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You Tubeの「物理エンジン」というジャンルが最高に楽しい
今回のかきあつめのテーマは「おすすめのYou Tube」
僕はYou Tubeなどの動画コンテンツは目と耳を同時に使うことから「時間を喰う」イメージであまり好みではない。もう少し正直に言うと、ハマってしまうから自制している。You Tubeは仕事中に作業用BGMとして使うくらいで、ラジオなど通勤や空き時間にながら聞きができる音声コンテンツのほうが馴染みが深い。
そんな僕でも学生時代からなんだかんだ楽しんでいるのが、今回紹介する「物理エンジン」というジャンルである。若干マニアックかもしれないが、これこそ動画コンテンツだからこそできる内容だと思うので、ぜひ見ていってほしい。
【まずはライトに】物理エンジンは「もし〇〇ができたら」を仮想空間の中で実証できるのが楽しい
そもそも物理エンジンとはなんなのか、Wikipediaで調べてみた。
物理演算エンジン(ぶつりえんざんエンジン、Physics engine)とは、質量・速度・摩擦・風といった、古典力学的な法則をシミュレーションするコンピュータのソフトウェアである。(Wikipediaより)
十分簡略な説明であるが、もっとざっくり言うと「コンピューター上で何でもかんでも創造・設定できる仮想空間」だと思ってほしい。
この仮想空間を用いた動画の魅力をあげるとすると、物理エンジンは「もし〇〇がをやるとしたら、どうなるのか」を実証できることがある。身近な例として「物理エンジンくん」の『”宝くじ1000万円分買ってみた”で億万長者になれるか』を紹介しよう。
誰でも一度は考えるであろう「宝くじってどれくらい当たるのか」という疑問について、仮想空間上で宝くじを購入し、1億円以上の当選を確率論からわかりやすく説明している動画になる。
結論から言うと、「宝くじ1000万円分買ってみた」という企画が200回あったときに1度だけ1億円以上の当選があるかないか、というオチである。世の中に本気で宝くじを当てに行っているヒトがどれくらいいるか分からないが、どうせならそういったヒトに見てもらいたい動画といえよう。
扱っている計算は中学数学の確率から導き出せるものであるし、宝くじの期待値が低いことなんて分かっているつもりだ。だが、これだけ1等を当てに行くことが無茶であるかが感覚的に分かるのは、動画コンテンツの物理エンジンだけができることではないだろうか。
この「物理エンジンくん」というチャンネルでは「ドラえもんのタケコプターは実現可能か」や「立体機動装置で巨人は本当に倒せるか」など、漫画を題材として比較的ポップな内容が多いので、見ていて楽しい人も多いのではないだろうか。
【物理エンジンは教材にもなる】世の構造物の仕組みが分かるのが楽しい
次に紹介する物理エンジンの魅力は「世の構造物をパーツ毎に分解・透明化することで動作の仕組みが分かることができる点」にある。
僕が最近見て「なるほどなぁ」と思ったのが「こーじ」さんの『ルービックキューブの中身の構造を分かりやすく解説する』という動画だ。
確かに考えてみるとルービックキューブの構造はずっと疑問だったのだが、これを見るとなるほどわかりやすい。実際の物質では見ることができない構造について、物理エンジンでは分解や透明化することで深く理解することができるのが良い。
他にも、シートベルトの構造やドアの上にあるドアクローザーの構造など、身近にある構造物についての動画もあり、見るたびに「よく考えて作っているんだなぁ」と感慨深くなる。
物理エンジンは身近な構造物の理解に用いるのも良いのだが、浮力の式やジャイロ効果など、公式や物理現象を理解するのにも適切だ。映像で視聴覚的に説明してくれるので、相性がいい教科では授業に取り入れていってもらいたいものである。学問によってはテキストより理解が早いと思うのは私だけであろうか。
【物理エンジンの醍醐味】強化学習について基本的な考え方が分かり、「なぜ・どうして」といった試行錯誤が楽しい
最後に紹介する物理エンジンの魅力は「実験的な試行錯誤を仮想環境で実装できる」点にある。これについては、「むにむに」さんのチャンネルの『遺伝的アルゴリズムでハイハイを学習させた』という動画を紹介してみよう。
最近では物理エンジンの動画も数多くあるが、この「むにむに」さんという方は10年くらい前から強化学習についての動画を上げている人で、これもその頃の動画である。本来は最初に挙げたかったが、マニアック度から最後に紹介することにした。
内容は仮想空間に各関節の動かし方を遺伝情報とする人型のロボットを作成し、各関節をランダムに動かす際に進んだ距離を報酬とすることで、ハイハイを進化的に学習することができないか、という内容である。
このシリーズの後作品で「遺伝的アルゴリズムで二足歩行の学習」という動画があるのだが、歩行の学習がなかなかうまく進まないのが良い。途中で頭を輪っかにして支えとなる棒を刺したり、体を安定させるために頭をコマのように回すなどの試行錯誤を行う。
むにむにさんだけでなく、物理エンジンの動画を作る人は共通してあるのが、「試行錯誤して取り組む」ことを楽しんでいるところだと思う。特に強化学習は報酬や罰の与え方で想定外の動きをすることが多いのだが、動画作成者は何度も検証し、試してみるのである。実は、このような動画は子どもたちへの科学実験の基本的な思考の参考になるのではと考えている。
個人的には「なぜヘビは前進できるのか?物理エンジンで実験した」という動画がその姿勢を端的に示すものだと思っていて、科学を目指す子どもたち全般に観せたい動画だ。(なぜか音がない)
「ヘビはなぜ前進することができるのか?」という疑問から発生して、まずはヘビのモデルを「仮想空間に作ってみる」。クネクネさせても進まないから「調べてみる」と、コツが有るようだ。前進した→けどまだ理解できない。だから構造を「単純化」しよう。部分部分を詳細に「観察」すると前進するメカニズムが分かった。じゃあ接着面を反対にしたらどうなるかを「仮説」を立てて、「検証」してみる。
うーむ、すごい。この動画一本で実験の基本的な考え方が分かるし、物理エンジンはその実験材料から環境までを自身で用意することができるという意味で、最高に魅力的なジャンルだと改めて思う次第だ。
【最後に】物理エンジンの魅力が広まって欲しい
漫画を題材としたものから、ガッツリ実験的な内容のものまで幅広く紹介したが、物理エンジンの根底にあるのは「視聴者の理解の促進」であるような気がしている。
絵や文字で読んで分かりづらい内容は仮想空間にモデルを作って動かしたほうが理解しやすい。たぶんそういったものは物理エンジンが相性がいいのだろう。上でも述べているが、教科によっては授業に取り入れてもいい内容だと思っている。
今回紹介した動画作成者たちは常にネタを探しているようなので、もし物理エンジンを使って理解したいと思うようなものがあれば、応募してみるといいかもしれない。いかがだろうー。
記事:アカ ヨシロウ
編集:香山由奈
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