ゲストハウスなごみ
今(2020)心配していることがある。それは老舗ゲストハウスが潰れてしまうこと。この時期、ドミトリー部屋は機能していないだろう。ゲストハウスが知らない間に閉まっているのは悲しい。私にとっては黙って実家が引っ越すくらいにショックなことである。
もう時効なので書くのだけれど、むかし、ゲストハウス(安宿)のドミトリー(相部屋)に住んでいたころ、となりの部屋に60代のおじさんが長期滞在していた。(おそらく彼は、糖尿病を患っていたのだと思う。)彼は、毎日のようにみんなのリビングで飲んでいた。
その頃は、オーナーが変わったばかりで、ルールはなく、毎晩遅くまで酒盛りをやっていて、その宿は、さみしがりやの巣窟のようになっていた。自殺しようとしている人に2人ほどあった。いや3 人だったかもしれない。
おじさんは近所であつあつの天ぷらを買ってきては私たちにもわけた。私はおじさんにお酒をついでいた。おじさんの過去には誰も触れず(身の上話し酒のさかなになるけれど、語りたい人だけが語るのが常であった。)彼は特等席の低い椅子に腰掛け、地べたに座っている酒盛りをする私達を見守っていた。
彼の足は壊死がすすみ包帯が巻かれていたのではないかと思われる。それでもおじさんは飲み続けた。(彼は静かに自殺しているかのようだった。)
しかし、彼は病気のことをまわりには言わずに昼はアルバイトをし、その宿で過ごした。病院嫌いだったらしい。
しかし、その日は突然やってきた。ある日彼は突然亡くなったのだ。夜中、少しうなされるような声をあげたという、明け方には静かになっていた__ その時、たまたま長期組しかいなかったから、怖がる人は、誰もおらず、みんな彼を惜しみ泣いた。それが、彼が選んだ最期だったのだ。嫌いな病院で死ぬこともなかった。
不謹慎だが、少々うらやましいくらいの最期であった。もし彼が家族と一緒だったら、お酒は飲めなかったし、入院を余儀なくされたであろう。独り暮らしをしていたら、最期は一人きりでお酒を飲み、間違いなく孤独死をして、腐敗していただろう。
私は昔から「ゲストハウスなごみ」を作るという夢がある。
都会に疲れた若者から、旅を一生続ける人の帰国場所、日本語を覚えたい外国人、駆け落ちしたカップル、とうとう親に追い出されたニート、さみしがりやのシニアまでわけありな人たちが、集える愉快な宿にしたいと思っている。
赤 和歌子
とんでもないことでございます。