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お肉の新たな包装「ムルチパック」とは ~ドラッグストアが導入したら日本のスーパーはキビシイ?未来のお肉流通のカタチ~

 やぁこんにちは。普段は流通卸業で働いているアカ ヨシロウだよ。今日は「ムルチパック」というお肉の包装方法について紹介するね。前回のRPA以上にマニアックな話かもだけど、実はこれ、もしドラックストアで導入されたら日本のスーパーマーケットの食肉コーナーは大打撃をくらうような、スーパーが抱えている問題を反映している話なんだ。

 欧米では当たり前に流通している包装形態だけど、日本ではまだ全然浸透していない先進的な話だから、未来の流通業(特に精肉分野)について興味がある人は読み進めてほしい!

ムルチパックとは

 まずはじめに、皆さんがスーパにお肉を買いに行くとしたら、上のような発泡トレーに入ったものを買うんじゃないかな。

 今回紹介するムルチパックとは、そういった発泡トレーと相対する精肉の包装方法だよ。

 ムルチパックとは写真のように生肉を真空パックした包装形態の事をいうんだ。生産地でパックされることがほとんどで、店内(インストア)加工されることなく店頭に陳列されるのが特徴だ。

 欧米のスーパーマーケットでは導入している企業も多く、あるアメリカのスーパーでは生鮮肉ブースの半分ぐらいをムルチパックが占めているくらい一般化されているんだ。

↑このスーパーではPBのムルチパックの商品棚まである(コロラド州)

 最近は日本でも「エコ包装」や「産地パック」と表記して、導入しだした企業もあって、関東が本拠地の東急ストアでは、2011年から「ノントレーエコ包装精肉パック」として販売しているよ。また、メーカーでは日本ハムが「桜姫」というブランドで量販店向けに産地パック商品を流通させているよ。国産鶏ではいち早く導入されてきたけど、牛肉・豚肉のパック商品が出てきたかと言うと、それは進んでいないようだ。海外でムルチパックされた輸入肉を販売するスーパーが一部出てきているけど、まだ全然浸透していないのが現実だ。

桜姫の産地パック商品イメージ(日本ハムHPより

 日本で販売する際は「エコトレー」として環境メリットを謳うことが多いようだけど、販売側からするとむしろ別のメリットが大きいんだ。

企業のムルチパック導入の一番のメリットは「陳列が簡単なところ」

 ムルチパックのメリットは簡単に ①消費期限の延長 ②エコ包装 ③陳列が簡単 の3つが挙げられるんだ。

①消費期限が延長される

 この話は加工の衛生環境や、企業が消費期限を何日で販売するかによって変わってくるのであくまで一般論だけど、生産地で加工されるムルチパック方がインストアでトレーパックされるより消費期限は長く設定できるんだ。(トレーパックとムルチパックの菌数の変遷は企業秘密で出せないけど、「“見た目”の発泡トレーVS“長持ち”の真空パック 支持率は」という記事で少し書かれているよ。)

②エコ包装である

これは企業というより一般消費者へのメリットが近いね。一般のトレー包装と比較して約40%資材を削減できるので、環境負荷を意識したい人にとっては魅力的だね。日本ハムの桜姫のHPでも「包装資材を削減することで環境に配慮した商品となっています」とあり、セールスポイントになっているようだね。

③陳列が簡単

 実はこのメリットが企業側として一番デカイんだ。ムルチパックで納品した商品は、ダンボールを開封したら賞味・価格ラベルを貼るだけですぐ陳列できるんだよ(!!)。通常のインストアのトレーパックだと「ダンボール開封」→「塊肉を取り出し包装をはがす」→「ドリップを拭き取る」→「食べれない筋を切り落とす」→「商品別に切ってトレーに並べる」→「ラップする」→「価格・賞味ラベルを貼る」→「陳列する」まで工程がある。後述するけど今スーパーマーケットでは人手が足りていないから、こういったダンボールから出してすぐ店頭に陳列できることは今後もっとメリットとして大きくなっていくと考えられるよ。

ムルチパックのデメリット

 ここまでメリットを伝えてきたけど、デメリットももちろんあるよ。それは、ドリップが目立つんだ。(ドリップ:精肉から出る液体。スーパーでお肉を買うとトレーの底にドリップを吸収するドリップシートが入っているね。) だからムルチパックの流通の課題は、トレーパックと比較してドリップが目立ので、見た目が悪いことといえるよ。

↑ドリップシートが入っていない商品だと、部位によってはこれぐらいドリップが出てしまう。

 ドリップとは流通過程でどうしても出てくるものなので、実はインストアでトレーパックする場合は拭き取っているんだ。清潔なシートで拭き取っていてもこの時に菌が付着してしまうので、結果的に生産地でムルチパックした方が菌数は少なくなると言えるよ。しかし、どうしてもドリップ=鮮度が悪いという印象のためか、ムルチパックが流通しないのが現状だ。(お客さんが嫌厭するから、わざわざトレーに入れ替えて賞味を短くして売ってるって話も聞いたことがあるよ。)

 ムルチパック流通の取り組みとしては、ドリップシートとパックを一体化させてドリップを目立たなくさせたり、流通の温度帯管理の徹底やリードタイムの短縮など、そもそものドリップが出にくくする努力をしているんだ。

スーパーは人手が足りていない

 上述したけど、この商品の魅力はなんと行っても「陳列が簡単なこと」だ。その背景にはスーパーマーケットが抱える大きな闇が関係してるよ。それは、肉を切る人手がいないんだ。

 肉を切るのは職人技といえるよ。僕もたまに10キロ以上の塊肉を切ることがあるんだけど、商品化できるレベルで肉を加工することは本当に難しい。(そもそも部位が分からない。) 現在スーパーマーケット業界は、そういう職人も足りていなければ、商品を陳列するスタッフも足りていない状況だ。だからムルチパックのような、「ダンボールを開いてすぐ並べれる」ことは、今後もっと重要視されると考えられるんだ。(ラベルは貼るけど)

 また、ムルチパックの特徴である「消費期限が延長される」ことも、管理面において作業が楽になりロスの減少にもつながるから、欧米のようにムルチパックが一般に浸透すればスーパーはもっと楽になるんだ。

なかなか浸透しないけど、浸透したらスーパーはまずい?

 このようにムルチパックは浸透さえすればスーパー精肉コーナーの救世主となれるアイテムだけど、実は危うい点もあるよ。陳列すればいいだけで、賞味が長い特徴があるムルチパックは、ドラッグストアでも導入しようと思えば出来てしまうんだ。

 現在スーパーマーケット業界の最大のライバルはドラッグストアといえるんだ。そして、生鮮を取り扱うドラッグストアも増えてきてて、競争はどんどん激化しているよ。

 もしそのドラッグストアでムルチパックが導入されたら、はたしてスーパーの精肉コーナーは太刀打ちできるかな。優秀な職人を抱えていて、お客のニーズに合わせてインストアでの加工サービスを提供できているスーパーは差別化できるかもしれないけど、精肉をすべて工場から仕入れている首都圏の小さいスーパーは差別化が難しいんじゃないかと、僕は考えてるー。

(店内に食肉加工するバックヤードをもたないスーパー、最近首都圏で増えてきてるよね。あれって、店内で作業すると効率悪いからプロセス・センターという工場でいっぱい作って、そこから仕入れているんだよね。いやホント、食肉加工の拠点集中化とか機会化とか、考察いっぱいあるよな~。今後この業界もどうなるんでしょう。その辺はまたの機会にー。

【最後に】けど、やっぱり便利なものが流通するのがいいよね

 今日は日本のスーパーマーケットがおかれるネガティブな状況に焦点をあてて説明したけれど、やっぱりいいものが流通するようになるのはいいことだと思うんだ。

 個人的には「ムルチパック浸透しないな~」って思ってるんだ。確かにドリップ多めで見た目は悪いけど、スーパーのバックヤードで加工されるより生産地の工場で屠畜後すぐ加工されてる方が衛生管理はいいんだけどな~。とね。まぁ食べ物だから、なかなかすぐには浸透しないよね。

 見かけることは少ないかもだけど、みんなも今後ムルチパックを見かけたら、ぜひ一度買って試してみてね~。

記事:アカ ヨシロウ
編集:円(えん)


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