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『世界の美しい廃墟』 ─ 朽ちてなお残る美しさの記録

『世界の美しい廃墟』は、フランスの写真家トマ・ジョリオンが世界各国の廃墟を撮影し、その美しさと静寂を捉えた写真集です。

廃墟というと、不気味さや恐怖を連想しがちですが、本書はそうした一般的なイメージとは一線を画しています。そこにかつてあった人々の営みを想像させる「詩的な風景」としての廃墟を見せてくれる一冊でした。

世界のさまざまな場所に残る朽ちた建物が、まるで時間を超越した芸術作品のように切り取られており、見ているだけで圧倒される写真ばかり。以下に感想をまとめます。


1. 「廃墟はただの朽ち果てた場所ではない」と気づかされる

本書に登場するのは、アメリカのホテル、イタリアの城、フランスの工場、日本の旅館、旧ソ連時代の建造物など、世界中のさまざまな廃墟たち。

特徴的なのは、それぞれの場所が、単に「崩れた建物」ではなく、かつての栄華や人々の暮らしを感じさせる空間として描かれていること。

特に印象的だったのは、以下のような写真:

  • 豪華なシャンデリアがそのまま残る、廃墟となったダンスホール

  • 劇場の客席が埃にまみれながらも壮麗な雰囲気を残すオペラハウス

  • かつての司令室が無人となり、モニターだけが静かに佇む旧ソ連の司令センター

どの写真にも、かつてそこに人々が確かにいた証が残っており、それが一層「廃墟の美しさ」を引き立てています。


2. 世界各地の廃墟を一望できる壮大なスケール

本書の魅力のひとつは、世界各地の廃墟を巡るような感覚を味わえること。

掲載されている廃墟は、国や地域によって雰囲気が大きく異なります。
例えば、
🔹 アメリカの廃墟:過去の繁栄を感じさせるホテルや映画館のゴージャスな造りが印象的。
🔹 ヨーロッパの廃墟:歴史の重みが残る城や教会が多く、芸術的な構造が目を引く。
🔹 旧ソ連の廃墟:冷戦時代の軍事施設や巨大な工場跡が、時代の終焉を感じさせる。
🔹 日本の廃墟:温泉旅館やラブホテルなど、日本独特の文化的背景が見える。

どれも、単なる「古い建物」ではなく、その土地の歴史や文化を映し出すタイムカプセルのような存在に見えてきます。


3. 「静寂」と「時間の流れ」を感じる写真

トマ・ジョリオンの写真の特徴は、廃墟に漂う「静寂」を見事に切り取っていること

朽ち果てた建物に差し込む光、静かに積もる埃、風に舞うカーテン…。
どの写真にも「人の気配」はないのに、「時間の流れ」が感じられる。

特に、

  • 草木に飲み込まれつつある遊園地の観覧車

  • 崩れかけたボウリング場のレーンに転がるピン

  • 病院の診察室に散らばるカルテや医療器具

こうした写真を見ていると、かつてここで過ごした人々の姿が、幻のように浮かんできます。

静けさの中に漂う「過去の記憶」。
それが、この写真集をよりドラマチックにしている要素です。


4. 「人がいないのに物語がある」写真たち

写真集でありながら、まるで小説を読んでいるかのように「物語」を感じさせるのも本書の魅力です。

例えば、

  • 荒れ果てた礼拝堂のベンチに、一冊の古びた聖書が置かれている。

  • 廃墟となった劇場の舞台の上に、今にも誰かが登場しそうな雰囲気がある。

  • 放棄された司令センターの壁に、かつての計画が書かれたボードが残る。

「ここではどんな出来事があったのか?」
「最後にこの場所にいたのは誰だったのか?」

そんな想像を掻き立てられる写真ばかりで、一枚一枚に込められたストーリーを思い巡らせながら楽しめます。


5. 廃墟は「終わり」ではなく「新しい表情」を見せる場所

本書を読んで改めて思ったのは、廃墟はただの「終わった場所」ではないということ。

人が去ったことで、その場所は別の表情を持つようになり、
朽ちることで、建物は新たな美しさを生み出していく。

かつて栄華を誇った建物も、風雨にさらされ、自然に飲み込まれていく過程で、
「廃墟としての魅力」を生み出す

この写真集を通じて、廃墟を「滅びの象徴」としてではなく、
「時の流れが生み出した芸術作品」として見る視点が得られました。


まとめ:廃墟の美しさを再発見できる一冊

『世界の美しい廃墟』は、単なる「朽ちた建物の記録」ではなく、
時間の流れが生み出した美しさを見せてくれる一冊でした。

世界各国の150以上の廃墟を収録
かつての繁栄の記憶を感じさせる構成
静寂の中に漂う物語性が魅力的
廃墟を「終わった場所」ではなく「新たな芸術」として捉える視点

ページをめくるたびに、かつてここで生きた人々の姿が思い浮かび、
「時間の積み重ねが生んだ美しさ」に心を奪われる作品でした。

廃墟好きはもちろん、「過去の記憶が息づく場所」に魅力を感じる人には、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

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