【論文レビュー】メタアナリシス:リーダーシップ開発研修の効果
今回は、リーダーシップ開発研修の効果についてのメタアナリシスです。
人材・組織開発において非常に重要である「リーダーシップ」開発ですが、その始点となる研修をどのように設計されていますか?どのような点が研修設計のポイントとなるのか、先行研究の分析結果を見ていきましょう。
参考文献
Lacerenza, Christina N., Denise L. Reyes, Shannon L. Marlow, Dana L. Joseph, and Eduardo Salas. 2017. Leadership Training Design, Delivery, and Implementation: A Meta-Analysis. Journal of Applied Psychology 102(12): 1686-1718.
リーダーシップ研修の設計、提供、および実施:メタアナリシス
どんな内容か?
リーダーシップ研修の設計や実施に関して、どの要因が効果を高めるのかを包括的に明らかにすることを目的としたメタアナリシスである
ニーズ分析、複数の学習方法の使用、分散型セッション、フィードバックの慎重な設計などの要素が研修成果を最大化することが示された
リーダーシップ研修の長期的効果と感情的側面への配慮が今後の重要な改善点である
リサーチクエスチョン
リーダーシップ研修が、学習成果、行動の移転、組織成果にどの程度の効果をもたらすか
研修プログラムの設計、提供方法、実施方法の違いがトレーニング効果にどのような影響を与えるか
研究デザイン
1951年から2014年までに行われたリーダーシップトレーニングの研究335件を参照した。研修の参加者は主に会社員であり、対象となるリーダーシッププログラムには、リーダー、マネジャー、スーパーバイザーなどが含まれていた
本分析では、仮説を9つ提示し、リーダーシップ開発研修の効果を最大化するための要素を探っています。今回は、研修設計に関する結果を中心にまとめます。
研修プログラム設計に関する主な結果
1.リーダーシップは訓練できるという考えを持つ: 過去の研究がリーダーシップ研修プログラムが効果的であることを示しており、リーダーは訓練できるという前提で設計する
2. ニーズ分析を実施し、目標を特定する:ステークホルダーの目標に基づいて、プログラムの設計前に達成すべき成果を特定する
3. 複数の学習方法を可能な限り使用する:情報提供、デモンストレーション、実践などを組み合わせ、制限がある場合は実践を優先する
4. フィードバックの方法に注意する:研修におけるフィードバックは有効だが、360度フィードバックが単一ソースのフィードバックより効果的であるとは限らないため、目的に応じて慎重に取り扱う
5. 複数回のセッションを実施する:1回の集中研修よりも、実践期間を設け、間隔を空けた複数セッションの方が内省に繋がり効果的である
6. トレーナーによる研修を実施する:内部トレーナーと外部トレーナーの効果に差はないが、自己実施型研修は効果が低いことが証明された
7. 他分野の専門家との協力を推奨する:学術的にエビデンスに基づいた設計を行うため、心理学や組織行動学などの他分野の知見も得ることが推奨される
8. 成果達成に基づき適切に設計する:学習、転移、成果の達成を念頭に置いて設計する
考察
考察では結果に関連して、以下のことが示されました。
研修後のスキルや行動転移は、時間の経過とともに安定・向上する可能性があり、継続的な研修プログラムが推奨される
研修はスキル向上には効果があるが、感情面(自己効力感や不安の軽減)に対する影響は限定的であり、今後の改善が必要である
360度フィードバックは組織成果には有効だが、学習や行動転移には効果が薄く、自己認識に対する脅威となる可能性があるため、慎重な設計が求められる
フィードバックは特性よりもタスクに基づくものが効果的であり、リーダーが具体的な改善点を理解しやすくするために、タスクに焦点を当てたフィードバックが望ましい
学び
個人的には、フィードバックが個人特性ではなくタスクに焦点を当てるということ、また必ずしも360°でなく、目的に応じてどの対象からフィードバックを得ると良いかは慎重に検討するべきという内容に納得感がありました。研修で扱うリーダーシップスタイルが、特性や態度に焦点が当たりやすいもの(インクルーシブ、サーバント、変革型など)は具体的な業務行動に結びつけることでアクションになりやすいと感じました。同様に、そのスタイルが誰に影響を及ぼすものかを考えて誰からフィードバックを得るか(上司、同僚、部下なのか)が重要ですね。
また、その他のニーズ分析の重要性、連続的な研修の効果も自身の実践と合致しており、理論と実践の往還を感じられる内容となりました。