自転車1


お昼すぎに起きた。

どうやら台風は過ぎ去ったみたいだ。

1人暮らしのせいで、何の情報も入ってこない。

被害がないか確認するために、ベランダに出た。


空気が澄んでいて、太陽があたたかくて、気持ちがいい。

「湖に行きたいな。」

ふと思った。


ただ、友人を誘おうにも、こんな日に誘ったら断られるだろう。

車もないから、行く手段がない。


「あの自転車があった。」

彼が数年前にここから引っ越す時に、置いていったものだ。


わたしには兄がいた。

兄は自転車に乗って友達とどこかへ遊びに行く。

わたしは、女の子だからダメと、自転車で出かけることを禁止されていた。

わたしが遅くなる時には、危ないからと、必ず母が車で迎えにきた。

兄はどんなに遅くなっても、自転車で帰ってくる。


兄は、常に母に守られているわたしが、羨ましいらしかった。

わたしは、自分の足でどこまでも行く兄が、羨ましかった。



「この自転車に乗って、自分の足で、自分の行きたいところに行ってごらん。」


湖までのルートを調べた。

マップでみると、案外近くに感じた。

よし、行けそうだ。


マンションの玄関にある空気入れを借りて、タイヤに空気を入れる。

兄の自転車の空気入れを手伝ったことがあったので、なんとなくやり方はわかる。


両手が真っ黒になった。

よし、出発だ。



赤と青


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