『Shibuy Sillie Stree』-15

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 先生が喋った。

 久々に声を聞いた気がする。蚊の鳴くような声、というのはこの人のことを言うんだと、最初に出くわした時に思った。小さい声なんだけど、なぜか聞こえる。人混みのなかでも、聞こうと集中すれば聞こえる。不思議な発声方法なんじゃないかと思うほど。だけど、先生は普段はまったくしゃべらない。指差したり、顎をしゃくったり。声を出すのが体に悪いことのように、しゃべらない。僕はスカウトされたときと、ここに初めて連れてこられて、バイトの内容を聞かされたとき以来、先生の声を聞いてなかった。でも、この不思議な声というか発声は、他で聞いたことがないので、すぐに先生だとわかる。

 先生は僕に初めてあったときも、同じ挨拶をした。

「小時田と申します。東洋医学全般の研究及び施術を行っている者です」

 そして、1枚の名刺を僕に差し出した。名刺は白いごく普通の名刺で、表に医学博士という肩書、小時田洵という先生の名前、Makoto Otokidaという英語表記の名前、そして携帯の電話番号が書いてあった。裏は白紙。

「あなたは特殊な能力……いえ、本来必要な能力が一部失われている方とお見受けしました。よろしければ、私のところでアルバイトをしませんか?」

 なにを言っているのかわからなかったけど、当然このときもぼーっとしてたので「はい」って返事をしてしまって、いまいる部屋に連れてこられたんだった。

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