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【論文レビュー】リーダーのパーソナリティがフォロワーの印象を決める:サーバントリーダーシップ

この8月は、大学院の夏期集中講義として「リーダーシップの理論」を学びました。その中で、特に深掘りしたいなと思ったリーダーシップスタイルに少しずつ触れていきたいと思います。今回は、「サーバントリーダーシップ」です。
以下の図を見て、どんな印象を持ちますか?世間一般のリーダー像とはおそらく異なるであろう、サーバントリーダーシップとリーダーのパーソナリティについての論文を見ていきましょう。

石川 淳, 2016, リーダーシップの理論 p.162

参考論文

Hunter, E. M., Neubert, M. J., Perry, S. J., Witt, L. A., Penney, L. M., & Weinberger, E. (2013). Servant leaders inspire servant followers: Antecedents and outcomes for employees and the organization. The leadership quarterly, 24(2), 316-331.

ざっくりまとめ

  • サーバントリーダーシップは、リーダーが他者、特にフォロワー、顧客、コミュニティの利益を優先するリーダーシップスタイルである。米国の通信会社AT&Tに長年勤めた勤務経験と信念をもとに、権力依存のリーダーシップへのアンチテーゼとしてGreenleaf(1970)が初めて概念化した。サーバントリーダーシップの構成要素は、Liden (2008)らによって開発された感情的癒し、コミュニティへの貢献、概念化スキル、エンパワーメント、フォロワーの成長・成功の促進、フォロワー最優先、倫理的行動の7つである。

  • サーバントリーダーシップは、リーダーの行動がフォロワーに模倣され、他の同僚や顧客に対する奉仕的な行動となるという「Cycle of Service(奉仕のサイクル)」を生み出し、これは社会学習理論にも裏付けられる。一方、従来の研究はリーダーシップ構成要素の開発に焦点を当てたものが多く、フォロワーに及ぼす影響の検証は不十分だった。

  • 本研究では、リーダーの性格特性がフォロワーのサーバントリーダーシップの認識に与える影響、サーバントリーダーシップが従業員の離職意図や仕事への関与に及ぼす影響、サーバントリーダーシップが生み出すサービス風土がこれらの要因と組織の成果の間にどのような媒介的役割を果たすかについて検証した。

  • 結果として、サーバントリーダーシップとリーダーの協調性には正の相関が、外向性には負の相関が確認された。また、個人レベルでのサーバントリーダーシップは、フォロワーの離職意向の低さや離脱行動の少なさと正の相関があった。組織レベルでは、サーバントリーダーシップとフォロワーの援助行動の正の相関が示され、離職意向や販売行動への影響がサービス風土によって媒介されることが示された。

どんな内容?

リサーチクエスチョン

  • リーダーの性格特性である協調性と外向性は、従業員によるサーバントリーダーシップの認識にどのように影響を与えるか

  • サーバントリーダーシップは、従業員の離職意図や仕事への関与にどのように影響を与えるか

  • サーバントリーダーシップが生むサービス風土は、従業員の行動や組織のパフォーマンスにどのように影響を与えるか

研究に関連する概念の定義

  • サービス風土(Service Climate):顧客サービスに関連する方針、実践、および手続きがどのように奨励され、支援され、期待されているかについての従業員の共通認識

  • 組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior :OCB):正式な報酬システムが伴わない個人による裁量的な行動。同僚への協力・支援行動や同僚の士気を高める行動が含まれる

  • 社会学習理論(Social Learning Theory):Bandura(1977)による、個人は他者の行動、態度、結果を観察し、ロールモデルとして模倣することで学習するとする理論

結論

本研究では、以下の対象者において、リサーチクエスチョンに関連する10の仮説検証が行われた。

調査対象者
米国の小売店に勤める以下の社員

  • リーダー(店舗マネジャー):リーダーシップを発揮する対象

  • フォロワー(従業員):主に顧客対応の販売職に従事する部下

  • 地域マネジャー:店舗マネジャーの上司

結果
サーバントリーダーシップとリーダーの協調性には正の相関が、外向性には負の相関が確認された。また、個人レベルでのサーバントリーダーシップは、フォロワーの離職意向の低さや離脱行動の少なさと正の相関があった。店舗レベルでは、サーバントリーダーシップとフォロワーの援助行動と正の相関が示され、離職意向や販売行動への影響はサービス風土によって媒介されたが、店舗の売上成果との相関は媒介されなかった。地域マネジャーがサーバントリーダーシップと売上成果を評価した場合にのみ、直接的な相関が確認された。

これらの結果から示されたモデル図は以下の通りである。

p.317

考察

協調性のあるリーダーは、他者との調和を重視し、社会的な調和を促進するための行動をとる傾向があり、フォロワーがサーバントリーダーシップと認識し、それを模倣したいと望む行動と関連している可能性が高い。一方、外向的なリーダーは報酬や認識を得るための行動が、サーバントリーダーシップの価値観と矛盾するため、認識されにくい。
今回の結果は、サーバントリーダーシップの先行要因として協調性が重要であることを示唆している。また、今回の結果ではサービス風土が、援助行動や販売行動といったフォロワーの行動に与える影響を媒介することも示し、サーバントリーダーシップが組織全体の成果にどのように貢献するかを理解する一助となる。

学び

リーダーの持つ性格特性が、サーバントかどうかフォロワーの印象を決めるという結果が面白かったです。私がサーバントリーダーシップが興味深いと感じた理由として、支援重視型で自分でも発揮できるかもと思ったからなのですが、単純に特徴を体現しようとするだけではダメで、場面に応じたリーダーシップ発揮は簡単ではないなと改めて感じました。
また、私は「外向性」にアクティブ、前向き、社交的とポジティブに評価される良きものという認識を持っていたのですが、「あの人は報酬や認識を得るために社交的なのだ」と利己的とみなされる可能性もあると学びになりました。職場環境で形作られた自身のバイアスにも気づきを得ました。


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