見出し画像

『カメラじゃなく、写真の話をしよう』──写真との向き合い方を見つめ直す新しい教科書

嵐田大志さんの著書『カメラじゃなく、写真の話をしよう』は、写真の本質に迫る新しい切り口の「教科書」です。カメラの性能や撮影技術にフォーカスするのではなく、写真を撮ることそのものの楽しさや、自己表現の手段としての写真の魅力を丁寧に紐解いています。写真初心者から経験者まで、幅広い読者に新たな気づきを与えてくれる一冊です。


写真の本質に迫る構成

本書は4つの章に分かれ、それぞれが「写真とは何か」「どう向き合うべきか」という問いを深掘りしています。特に印象に残ったポイントをいくつか紹介します。


第1章 カメラ沼にハマった先で僕が考えたこと

「良い機材で撮る=良い写真」ではない理由というエピソードでは、嵐田さんが「写真の価値は機材の性能ではなく、写真に込められた思いや視点にある」と主張しています。これは、カメラ選びや機材に悩みがちな多くの人にとって、肩の力を抜くきっかけとなる言葉です。

特に「写真歴が長い人にこそスマートフォン撮影をすすめる理由」というエピソードは、写真を撮る行為そのもののシンプルな楽しさを再発見させてくれます。スマホならではの手軽さや制約が、逆に新たな視点を生み出すという考えには大いに共感しました。


第2章 「押せば写る時代」の撮影技術を考えてみる

この章では、現代のカメラが持つ「オート機能」の素晴らしさに触れつつ、「撮影技術の均質化が進む中で、何を撮るか、どう見せるかが重要になる」と語られています。嵐田さん自身が「僕がオートで撮る理由」を明かしているエピソードは、撮影技術にこだわる必要がないことを教えてくれる一方で、個々の感性やテーマ設定の重要性を強調しています。

特に、「好きの正体を言語化しよう」というエピソードでは、撮影者自身が「自分はなぜこれを撮りたいのか」を考えることが、写真を深める鍵になると説いています。


第3章 もっと写真と向き合うために

この章では、写真をより楽しむための具体的なアプローチが紹介されています。「テーマを決めて撮ること」や「家から300m以内で撮る」という提案は、日常に新たな視点を与え、特別な環境や旅行先でなくても写真の楽しみを発見できるという示唆に富んでいます。

また、「とにかく枚数を撮れ!の罠」では、単に数をこなすのではなく、一枚一枚に意味を持たせることの大切さを説いており、写真の質を高めたい人にとって参考になるアドバイスです。


第4章 写真の本質を考える

写真とは何か?という問いに真正面から向き合う章です。嵐田さんは、「写真によって異なる時間感覚」を紐解き、写真が記憶や感情とどのように結びつくのかを考察しています。ここでは、写真が単なる視覚情報の記録ではなく、撮影者や観る人それぞれの「時間」として意味を持つことが語られています。

また、「間口が広く、奥が深い写真道」という言葉は、写真の世界に一歩踏み出すためのハードルを下げつつ、その奥深さを味わう喜びを伝えてくれます。


全体の感想

『カメラじゃなく、写真の話をしよう』は、写真を楽しむ全ての人にとっての新たな「教科書」となる一冊です。特に、カメラの性能や技術に過剰にとらわれていた自分に気づかされ、写真そのものと向き合う時間の大切さを改めて実感しました。

嵐田さんが写真に込めた視点や思いに触れることで、「自分が本当に撮りたい写真は何か」という問いを深めるきっかけとなります。この本を読み終えた後、カメラを手にするのが今まで以上に楽しみになるはずです。


いいなと思ったら応援しよう!