【論文レビュー】「真」のリーダーシップを求めて:オーセンティックリーダーシップ
おはようございます。
今週から、少しずつ記事を書き始めたいと思います。
今日は、リーダーシップの教科書といえるNorthouseのTheory and Practiceから、オーセンティックリーダーシップ(Authentic Leadership)についてです。
参考書籍
Peter G. Northouse, 2021, Leadership: Theory and Practice (9th ed.) Chapter 9, SAGE Publications
石川淳,2022,「リーダーシップの理論 経験と勘を活かす武器を身につける」,中央経済社, p.168-175
ひとことまとめ
オーセンティックリーダーシップは、「真摯で誠実なリーダーシップ」である
どんな内容?
オーセンティックリーダーシップ(AL)は、リーダーが“本物か”、“信頼できるか”に焦点を当てた新しい研究分野のひとつです。
書籍としての発表は、2003年にメドトロニック社のCEOであったBill Georgeがはじめに提唱しました。
ALは、2000年代にアメリカで起きた粉飾決算による企業へ不信感や、9.11同時多発テロによる社会不安を背景に、“倫理観を持った真のリーダーシップ”を求めるニーズに応えるものとして注目されています。
定義
ALには未だ確立した定義はなく、研究者によってさまざまな表現がされています。実践的、理論的に研究がすすんでおり、それぞれの代表的な定義は以下の通りです。
1)実践的アプローチ:「自らの信じることに忠実に行動し、他者との関係において誠実で透明性のあるリーダーシップ」(George, 2003)
2)理論的アプローチ:「ポジティブな心理的能力と、強い倫理観から促進されるリーダーの行動パターン。リーダーはフォロワーとの協働で、自己認識、内在化された倫理的観点、関係の透明性、バランスの取れた処理を促進し、自己成長を促す」(Walumbwa et al., 2008)
ちょっとわかりづらいので、それぞれ何がわかったのか詳しくみていきましょう。
実践的アプローチ:リーダーシップの特性を明らかにした
RQ:オーセンティックリーダーの特徴は何か?どのようにALになれるのか?
方法:125人の成功したリーダー*へのインタビュー(*老若男女さまざまな人種、宗教、社会・経済的背景、国籍のリーダー、その半数はCEO、残り半数は、営利・非営利団体に属する)
結果:ALには、目的、価値観、関係性、自己規律、真心の5つの特性があること、また各特性を補完する関連特性がある。(George, 2003),(George & Sims, 2007)
理論的アプローチ:リーダーシップの理論的枠組みを明らかにした
RQ:オーセンティックリーダーシップはどのようにリーダーの中で発達するのか?
方法:先行研究レビュー
結果:オーセンティックリーダーシップには4つの構成要素があり、リーダーの持つポジティブな心理的能力、倫理的な判断力がそれらの発揮に影響を及ぼす。そして、リーダーの人生で起こる重要なイベントの経験と振り返りが、価値観や自分が何者であるかを明確にするきっかけとなり、ALの発揮に寄与する。(Walumbwa et al., 2008)
理論的アプローチは、変革型リーダーシップ研究でALが言及されたことの流れを汲み、実践的アプローチと同時期の2003年頃からLuthans & Avolioによる研究をはじめとして本格的に発展していきました。
具体的には、ALの構成要素はこんな感じです。
また、理論モデルが開発された際にALQ(Authentic Leadership Questionnaire)と呼ばれる尺度も開発され、この4つの構成要素の発揮を自己評価・他者評価で可視化することができるものとなっています。
学び
社会のニーズが高まる”真のリーダーシップ”であるALの発揮には、リーダーはこれまでの経験に基づく自分らしさを持ちつつも自身の行動の正しさを自問しつづける倫理観が大切であることを学びました。
一方で、価値観が多様化し、D&Iが重視される現在において、リーダーが「誰のため」「なんのため」といった目的をどこに置いて判断していくかには難しさもあると感じました。