パルデアの遺跡時代 ベイク高台遺跡と古代文明 (パルデアの歴史⑨)
ベイク高台大型遺構遺跡
当遺跡についてはパルデアの古代において群を抜いて重要なものであったと考えられ、考察項目が多岐にわたるため、一部構成を変更しつつ一章を割いて考察する。
周辺環境
数百メートルはあると思われる、巨大な岩塊地形(以降ベイク高台と呼ぶ)の頂上に位置する。頂上部にある丘の中腹に位置しており、遺跡正面のゆるやかな坂を下るとベイクタウンや「ビシャビシャの斜塔」があり、その先には西パルデア海がある。逆に坂を上ると用途不明ながら均されている場所がある。南には南パルデア海、北東側は険しいが泉があったり、岩場を登るとセルクルタウンを見渡すことができる。この高台は周囲との高低差が異常とも言えるほど激しく、一見突飛もない景色である。だが、古代ギリシアの哲人たちが登り思索に耽ったという「メテオラ」を思い出せば、その位置と併せてある程度の納得を得ることが出来る。
メテオラはいわゆるアルプス・ヒマラヤ造山帯と呼ばれるアフリカプレートとユーラシアプレートが衝突するプレート境界において、ヨーロッパ側に隆起した岩塊群であり最大のものでは高さ数百メートルに達する。頂上部分には寺院が設けられるなどしており、人類とのかかわり方においても外形的にはベイク高台にも似ているところがある。そしてポケットモンスター世界においてもどうやらヨーロッパのような形の大陸が形成されていることから、似たような地殻運動があったと考えるとすれば、イベリア南部にあたるパルデア南部でも同様の現象を考えてもよいと思われる。
そしてこの視点を拡げると、この岩塊地形はパルデアの東側にもあり、更に東に目線を移すとパルデア・カロス間にあたると思われる巨大な山脈(と呼んでいいのかもわからない規模の岩塊)や、カロス地方のポケモンリーグがある巨大な高台も似たものと言える。いずれも現実の造山帯に沿って存在しており、ライドポケモンをもってしても越えられない険しさに設定されている。このことは現実と比べてかなり激しくプレート同士が衝突したものと考えられる。ちなみにプレートテクトニクスの話となると我らがレジギガスが関連していそうだが、パルデア図鑑には存在していない。
また、現代のわれわれの世界の国家としてはポルトガルの南部にあたる。この地には古代においては高地に立て篭もり、ローマ帝国に抵抗したルシタニア人が居住していた記録が残されている。またやや南にずれるが、前述したジブラルタルは古代ギリシア人にはヘラクレスの柱と呼ばれ、地中海の出入口に睨みを効かせられる軍事的要衝としての歴史を持っている。また本物語における古代アメリカ大陸の文明を念頭に置いたテーマからすれば、高地文明の雰囲気も否定し難い。
パルデア王国の王宮説
当遺跡はベイク高台の頂上の平地部でも、小高い場所に位置している。一見、数件の建物群の跡地に見えなくもないが、残された壁構造の延長線を考えると、恐らく一つの建物であった可能性が高い。そして単体の建物としては他に類を見ない規模であり、四災によって一夜で崩れ落ちたとされるパルデア王の住居の第一候補地となる。確かに、その想定される規模に比して崩壊の度合いが大きいと言える。前述の通り、カロスでも非常に標高の高い場所に城が存在しており、共通点がある。
そしてパルデア王国における重要な場所であったとする根拠は現代のベイクタウンが掲げる「陶磁器と星の街」というキャッチコピーに集約されていると考えられる。すなわち、古代文明の農業に必要であった「器」と「暦」の技術を保有していたということである。以降は、この二つの要素から王宮説の妥当性を考える。
陶磁器を生業としたのはいつからか
現在、陶磁器生産を行っているベイクタウンだが、これは王国時代からの伝統なのだろうか。各地の遺跡には恐らく陶器である無地のアンフォラのような大甕が存在しているが、今のところパルデアにおいて、このような大型の陶器を焼成できるような設備とその伝統があったと推測できる都市はベイクタウンしかない。そして古代期における均質かつ大規模な器の生産体制は中央集権的な権力があってこそ成立しやすく、例えば日本においては邪馬台国の有力な候補地である奈良県の纏向遺跡で同様の施設跡が発見されたのが記憶に新しい。よって、この地が古代から窯業を擁していたと考えることは不自然ではない。少し妄想を広げて各地の遺跡の建材が焼成された煉瓦によるものだとすれば、台地の遥か高みからパルデアの当時の文明の食と住を「下賜」する構図も見えないこともない。
そしてこういった観点から考えると、都市の名にもなっている「ベイク(Bake)」という器を焼成するという動詞に対し、周辺の半島南西部には「コサジ」「カラフ」「セルクル」「ボウル」という主として器を意味する名詞の都市が存在しており、主従ないし同一の文化圏に属す関係性を疑うことができる。
特に都市のスタイルからしてもセルクルタウンはベイクタウンと同じく大きなプールを備え、他の都市についても域内に「器」を暗示するような水の溜まる構造が存在しており、それぞれの建築方式は多少の差があるものの、ともかく生活様式には近いものがあると考えられる。そして北東部の「ハッコウ」「フリッジ」「マリネ」「チャンプル」は調理に関する動詞であり、器の上に乗るものを作り出す動作である。そしてそれらが合わさって料理が生まれ、中心の「テーブル」に供されるという構図を見て取るのであれば、南西部が下にあり、新たに進出してきたのが北東部の勢力と考えることが出来る。これは主人公らが行うサンドイッチづくりにもテーブル・皿・具材とパンという同じ要素があり、物語全体を通して入れ子の構造になっている。
やや話が逸れたが、当該遺跡には少なくとも磁器のティーカップを模したヤバチャが出現することからも、陶磁器文化を持った文明のものであったと言えるだろう。
太陰暦の気配
ベイクタウンの天文台は現在はジムリーダー戦に用いられている。確かに高地はそれだけで天体観測に適した地であると言える。また、当遺跡もまっすぐ東西に通じるように建てられており、方角が意識されているものと思われる。古代から星の動きは重要な関心事であり、農耕が始まってからはより正確性が求められるようになっていった。
ここでこの高地文明のモチーフの一つであろう中南米の文明を思い出すと、巨大建築物を太陽や月の軌道を意識して建てていることが多い。例えばアステカ帝国が使用していた太陽の神殿は、夏至の日の「日の入」が真西になるように建設されていることがわかっている。では、東西を意識していると思われるこの建築物についても同じように考えるとして、意識されたのが太陽なのか月なのかが気になってくる。この場所からは確かに西パルデア海への「日の入」を見ることはできる。だが、この世界では月と思われる天体は西から昇るために「月の出」も見ることができてしまうので、判断が難しい。そして残念ながらスカーレット・バイオレットの物語では時間が特定の満月の日で固定されているため、地球とは異なるこの「月と思われる天体(以降は便宜上「月」と表記する)」がどのような周期運動をするかもまったくわからず、この点はお手上げ状態である。
これが古代太陽信仰の牙城であったなら話は簡単だが、そもそもベイク高台の頂上では日の出から数時間も太陽が岩場に隠れてしまう。故に太陽という重要な天体の軌道が観測できない立地であるので、天体の運動を総じて解明しようとする純粋な科学的な発想から建築されたとも考えにくい。つまり状況的には「月」への執着があったと考えるべきだろう。そうなると、極めて古い時代にあったことが示唆されているギラティナに関わる「月」への信仰の存在が思い出される。現実世界に照らせば、古代文明の多くは月の満ち欠けから得られる「太陰暦」を用いていたし、ベイクタウン文化のモチーフの一つとされるイスラム信仰の国々も長い間太陰暦を使用していた。そういったことから、このベイク高台に大きな建築物を作り上げた文明の暦も恐らく太陰暦であったであろうと考えられる。
陶磁器と星の街という矛盾
一般的に高地が星を見ることに向いているが、だからと言って陶器や磁器を生産する窯業と両立することは困難なのである。何故ならば窯業は大気を汚染するからである。例えば天体望遠鏡を覗いていたとして、隣の家の人が焚火を始めてしまったとしたら切にやめてほしいと思うであろう。この世界の古代文明が高度なフィルターを備えた排煙システムを持っていたのであれば話は別であるが、どうもそうでもない。特に主人公が旅をしている季節は風が南西から北東へ吹くことから、ベイクタウンで大規模に火を使えばパルデア内陸の上空へ煤が運ばれていることになる。
この妙な事態に説明をつけるなら、現状を確認する必要がある。まずベイクタウンにおける天体観測は恐らく我々の世界でいえば中世の水準の段階で終わっているように思われる。都市中央の天文台は天体望遠鏡登場以前の形式のもので、何より現代パルデアにおける天文台はテーブルシティのアカデミー東側の棟に移されている。つまり、ベイクタウンが実際的に星の街であったのは過去のある時期までであるということになる。
ここからは考えられるのは古い時代においては、ベイク高台における陶磁器生産は行われていなかったのではないか、ということである。つまり遺跡の時代には高台で天体観測が行われ、窯業は高台以外の下層で行われていたが、何らかの理由で窯業を生業とする人々が高台に移動することになり、現在の形になっていったという筋書きである。古代パルデアにおいてその機会となる得るのは、四災とパルデア帝国の勃興時である。
そこでここまでの考察とモチーフであるスペイン植民地帝国と南米高地文明の関係性を念頭に筋を通すならば、例えば次のような筋書きが考えられる。
現在から三千年は遡る古代パルデア王国はベイク高台で「月」への信仰を主軸とした天体観測を行うことで「暦」を得て、麓と周辺では「器」を生産し、これら技術に支えられた農業を行っていた。
歴代のパルデア王は当遺跡を王宮もしくは彼が最高位にあったであろう信仰の中心地としていた。
王国最後の王は、「東」からもたらされる「宝」を欲したが、四災が引き起こされて当遺跡は崩壊した。その時点で、金属利用の面においては青銅器文明の水準であったが、磁器を生産する技術は存在していた。
王はポケモン使いと当時の封印装置を使って四災を収めたが、王国は北部の主要都市を失い、決定的に弱体化した。
権力空白の隙を突いてパルデア帝国が出現し、紛争が生じた。
王国遺民の全部もしくは一部はベイク高台へ避難し、要塞的地形を利用して帝国に対して主権を維持し、パルデア半島に「割拠状態」が生まれた。高台では農業はほぼ行えなかったので研究としての天体観測は廃れ、同時に「月」信仰も薄れたことや利用可能なリソースが減少したことから王宮ないし神殿も再建されなかった。
パルデア帝国はカロス最終戦争で敗退したが、王国の天体観測の伝統を受け継がなかったため航海技術は発展せず、大穴探索に労力を費やした。
あくまでも粗い説の一つに過ぎないが、以上のような流れであれば、ベイク高台東側に残る消されたような登山道の痕跡などにも見える、中央からのアクセスの不可思議な阻害の気配にも理由がつけられ、時系列的にも「陶磁器」と「星」が一つの街の文化に同居する経緯もある程度のつじつまがつけられるのではないか。
非鉄文明の継承者?リップのビジネスと矜持
前項のように歴史が紡がれてきたかもしれない現在のベイクタウンでは、引き続き陶磁器が生産されている。現実のスペインは長らく土器や陶器しかなかったヨーロッパで最初に磁器が生産されたことで有名であるが、ベイクタウンにおいても建物に飾られているのは、絵付けされた地の真っ白な磁器である。そして、磁器は陶器と異なる点がある。それは、鉄分を含まない原料が選ばれることであり、そうでなければあのように真っ白な色を出すことはできないそうである。ポケットモンスター世界においては「鉄」は度々テーマとなり、現実世界でもまさに中南米の文明がそれであるが、鉄製の武器を得られなかった集団は大洋を渡れず、農業の生産性も上がらず、戦争においても敗北してしまい滅び去った。アステカ文明は青銅や金を用いたが、鉄が登場することはなかった。そして当遺跡を中心とした文明は、磁器の生産という生業に代表されるように現代に至るまで「鉄」を避けている傾向が見て取れる。
具体的にはまず、遺跡に現れる磁器のヤバチャとドーミラー系の存在である。このことはつまり遺跡の文明の殆どが滅亡時に青銅器時代の水準にあったことを示すものと思われる。前者は前述の通りで、後者はそのまま銅の鏡、つまり青銅器である。そしてヤバチャは遺跡でも二か所にしか存在しない。それは当遺跡とピケタウンである。ピケタウンに彼らが出現する理由はいくつか考えられるが、この町の位置は現実のスペインの地図上において、磁器の原料となるカオリンナイト等の白色鉱物が産出する鉱山があるからではないだろうか。そしてそれは同時に、王国の王権はベイクタウンが中心であったとしても、大穴の反対側まで及んでいたこと、また彼らの磁器文化にとって必要不可欠な場所であることを示唆する。カオリンナイトが手に入らなかったイスラム王朝の勢力と産地を領有しながら技術的に磁器の再現に至らなかったキリスト教勢力の敵対によって18世紀まで磁器を自前で生産できなかった現実のイベリア半島と、古代王朝の時点で既に技術を得ていたものと思われるパルデア半島の両者の差が、前述の世界帝国にもなり得る航海技術と引き換えとしたかどうかの分かれ道になっている。
そして、この白色鉱物の伝統は現代のジムリーダーであるリップの言動にもあらわれている節がある。彼女は使い古されたギョーカイ人の言葉で説教をぶち、同等と認めてのこととは言え子どもに対しうっすらセクハラとも取れるコミュニケーションを行い、自身の「キス顔」で自身のコスメブランドの広告を行い、何が何だかわからない独特な踊りを主人公に強いるなど、一般的にはあまり信用に値しない人物であるし、ジムリーダー戦の前後では絡むことはほぼない。だが、考えてみると彼女の化粧品事業は、磁器の生産と全く無関係ではない。
例えば、化粧品のファンデーションやベビーパウダーに用いられる滑石(タルク)、セリサイト、葉蝋石などの白色鉱物の多くは、優良な磁器の原料であるカオリンナイトと同時に産出し利用されることが挙げられ、カオリン自体も用いられる。二つの産業はリソースの少なくない部分が重複しているのである。
そんな彼女がベイクタウンのジムリーダーをしているのは古代パルデア王国に関連して思った以上の意味がある可能性がある。リップの外見は、いわゆるコーカソイド的ではないことは恐らく確かである。スペインの歴史を考えれば彼女のルーツのモデルはアラブ世界であり、モチーフを考えても「レコンキスタ」後も半島南部には彼らの幾らかは残存していたわけで、何の不思議もない。そしてオモダカとの会話からわかる通り、ベイクタウンにおいて指導的立場にあると思われるジムリーダーの立場を堅守しつつ、アラブ世界的形質を持つ彼女が街の産業の根幹の資源へのアクセスを持ち、尚且つこれをビジネスとしているとなると、古代から連綿と続いてきたと見られる非鉄文明的な土地の生業と利権が継承された人間のように見えてくる。そうであれば施釉をする陶磁器から肌を美しく見せる化粧品への変遷も「マキアージュ」であり、古代より情勢の変化に合わせて変身し続けたベイクタウンの歴史を象徴しているという風に解釈できなくもない。
また、あくまでもこの世界にはキリストもイスラームもアラブ諸国もスペインもポルトガルも存在しないし、主人公ら人類も我々ホモ・サピエンスと同じかはわからず、外形上はともかく人種の概念も一度たりとも登場したことはないという前提を忘れてはならないが、パルデアに古くから存在している可能性のある有力者とみられ、鉱業地帯に隣接する都市に本社を構えるパルデアエステートの社長ネアもまた褐色の肌を持った人物である。そしてネアは鉱業地帯の土地を所有している可能性があり、建設業を含む不動産業という生業からして鉄を用いる点、そして月を司っていた可能性がある西のベイクタウンに対して東に在り太陽を象徴とする企業という資源の産出地が共通ながら対比可能な点からもあながち無視できない存在である。ひょっとすると、古代パルデアの貴人の外形的特徴を遺している可能性があるからである。ただ、この話が当遺跡の抱える内容を大幅に超えるので、ここでは一旦置く。
いずれにせよ、当遺跡に陶磁器を模したヤバチャがいて、前述の様々な要素を持ったリップが現代にいる以上、この古代文明は非常に厳しい時代があったにせよ、その生業が潰えることはなかったことが窺える。
紫の文明
では当遺跡の時代からベイクタウンおよびピケタウンには紐帯があった可能性が低くはないことが示された。そして、そのことを示すもう一つのものが、「ノロイノヨロイ」である。このアイテムはバイオレット世界にしか存在せず、カルボウがソウブレイズに進化するための唯一の手段である。この「ヨロイ」は何故かバイオレット世界のピケタウンの男が所持しており、当遺跡か、ピケタウン西の鉱業地帯にしか存在しないヤバチャのかけらとの交換によって主人公に手渡される。スカーレット世界でしか進化の手段が存在しないグレンアルマの「イワイノヨロイ」に必要なドーミラーのかけらと比べると、ヤバチャのかけらの入手地域は明らかに限られており、スカーレット世界とバイオレット世界の明らかな不均衡状態の一つである。
ポケモンの生態系以外でも世界が「バージョン」で分かれることは度々あったが、「何故なのか」についてはあまり問われて来なかった。例えば金銀世界のカントー・ジョウト地方における「にじいろのはね」と「ぎんいろのはね」が何故異なるのかについては全く説明がない。しかしパルデアにおいてのこの差については状況証拠がある。スカーレット世界とバイオレット世界のどちらにおいてもヤバチャを生じた国家ないし文明は滅び去ったが、バイオレット世界ではその遺物であるノロイノヨロイがピケタウンの老人の手元に残ることとなったわけである。
このことをどう見るか、一応図鑑を見てみる。
すると、グレンアルマはスカーレット世界においては「武勲」「忠誠心」「火の玉」という言葉が現れ、バイオレット世界においてはタイプエネルギーについて語られている。ソウブレイズについてスカーレット世界においては「怨念」「志半ばで倒れた剣士」とありバイオレット世界においては「怨念」「古い鎧」「剣士」とある。どこまでまじめに物語を記述するのニュアンスを持たされているかはわからないが、やはりそれぞれ出現する世界での方が図鑑の内容がやや具体的である。つまりスカーレット世界のグレンアルマの「武勲」とは、過去において勲章を与える体制と、「忠誠心」によって成立する軍、その軍人、その鎧を作成する技術水準があったことを示す。一般的には封建体制の王国と考えられるだろう。そしてバイオレット世界では、社会背景は描かれないことから、「武勲」を得た誰かの気配は薄いと考えるしかなく、単にそれがエスパーと炎のエネルギーで強化されていたことだけを説明する。そして当遺跡の文明にはより関係が深いと思われるソウブレイズについては両世界において「怨念」が記述されるが、バイオレット世界でのみ「古い」という言葉から時間的な奥行きが示され、またグレンアルマに見られるような栄誉に乏しい歴史があった可能性が示唆される。これらを間に受けるのなら、あまり古代に戦争がどうのと昨今の陰謀論のようなことを言い続けるのを憚りたい気持ちもあるのだが、両世界は主に軍事的に別の歴史を歩んだことが窺える。
結論から言えば、カルボウの色をそのままとどめたグレンアルマは「色を失わずにいられた」意味が示され、紫色に変化したソウブレイズは「変わることで対応した」ことを意味すると考えられる。スカーレット世界のカルボウの進化系としてグレンアルマを駆った何かしらの集団は勝ち、バイオレット世界では敗北、よくても辛勝以下であったと読める。そして恐らくそれはパルデア王国であったと現状では考えざるを得ない。何故ならヤバチャのかけらはその遺跡から産するわけであるし(あくまでもこれがパルデア王国のものであるという仮定ありきであるが)、パルデア帝国は王国残党以外に対して勝利した記録がないし、パルデアが地方時代に入ってから生じたと思われる300年前のカロスの王国の戦争についてはパルデア側での記録が全くなく、ひとまずは考慮できないといった理由からである。
ここでアカデミーの図書館が所蔵している「カルボウのぼうけん」の内容を、あくまでも進化先のヒントであり、体裁も子ども向けであることに注意しながら引くと、ゲンガーという敵に対して「みらい」を賭けてカルボウは進化せねばならなかった、とある。タイプ相性から言えば敵は「ゴースト/どく」であるからカルボウはグレンアルマとソウブレイズのどちらに進化しても勝算がある。つまりどちらも同じまたは同質の敵に抗するために生まれた歴史があり、それでいて決して負けたわけではない、ということが仄めかされている…ような気がしないでもない。ここは正直そこまで真面目に考えて良いかものかはわからないが、一応物語の重要キーワードである「未来」が含まれるため言及しておく。
話を戻すが、カルボウに関連する過去においてスカーレット世界とバイオレット世界で顛末の異なる軍事的なイベントがあったことを示す上で、そもそもスカーレットで「せんし」、バイオレットで「けんし」というのはどういうことなのか。剣を持った戦士が剣士であるが、戦士とだけ書かれたグレンアルマの定義はソウブレイズに比べてざっくりしている。そこで挙動と外見に着目すると、グレンアルマのそれはロックバスターもとい「砲」であり、剣士と並ぶ言葉としては「砲兵」とか「砲術士」である。だが確かに「ほうへいポケモン」や「ほうじゅつしポケモン」だとやけに生々しくなってしまい、プレイヤーの意識が物語の本筋から外れる程度には示す意図として強くなり過ぎる印象がある。故に「せんし」に留められているのではないか。そして一般的な歴史の流れの認識として鉄砲や大砲といった「砲」の登場で敗北を喫したのが「剣」であるが、タイプ相性的にはソウブレイズがグレンアルマの優位に立つため、二つの存在はなるべく等価になるように設定されている。
ここまでの仮定から単純にカルボウに関わる集団と期間の歴史の流れを想定するならば、スカーレット世界では順当に「砲」を手にし、武勲が認められる体制が破壊されず、そのヨロイが遺る程度には何者かに対して勝利を挙げたが、バイオレット世界においては、飛び道具ではない「剣」のみを頼りに倒れる者を出し、敗北もしくは辛い勝利を得た、ということになる。そして、ヤバチャのかけらとドーミラーのかけらという恐らくヨロイの材料となっている痕跡は、両世界共に同じく残っている。
懸念:本当に過去の存在なのか?
とは言え、ヤバチャのかけらは恐らく金属製やそれに類するものではないはずなので、じゃあ陶磁器から生まれるヨロイとか剣とはなんなのか、という話になるが、それは現代日本においては横文字カタカナで表記されるファイン・セラミックスがそれにあたると思われる。フィクション上で言えば例えば「風の谷のナウシカ」はセラミック技術が最高潮にまだ発展した時代の後にあたり、セラミックの剣が登場する。現実世界においてもセラミックナイフは市販されており、脆さは問題であるが金属に対して軽量、耐熱性など様々な利点がある。防具についても、セラミック板を利用した防弾アーマーも一般的であり、意外とソウブレイズやノロイノヨロイを陶磁器文明の粋として捉える材料は少なくない。防弾性は砲を用いるグレンアルマに優位であることを物語るし、両者の体重もソウブレイズの方が軽く設定されている。
ここで不安になってくるのが、こういったいわゆるファイン・セラミックス技術は、モチーフとしては金属の鋳造技術よりもだいぶ後世のものということである。バイオレット世界は「未来」がテーマであるし、フトゥー博士がその人生の中で未来を志向したことが物語を動かす幾らかの原動力になっている。そうであれば、明らかにスカーレットとバイオレットのテーマカラーを纏っているグレンアルマとソウブレイズも時空の要素に関係しているとみてもおかしくないのではないか。スカーレットでは未来だったものがバイオレットでは過去である、という構造の気配は拭い切れないものがある。
それというのも、スカーレット・バイオレットの発売発表時のキービジュアルを思い出すと、背景の結晶体の放射を受け、その光に分たれている両世界の対称さを示したキービジュアルイラストにも、グレンアルマとソウブレイズはそれぞれの世界の側に佇んでいる。そもそも二つの世界が分たれた象徴の一つとして登場しようとしていたのである。
そして、この構図をパルデアの歴史①に示したような、若干のやぶれのあるCPT対称性の二つもしくはもう少し多くの世界が「バージョン」の分かれなのではないか、と解釈するのであれば、時間が「結晶体から生じる光の爆発的放射」に表されるビッグバンのような事象を時空的な中心として、対称性を持つということになる。そうなれば、スカーレットで未来に進む時間というのは、バイオレットにとっては後退する時間なのであり、その逆も然りなのである。だが事象的には並行しているというややこしい構造である。
遺跡を取り巻く時間的状況のまとめ
話が広がってしまったので、ここで状況をまとめる。主人公目線におけるスカーレットの過去では「砲」と「金属」のグレンアルマが選択される必要があった。同じくバイオレットの過去では「剣」と「陶磁器」のソウブレイズが選択される必要があった。両世界においてこの遺跡の文明は少なくとも建物が使用されなくなったという意味で滅んだという結果は同様である。そしてアカデミーはオレンジとグレープに名が分かれた。しかし現代、パルデアにはオレンジの木が少し残るばかりである。全体として紫の要素が消えかかっているということになっている。
つまり主人公の目線から見ればスカーレット世界においても、バイオレット世界においてもこの遺跡は確かに「過去」のものである。だが遺跡を取り巻く状況は「紫の文明」であることを示す。しかしこの二つの物語における紫は青方偏移を示し、テーマとしても「未来」であるので、「古代に未来がある」ことを否定していない。更に言えば、それは二つのバージョン世界の時間には対称性があり、時間の何らかの極地の存在を示す可能性がある。ということになっている。
結論
規模的にも立地の象徴性からしても古代の集権体制的な集団の王宮、神殿の類であることはもはや疑いたくない(疑いようがない、のではなく)。そしてそれはパルデア王国、少なくともパルデア帝国より前の可能性が高い。
現代パルデアよりも大規模に農業が行われていたと思われる王国で、恐らく暦や何らかの信仰のために星の観測を行う集団の居城、住居と考えられる。陶磁器生産も当時から産業としていたものとみられ、ベイクタウンはその文化を継承している。
パルデア王の何らかの失策により生じた四災のカタストロフで建物は現在の姿になったが、帝国勃興後もある程度の抵抗を行い、自治を保持していたと見られる。だが、バイオレット世界においてはノロイノヨロイとソウブレイズを遺すようなあまり華々しくはない歴史を辿った。
残る疑問点としては時間と世界線の話だが、何故分岐が起こったのか、何故テーマ的に未来とされる紫色の存在が片方の世界では古代にいるのか、である。
よくわかんないね
引き続き遺跡の考察を行う。