'90年代後半の食肉バイヤーの年末がヤバかったという話

今から10年前の2014年春、僕はスーパー向けの卸問屋に就職し、精肉部門の新入社員として東京の某スーパーの精肉部門に1ヶ月の研修をしていた。

2012年に第二次安倍内閣が発足し、2019年に施行される「働き方改革」へ向けて企業が企業が変革を問われだした頃だった。
もちろん、現場にその考え方はまだ浸透していなかったが、その当時からしても90年台と比較したら「まだマシ」という状況だったらしい。

研修の担当バイヤーがしてくれた昔話が面白かったので簡単に共有したい。


今から30年前、これは伊丹十三の映画『スーパーの女』でも取り上げられた内容であるが、当時の精肉部門はデタラメな商売が成り立っていた。

赤いライトで発色を良く見せるのは当たり前。
職人は作業場でタバコを吸い、古くなった商品はリパックして賞味期限をつけ直す。
産地偽装も常に行っており、「輸入牛にどれだけサシを入れて和牛のように見せるかが、職人の腕の見せどころ」と堂々と言っていたらしい。

そんなスーパーの中でも売上金額が高い精肉部門にとって、一年の中で最も気合を入れるのが入れるのが正月である。
正月は一週間前から忙しくなるのだが、晦日大晦日は店頭に寝ないで肉を切り続けたという。

朦朧としながらただただ肉を切り続ける。
でっかい包丁で大きなブロック肉をカットしていたので、鎖帷子(くさりかたびら)みたいなものを着て作業をしていたという。
「当時のスライサーはガードがないものもあったよ」と、バイヤーは笑いながら目の前の業務用スライサーのガードを外して円盤のカッターを回した。仕事環境を考えるとゾッとする。

職人用の鎖帷子
業務用スライサー イメージ

「ミートチョッパーも今と違って入れるところにガードがないから危なかった。めちゃくちゃ急いで肉を入れるから、手をつっこんじゃうんだよね。そんで、急いで急いでミンチを作っていると、痛ぇーって。たまに怪我するヤツがいたよ。」

「チョッパーって逆回転とかそんな機能ないから、どうするかっていうとそのままチョッパーごと担いで病院行くの。忙しいときにそんな怪我するから、すげぇ顰蹙だったなー」とタバコをふかしながら笑っていた。(もちろん当時は作業場でなく喫煙室でである。)

業務用ミートチョッパー イメージ
当時はガードがなく、腕をつっこめる状態だった

そんな昔話を聞いてから10年。
もちろん、現在のスライサーとミートチョッパーには、添付画像のようにガードがついている。怪我をすることはだいぶ少なくなっただろう。

とうとう『働き方改革』という単語も時代錯誤になり、あらゆるサービス業が正月に休業をするようになった。調べてみると、'96年にダイエーとイトーヨーカドーが大手スーパーで初めて全国規模で元日営業を開始し、'00年代を象徴する現象のようだった。

正月がかきいれ時というのは変わらないだろうが、寝ないで切り続けるということはなくなったであろう。
この時期になると、あのバイヤーを思い出す。


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