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いま、カメラを始める人たちはCarl Zeissを知らない――伝説のブランドが影を潜めた理由

■ はじめに

かつてカメラ業界において「最高級レンズ」の代名詞だったCarl Zeiss(カールツァイス)
その名を聞くだけでプロやマニアが憧れた時代があった。しかし、今の若いカメラユーザーや初心者の間では「Zeiss? 何それ?」という反応が増えている。

なぜ、Zeissというブランドがカメラ界で影を潜めつつあるのか?
その背景を探ると、時代の変化と写真文化の変遷が見えてくる。


■ かつては「最高のレンズ」だったZeiss

Carl Zeissは19世紀に創業し、カメラ用レンズのみならず、顕微鏡や天体望遠鏡、さらには映画用レンズまで手がけてきた光学機器の老舗ブランドだ。

写真の世界では、以下のような代表的なレンズ設計を生み出した。

  • Planar(プラナー):標準レンズの基礎を築いた名設計

  • Sonnar(ゾナー):ポートレートに最適な柔らかなボケ描写

  • Distagon(ディスタゴン):広角撮影の革命的な設計

ツァイスのレンズは、ライカやハッセルブラッドといった高級カメラブランドにも採用され、
さらには映画業界でもスタンリー・キューブリックの『バリー・リンドン』や『スター・ウォーズ』で使用されるなど、伝説的な存在だった。


■ なぜ今の初心者はZeissを知らないのか?

しかし、近年カメラを始めた人たちにとっては「Zeiss」というブランドはあまり馴染みがない。
その理由には、いくつかの要因が考えられる。

① スマホ時代の到来

かつて、写真を撮るためにはフィルムカメラや一眼レフが必要だったが、今やスマホが主流。
特にスマホカメラの分野では、Leica(ライカ)やHasselblad(ハッセルブラッド)がHuaweiやOnePlusと組んで話題になっているが、Zeissの存在感は薄い。

ZeissはSony Xperiaのスマホカメラでコラボしているものの、市場での影響力は限られている。
結果として、若い世代のカメラユーザーの間では「Zeiss=スマホでは目立たないブランド」になってしまった。

② Zeissレンズは「プロ向け」すぎる

Zeissのレンズは、基本的に高価であり、さらにオートフォーカス非搭載のマニュアルフォーカスレンズが多い

例えば、「Otus 85mm f/1.4」は圧倒的な描写力を誇るが、価格は数十万円超え。
また、MilvusシリーズやLoxiaシリーズもマニュアルフォーカスが基本。

初心者や一般ユーザーにとっては、
「そんなに高くてAFもないなら、ソニーのG MasterやシグマArtを選ぶ」
というのは当然の流れだろう。

特に近年のミラーレスカメラでは、AFの進化が著しく、AF非搭載のZeissレンズは選ばれにくくなっている

③ Zeissは独自のカメラを作らなくなった

かつてZeissは、「CONTAX(コンタックス)」ブランドでカメラを製造していた。
特にCONTAX GシリーズやRTSシリーズはファンが多く、フィルムカメラ時代の名機とされている。

しかし、デジタル化の波に乗り切れず、CONTAXは2005年に事実上終了。
その結果、Zeissは「レンズメーカー」としての位置づけになり、カメラブランドとしての認知度が低下した。

一方、Leica(ライカ)は独自のカメラを作り続け、ブランドの価値を維持している。
この違いが、Zeissが「知る人ぞ知る存在」になってしまった要因のひとつだ。


■ それでもZeissはすごいのか?

Zeissの名前を知らない初心者が増えたとはいえ、Zeissのレンズが時代遅れというわけではない。

むしろ、現在でもトップクラスの光学性能を持つレンズを作り続けている。
特に以下のシリーズは、プロフェッショナルの間で根強い人気がある。

Otusシリーズ(究極の単焦点)

最高級の光学性能を誇るマニュアルフォーカスレンズ。
Otus 85mm f/1.4、Otus 55mm f/1.4 など

Batisシリーズ(Sony α向けのAFレンズ)

AF対応のZeissレンズで、解像感と色再現が素晴らしい。
Batis 40mm f/2 CF、Batis 85mm f/1.8 など

Milvusシリーズ(クラシカルな描写)

マニュアルフォーカスだが、繊細な描写と優れた耐久性を誇る。
Milvus 50mm f/1.4、Milvus 135mm f/2 など

Supreme Primeシリーズ(映画用レンズ)

ハリウッド映画やCM撮影で使用されるシネレンズ。
Supreme Prime 35mm T1.5、Supreme Prime 100mm T1.5 など


■ Zeissを知るべき理由

現在のカメラ初心者がZeissを知らないのは、時代の流れとして仕方がない。
しかし、もし**「レンズの違いで写真が変わる」**という体験をしたくなったら、一度Zeissのレンズを試してみてほしい。

特に、Zeiss特有の透明感、立体感のある描写、完璧な色再現は、他のレンズでは味わえないものがある。
AF性能では最新のG MasterやシグマArtには及ばないかもしれないが、「レンズの本質」を求めるならZeissは今でも最強の選択肢のひとつだ。

カメラの世界には、まだまだ知るべき歴史と名機が眠っている。
今のカメラユーザーがZeissを知らなくなった時代だからこそ、その価値を改めて見直すべきではないだろうか?

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