に客席のルイに本物をぶん投げるというものだ。こんなの9割失敗するだろ。しかし大人しくルイに槍を献上すればルイかフォーデンが王になるのを見ているだけである。例によってやるしかない。
ついでに言えば、ユーファの何気ない一言から竜神の槍に王の魔法による守護を霧散させる力があると最初に気付いたのもストロールだ。各分野でそれぞれ優秀なメンバーが揃っているのになぜか頭脳労働を一手に引き受けている。技術面でのこの役回りはニューラスである。
アルタベリーへ
そして作戦は決行される。何が驚くって槍自体はルイにヒットしていることである。今振り返るとルイは敵が策を弄してこようが圧倒的なパワーで堂々と跳ね除けることを売りにしており、ある程度頑張りと気概を認めさせれば割とこっちの策には乗ってくれる。その「ある程度認めさせれば」の前提条件を満たす裏にはだいたいストロールの奮闘がある。
上でも書いたが、ストロールの考える作戦はかなりストロール自身のアドリブ力とスペックに依存している。本来はどちらかというと戦場に立ちながらその場に応じて指示を飛ばす戦術面のブレインであると思われる。後方にいて「誰がどうやっても成功しそうな安全策」を考えるのは恐らく苦手だ。
しかし、そういうところが対ルイにおいて妙に相性がいいのである。一行に対するルイの挙動も大概自身のスペック任せなので、仕掛ける側と迎え撃つ側が同じ土俵で戦えている。捨て身で挑んでくる者を策略なしであしらえないようでは強者失格、とか思っている節がある。これがフォーデンのような、本人は陰に隠れて権謀術数を巡らせるタイプの相手ならルイの反応はまた違っただろう。ストロールにそんなつもりはないのだろうが、度胸を必要とする無茶な作戦はいい感じにルイが迎え撃ちたくなる手であり、結果的に活路が開けていたのではないか。
そういうわけでいい線は行ったものの、ルイを倒すまでには至らない。結局は正面対決となり、槍によるダメージのおかげもあってなんとか勝利する。そこまではいいのだが、倒したルイが王の魔法を破れる槍と共に舞台に落下するという大ピンチに陥る。犯行と凶器とトリックと物的証拠がセットで衆目に晒されたようなものだ。
ここでストロールが作中一番と言ってもいい冴えを見せる。今名乗り出なければ全てが終わると即座に判断して現場に向かい、「故郷の仇であるルイを討つ機会をずっと窺っていた」と真実に限りなく近い内容で一席ぶち、槍の所有権を主張するのである。
この瞬間に限って言えば頭の回転の速さは全登場人物でもトップクラスだったのではないか。100人中99人はここで勝算もないのに一旦引く選択をしてしまうはずだ。引いてそれでどうなる?今やるぞ、と考えられるのがストロールである。
実際、後から見てもストロールの判断があの時点での唯一の正解だった。あそこで姿をくらましていればどの立場の者からも信用を失い、少しでも時間を空けたが最後、何をどうしても挽回できなくなっていただろう。
突発的な事態に対して今を逃したら再起の芽はないとすぐさま判断し、その場で打てる手を思いつき、最短で仲間を説得し、疑惑とパニックに満ちた観客の前に出ていき、即興の演説で自分たちの立場を確保してのける。本番に強すぎる。八方塞がりだがここで苦し紛れにでも動かないと本当にチャンスが無くなる、という時に打って出られる度胸と口八丁とアドリブが備わっていて本当に政治家とかに向いている。俺には血筋しかないなどと謙遜している場合ではない。
ここから物語は佳境に入る。フォーデンが死に、死んだと思われたルイが姿を現し、レラが担ぎ上げられ、そのレラも主人公に希望を託して退場する。そしてルイによってニンゲンに変貌させられた主人公は、積み上げてきた支持を一気に失う。
主人公のニンゲン化に最も動揺していたのは、故郷ハリアをニンゲンによって滅ぼされたストロールだった。これはいよいよ一揉めあるかと覚悟していたら、敗走の末に辿り着いたエルダの古仙郷では早くも持ち直していた。これからは何があっても驚かないと謝るストロールだが、仮に剣とか抜かれていたとしても全然許容できる。
古仙郷のイベント以降は改めて主人公VSルイの対決の構図になるが、ストロールは宣言通り、信念のぶつかり合いにおいて一切ブレない精神的支柱の役割も果たしてくれる。
レスバまで上手い
終盤は作戦がどうのではなく、空の王宮に消えたルイの元に乗り込んでぶっ飛ばし、真の王子であった主人公を戴冠させることが最終目標となる。ニンゲン化の一件で王子の支持率は失墜し、王都に姿を見せただけで罵声が飛んでくるほどに逆風が吹いている。
直接的な危害を加えかねないほど敵意に満ちた群衆に向かって、罵詈雑言が返ってくるのは百も承知で「王子殿下がお戻りになった!」と叫べるストロールはやはり政治家に向いている。効果は無くとも明言しておくことに意味があるのを分かっている。これまでも一貫してレスバが強かったが、いよいよルイの思想と正面から殴り合う局面が来て頼もしさがいや増している。
故郷の仇であるルイが、自身も理不尽に故郷を焼かれた過去を持っていた。これを聞いてもストロールは全く怯まない。返す刀でルイの理想世界の歪みを指摘する。思えば事態がここまでのっぴきならなくなる前にも、ルイ支持者に向かって端的に反論していた。
ルイのしたことが許しがたいというだけでなく、あるべき国の姿を高度な次元でずっと考えてきたのだろうなと思う。無視されるのは予想済みとはいえ、血を流さず王笏を手放す道もあるとルイに提示するほどだ。
故郷が炎に包まれた夜に囚われているという言葉は、同じ体験をしたストロールならではだ。だがこの問答において、ルイに対して直接ハリアの話を持ち出さなかったのは凄い。私はよほど、故郷を人為的に焼かれてもストロールは闇堕ちしなかったが?などと突っ込んでいたが、そんな浅いレベルで張り合わずともルイの思想を否定することはできるのだ。この世界では生まれた場所を失った者など無数にいて、その全てに自分の経験を当てはめて物を言うことはできないと理解しているのかもしれない。
本筋には関係ないが、ストロールは王宮で見せられる前王の幻影に対してもキレのあるコメントをする。
頼れる者がいなかった前王に同情しつつも厳しいのは、貴族的精神と仲間への思いやり、そしてストロール自身が親から子への愛情を知っているからなのだろう。それにしても、生前の苦悩を映像で見せるより言うことあるだろはあまりにもごもっともでそんな場合ではないが笑うしかない。
尊き者の使命
鎧戦車に迫るニンゲンの群れから主人公だけは生き延びさせる判断をし、ハイザメとバジリオの援護でルイの鎧戦車に飛び乗って剣を突き立てたストロールは最高に輝いていた。
これまでも何度となく一行を助けてきた、ストロールの土壇場において最善の行動を取れる能力は、かつてニンゲンに襲われる領民たちを前に何もできなかった悔いから磨き上げたものなのではないだろうか。「やっと俺も本当の貴族に…」の場面は彼がラスボス戦を控えたRPGのプレイアブルキャラでなければそのまま退場していてもおかしくない演出だったので、生きていてくれて本当によかった。
最後に
打つ手なしの状況で、不完全でもとにかく作戦を構築し、案の定予定通りにいかないが発案者本人が臨機応変にリカバリーする。
このパターンの参謀は地味に珍しいなと感じたが、ストーリーを盛り上げる上ではなかなかいいのかもしれない。
いかにも上手くいきそうな計画とは違って緊張感を保つことができ、失敗しても駄目で元々なので落胆が少ない。そして言い出しっぺが自力でどうにかするのでキャラクターへのヘイトが溜まらない。
結果的に大車輪で働くことになったストロールへの突っ込みのつもりで書いていたら、ストロールをひたすら褒める記事になってしまった。
主にメインストーリーにおける活躍を色々挙げてきたが、これはストロールの長所のあくまで一部である。普段からノブレス・オブリージュを有言実行しているし、公正な姿勢で他人を思いやれるし、料理もできるし、ギャグもこなす。なまじ何でもできるが故に何でもやらされてしまう悲哀も一種の面白さになっている。
今作の魅力的なキャラクターの中でも、特に気に入っているうちの一人だ。いつか悲願である領地の再興を果たせるように祈っているが、応援するまでもなく確実に再興できるだろうなと確信もしている。
この記事で少しでもストロールの、そしてこのゲームの魅力を伝えることができれば幸いである。