片思い始まり、片思い終わり。
私には、好きな人がいた。
去年まで、2年も片思いしてたから、思い出のかけらがそこかしこに落ちていて、本当に困る。それを見つけると、何をどうしたって、私の心が去年にタイムスリップしてしまうから。
「去年まで」と書いて、改めて、まだ1年しかたってないのかあ、と思う。恋をしていた私は、ずいぶん遠い過去のことのように感じる。
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彼と出会ったのは、高校1年生の時だった。
私は生徒会執行部の仮入部で生徒会室にいて、そこに彼もいた。どんなきっかけだったか、彼と私は地元が同じで、降りる駅も同じということが発覚した。先輩に勧められたのもあって、一緒に帰ることになった。
お互いその日がほぼ初対面、自己紹介もろくにしてなかった。帰り道、私は彼に名前を聞いたけど、なんて呼んでいいかわからなくって、しばらく名前を呼ばずに会話をしていた。
とはいっても、彼も私も話下手なものだから、電車内での会話はあまり弾まない。最初の2日くらいは一緒に帰ったものの、それからは話すことさえ減った。
話が弾まなくて気まずくなることはわかっていたのに、私は毎日のように「一緒に帰ろう」と彼を誘った。たぶん、このころから、私は彼が好きだった。
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会話が弾むようになったのは、高校2年になってから。
一緒に帰っても、1年の時のような気まずさはなくなっていた。「去年は全然話さなかったのにね」と2人で笑った。
その年の夏、一番覚えているのは、地元の花火大会。
6月の彼の誕生日、おめでとうラインとともに「花火大会一緒に行こうよ」と私が誘ったのである。
夏休み前の授業で国語の先生が「女子はさ、やっぱり花火大会には浴衣を着て行ってあげるべきだよ」なんて話をしたものだから、授業が終わった瞬間2人目を合わせて笑ったのをよく覚えている。
だけど帰りの電車で「別に先生に言われたからじゃないけど...花火大会、浴衣、着る?」と聞かれて驚いた。はずかしくって「面倒だから着ない(笑)」と答えた。すると「僕が着たら、着る?」と聞かれて嬉しくなって、迷わず「着る!」と答えた。「2人で浴衣を着て花火大会に行ける」という "現実" に、私は一気に舞い上がった。
数日後、彼から「浴衣を買わなきゃいけないけど、どこで買えばいいかわからない」とラインが来たので、お店の提案をした後「一緒に行きたい」と言うと「助かる」と言われ、一緒に行く予定を立てた。嬉しくって嬉しくって、いろんな人に「今度○○くんの浴衣を一緒に選びに行くんです!」と言っていた。
浴衣選びはなかなか大変だったけど、とても楽しかった。あとで、「○○くん(彼)も楽しかったって言ってたよ~」と聞いてさらに喜んだ。
花火大会当日は、なんと16時台に待ち合わせした。会った瞬間、彼が浴衣を着ていることでまた嬉しくなった。待ち合わせはどう考えても早すぎたけど、たくさん話して、少しだけ屋台をみてまわって、「ここの会社はお金持ちだもんね~きれいだね~」なんて言いながら花火をみて、とても楽しかった。私の足元を見ても隣を見ても浴衣なのが嬉しくて、終始うきうきしていた。
これが、一昨年のこと。
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去年の3月、いろいろあって、もう彼のことは好きじゃないな、と思った。好きじゃないな、と思うことにした、と言った方が正しい。その前まで、彼は私にとっていつだって正しかったのだけれど、たぶん、一番すれ違ってはいけない部分がすれ違ってしまったのだと思う。
「好きじゃない」と決めるだけで、私はずいぶんと泣いた。お母さんの前でも、1人でも、たくさん泣いた。勝手に好きになって、勝手にすれ違って、勝手に好きじゃない認定したくせに、なんて私は自分勝手なんだろう。
その年の花火大会には行かなかった。彼も、行かなかったらしい。
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1週間くらい前、部屋の整理をしていると、彼からの去年の年賀状を見つけた。
去年は思い出の多い年だったと思います。今年もたくさん思い出を作りましょう!
今年は車の免許を取る予定なので、安全第一で、安全運転で、どっかいけたらいいね。
告白してないしされてないけど、こういう一言ひとことに、去年の私は喜んでいた。
その2ヶ月後には「もう好きじゃない」なんていってる。
胸がきゅっと苦しくなった。
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冒頭の話に戻る。
大好きだった彼の言葉や、一緒に行った場所や、誕生日。思い出すたびに、行くたびに、時期が来るたびに、やっぱり私の心は去年にタイムスリップしてしまう。年賀状だって、タイムスリップには十分すぎる材料だった。
やっぱり好きかもしれない。いや、もう無理なの。でも彼の言葉が好き。話せると嬉しい。彼の心の中に私がいますように。思い出が忘れられていませんように。会うたび心が苦しい。もう私の前に姿も名前も現さないで。ねえ、私のこと、どう思ってる?
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たぶん、彼は私の初恋だった。
思春期の2年は長い。前に進もうとしたって、いろんな思い出のかけらですぐ引き戻されてしまう。
けれど。
それでも私は、足を前に出す。思い出のかけらに引っ張られても、それを抱きしめて、引きずって、未来に向かって歩いていく。
そうして時々振り返って、引きずった跡をみて、よく歩いてきたと自分をほめる。
そしてふと思うのだ。
ああ、やっぱり私は、君が好きだった。