
カネト=サンのカラテ描写について -『エスケープ・フロム・ホンノウジ』より
前に投稿したニンジャ自由研究をしている中で、「エスケープ・フロム・ホンノウジ」 を読み返したらあまりにも熱い展開にあてられて、一気に書いてしまった感想です。感想というか、ほとんどカネトのことしか話してないです。あと引用がめちゃくちゃ多くて申し訳ないです。というかこのエピソードを全部読み返してほしいです。まだ読んでいない人は幸運です。是非読んでください。
シーズン3に入ってからのニンジャスレイヤーの物語の中に出てくるようになった「チューニン」というニンジャたちは、けっして目立つ存在ではない。ニンジャであればスリケンで一撃、ちょっと強い武器を持ったモータルでも殺すことができるような存在である。シーズン3におけるクローンヤクザのような存在である。
そのチューニンに焦点が当たったのが『エスケープ・フロム・ホンノウジ』というエピソードである。
カネトというチューニンが登場するのは、セクションの3からである。彼はアケチ・ニンジャから直々にカイデンされる機会を得ながらも、あまりにもおぞましいネザーオヒガンの光景や特別なコクダカに恐れをなし逃げ出した。それゆえに彼はアケチ勢から見れば惰弱である。
カネトのカラテ
このカネトという男、物語の最初カラテをほとんど描写されない。セクション3、ネザーオヒガンで一緒にいるクレイグ隊長がオニたちを倒す中、
オニが鞭を振り上げた瞬間、片目包帯はショルダータックルをかけた。「イヤーッ!」「グワーッ!」オニは身体をくの字に曲げて吹き飛び、転がった!カネトは勇気を振り絞り、走り込んで、脇腹にケリを入れた!「イヤーッ!」「グワーッ!」オニは転がり、溶岩川に落下!SPLAASH!「グワーッ!」 38
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 16, 2020
とあるのが最初のカラテの描写である。
「俺はカネト。ネザーキョウのチューニンだ……あんたは、UCAか?」「……そうだ」2人は川辺を走り出した。行く手の小石積み奴隷が弱々しく脇にのく。「AAAARGH……」新たなオニが行く手を塞ぐ。「イヤーッ!」クレイグは跳び、キリモミ回転からのトビゲリを食らわせた。「グワーッ!」ワザマエ! 40
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 16, 2020
クレイグ隊長に比べると随分とモッサリとしたカラテである。
潜伏していたドンブリ食堂「だのや」の人や仲間を助けるために、ゲニンたちをファイアストーム隊員たちが撃っている中で、セクション5における彼のカラテ描写は
「イヤーッ!」クレイグはスリケンを投げた。スリケンは絞首ロープをいちどきに切断し、三人は落下した。BRATATATATATA!BRATATATATATA!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」銃声、カラテシャウト。クレイグの隣にはカネトがおり、カラテをふるった。彼はクレイグと共に戦うしかないのだ。 32
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 20, 2020
だけである。ニンジャと呼ぶにはあまりにも頼りない。
カネト本人のカラテが元々どうであったかは不明である。
「お前、随分やるじゃんか」アシュリーが銃をリロードしながら褒めた。カネトは笑いもせず、チューニンの死体を蹴り飛ばした。「俺をあんまりナメるな。ダメになったにせよ、タイクーンにお目通りするところまでは行ったんだ。こんなトロフィー置き場を警備してる奴らなんざ、閑職だぜ」 20
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 28, 2020
と本人は言っているが、彼が英雄視していたマイトイカラス=サンもだいたいわかったマスラダによって倒されていることもあり、おそらくニンジャスレイヤーに遭遇していれば一瞬で爆発四散させられる程度だろう。
そのカネトの描写は徐々に変化していき、セクション6以降カネトのカラテ描写は増えていく。
一人は空中に生じたタタミ壁に顔面から衝突して落下し、トムのナイフでトドメを刺された。もう一人はスリケン数枚で撃ち抜かれ、死体となってタタミに衝突した。カネトだ。「進め!」クレイグはレザを抱え、曲がりくねった道を指差した。バチバチとネオン看板が光った。「不如帰」と書かれていた。 10
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 24, 2020
「……!」「イヤーッ!」クレイグはアシュリーの眼前にタタミを生じた。KRAAASH!スモトリが頭からタタミにぶつかった。亀裂を生じたタタミの上に、意を決して飛び乗ったのはカネト。彼は再跳躍、ストンピングでスモトリの脳天を砕いて殺した!「アバーッ!」「く……来るなら来やがれ」「前へ!」 14
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 24, 2020
セクション4以降、はっきりと描写されているイクサの中で、クレイグ隊長によって倒されたチューニン、ゲニンたちは5忍である。ちょっとそれについて自由研究のために作った一覧があるので見て欲しい。上から爆発四散した順になっている(読みにくくてすまんな、本当にすまん)。ただしこれはニンジャ対ニンジャの爆発四散についての研究であったため、他の隊員の記録はない。しかし、明らかにカネトがはたす役割がファイアストーム隊の中で増えているのは明らかである。
「エスケープ・フロム・ホンノウジ」
#2-23から24 左のゲニン 2(クレイグ隊長、トムがカバー)
#2-23から24 右のゲニン 2(クレイグ隊長によって)
#2-33から34 トラック運転席に乗っていたチューニン・トルーパー 2(クレイグ隊長によって)
#4-24から25 マレボル 2(クレイグ隊長によって)
#5-28 カネトのことを知っていたゲニン 1(クレイグ隊長によって)
#5-30から31 チューニン 2(クレイグ隊長によって)
#5-35 正面から来たゲニン 1(クレイグ隊長によって)
#6-9 死体を超え迫るゲニン 1(カネトによって))
#6-9から10 チューニン 2(クレイグ隊長によって)
#6-9から10 チューニン 2(カネトによって)
#6-13から14 スモトリゲニン 2(カネトによって)
【屈強区第二広場:#6-23から41】
#6-26から36 チューニン騎兵 11(カネトによって)
#7-22から30 ポゼッション 9(カネト)
#7-18から34 クレイグ隊長 17(ジェイソンによって)
#8-10から13 オムロが残高ゼロのバイクチューニン二人 3(カネトによってカイシャク)
#8-16から18 チューニン 3(カネトの飛び蹴りによって)
#8-16から19 チューニン 4(カネトが喉にチョップしたことにより)
#8-34から38 ゲニン3忍 5(カネトによって)
#8-46から47 カイトゲニン 2(カネトによって)
◇#7-18から34 ジェイソン 17(対クレイグ隊長)
◇#8-47から51、#9-1から11、 ジェイソン 15(対カネト)
#9-18から34 ジェイソン 17(対フィルギア、トム、#30からファイアストーム)
個人的にはこの表を見るだけで泣けてくるカネトのカラテ思い出アルバム
クレイグ隊長は隊員たちを守るためにタタミで防壁を作ったりと忙しい中での単純な比較はできないが、カネトは恐れを抱えつつも戦っている。
そして遂には名前を持ったニンジャとも戦う。
「イヤーッ!」「グワーッ!」ナムサン!ポゼッションはカラテ不得手!カネトのカラテを防ぐが、後退を強いられた。そしてクレイグはドーンブレイドと一対一のイクサに持ち込んでいた!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」激しい近接カラテ応酬! 27
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 26, 2020
「イヤーッ!」クレイグはカイシャクのチョップを振り上げた。一方、血みどろの塚においてはポゼッションがカネトの腹にミドルキックを命中させ、跳ね飛ばすと、額の前で両手を合わせ、己の守りを捨てて、全力をジツに振り向けた!「ハンニャアアア!」「グワーッ!」クレイグのチョップが止まった!29
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 26, 2020
BLAMN!BLAMN!BRATATATATA!自己犠牲的な動きであった。ポゼッションは三者の銃撃を一斉に浴び、全身から血を噴き出させた。「イヤーッ!」カネトがスリケンを投擲し、トドメを刺した。「サヨナラ!」ポゼッションは爆発四散した。そしてドーンブレイドの刃は、クレイグの腹を貫いていた。 30
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 26, 2020
もちろんこれは彼一人の戦果ではないが、それでもオニに怖がっていた彼が自分よりも強い存在に立ち向かうようになったのである。
クレイグ隊長が爆発四散した後、カネトはニンジャとして、道案内としてファイアストーム隊を脱出させるために行動するようになる。このあたりになると、カネトのカラテの描写もかなり変化する。
ゴウウウウン!獅子飾りが施された橋の下をくぐり、ドリフトし、岸に殆ど体当りするようにして、彼らは石畳の上に転がり出た。BRATATA!BRATATATA!アシュリーが駆け寄ってきたチューニンに左右のアサルトライフルで射撃、怯ませたところを、カネトがトビゲリで殺した!「イヤーッ!」「グワーッ!」18
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 28, 2020
前方には仰々しい格子門!「あれか!」問うまでもない。門には猛々しいショドー・レリーフ「戦利の殿堂区」が飾られていた。BLAM!BLAMN!トムは門の錠を破壊し、蹴り開けた。「デ……デアエーッ!」チューニンが泡を食うが、カネトは素早く間合いを詰め、喉にチョップを突き刺し、殺した! 19
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 28, 2020
見事な連携である。
「戦車だと!」カネトがゲニンを殺しながら叫んだ。「テメェの国の持ち物だろうが」アシュリーは毒づいた。「イヤーッ!」コンテナを飛び越えてくるゲニンの頭を掴み、地面に叩きつける。カネトも1人、2人とゲニンを殺し、戦車に苦し紛れのスリケンを投げた。「イヤーッ!」 38
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 28, 2020
カネトのカラテは明らかに鋭さを増している。もはやゲニン一人一人とのイクサでも危うさはなく、すっきりと無駄のないカラテは描写が省かれている。
そして遂に、カネトはジェイソンと戦う。
「このまま飛べ!」カネトは叫び、ドーンブレイドを殴りつけた。「コイツは問題ない……俺が殺る!イヤーッ!」「イヤーッ!」ドーンブレイドは拳を防ぎ、殴り返した。二者は極めて不安定な状況下で争い合っていた。「大好きなジゴクへ帰るがいいぜ……ジェイソン=サン!」「お前が……帰るんだ」49
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 28, 2020
「イヤーッ!」「グワーッ!」カネトがドーンブレイドを殴りつけた。メンポが遥か下の大地へ落下していった。「名……名無しのチューニン風情が……!」「うるせえぞジェイソン=サン。俺をナメるな。俺は……」カネトは目を血走らせた。「俺は男になったぜ。多分な。イヤーッ!」「グワーッ!」 51
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 28, 2020
ここまでくると、「カネトは勇気を振り絞り、走り込んで、脇腹にケリを入れた!」のようなもたもたしたカラテはまったく見当たらない。
「ファイアストーム」とは
カネトの目的はファイアストームの隊員たちのものとは異なる。隊員たちはそれぞれの任務の達成を目的としている。その中でもクレイグ隊長は隊員たちをUCAに連れて帰ることが目的である。しかしカネトはネザーキョウから出て生き延びることが目的である。
「俺は必ず昇進する」「俺もだ」「俺も」「クッ……わかったよ。俺がおかしいだけだ」カネトは俯いた。こんな惰弱な精神状態では実際まずい。勝ちまくって成り上がる。カネトに残された道はそれだけだ。彼は妻と離婚し、親権も失って、身一つでネオサイタマからネザーキョウにやってきた。 7
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 16, 2020
これがカネトがチューニンとなった理由である。
残された最後の道を失った彼だが、まだ未練があった。
カネトは唸った。「俺もイカス名前が欲しかった」こうして敵と共に逃走しながらも、己の惰弱によって黄金のイサオシの道が永遠に閉ざされた事への悔悟がむくむくと湧き上がる。とはいえ、己を恥じてセプクする勇気もなかった。「俺の未来はネザーキョウの外にしかねえ。このクソジゴクの外にしか」 4
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 18, 2020
何度もカネトは悔恨の言葉を口にする。それに対し、
「カネト=サン。お前の進む道は、前にしかない筈だ」クレイグは言った。「俺にはネザーキョウのイサオシもコクダカもわからん。だが、共に行動する以上、敢えてそう言わせてもらう。得られなかった物事をくよくよ考えるな」「頭では……頭ではわかってるさ」彼らは走った。前方にオニがいる! 10
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 18, 2020
クレイグ隊長はこう言った。
セクション9でのジェイソンとの戦いの中、カネトはこう言う、
「うる……せェ……クソがーッ!」カネトは強引にドーンブレイドの手を蹴り払った。「グワーッ!」ドーンブレイドは片手でスキッドに捕まり、ぶら下がり状態となる。「ああそうだ、俺には何もねえ。妻も子も帰っちゃこねえ。俺に愛想を尽かしたんだ。文明国に戻ったところで仕事のアテもねえ!」 6
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 30, 2020
「そうだ……役立たずの屑の命を俺が狩り、役立ててやるというのだ!」「うるせェ……テメェはその屑に勝てやしねえ。俺は……!」トムはヘリの機首を振って、ドーンブレイドを振り落とそうとした。だがドーンブレイドは一瞬の隙きをつき、懸垂選手めいて身体を跳ね上げた!「イヤーッ!」復帰! 7
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 30, 2020
彼はもはや悔やんでいない。得られなかった物事をくよくよ考えず、自分の状況を受け入れ、その上でさらに前へと進むことを選んだのだ。
だからこそ彼は「ファイアストーム」となったのである。
平民に威張るだけの能無しを尻目に、自主的な瓦割りやビースト狩りに勤しみ、ヤマザキのイクサでジェイソンと共に最前線へ切り込み、敵将を討った。UCAニンジャとこちらのセンシがほぼ相打ちになったところのおこぼれをもらったわけだが、イサオシはイサオシだ。 8
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 16, 2020
これはセクション3でカネトがチューニンとなる前の出来事であるが、これがセクション10において繰り返される。
ファイアストームが背骨を折り、自身の炎で焼かれたジェイソンをトムとフィルギアが追い詰めた後に登場するのがカネトである。彼はこの時、自らのことを「ファイアストーム」と名乗る。
これはクレイグ隊長が亡くなる場面での
「隊長!」トムが悲鳴をあげた。「離せ……死ね!」ドーンブレイドが身体を軋ませながら必死に抗った。「地下鉱山火災」クレイグは呟いた。「俺の命はあそこに置いてきた。俺の名はファイアストームだ。ドーンブレイド=サン」「グワーッ!」「ファイアストーム隊は俺なのだ!」「グワーッ!」 32
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 26, 2020
「カネト=サン!ファイアストームを頼むぞ!」クレイグは叫んだ。ドーンブレイドの背骨がバキバキと音を立てた。「アバーッ!アバババーッ!俺は……俺は……俺はセンシ……!」クレイグの背中を割って飛び出した刃が直視できぬほど強く輝く!「イヤーッ!」クレイグは力を込めた!KRA-TOOOOM! 33
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 26, 2020
という一連の流れによってカネトたちファイアストーム隊全員に与えられた名なのだろう。特にここでカネトを指名したことにより、企業という背景を持たないカネトを「ファイアストーム」へと強烈に結びつけることになったのだろう。
ニンジャネームは魔術的なものである。カネトがただのチューニンであることを考えると、カイデンされたジェイソンですらなんとか助かったような落下で、腹に穴が空きながらも生存することは難しいはずである。その中で彼は蘇り、ファイアストームと名乗った。まるで憑依ニンジャであるが、彼はただのチューニンである。ある意味でそれは残酷である。
ニンジャは頷き、カネトに向かってアイサツした。「ドーモ。ドーンブレイドです」カネトは恐怖に後ずさったが、アイサツには応えねばならない。「ドーモ。カネトです。お前……ジェ……ジェイソン=サンなのか、本当に」「フフ」ドーンブレイドは微笑んだ。「お前はその段階に留まった弱者だな」18
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 26, 2020
セクション7にて相対した時、カネトとドーンブレイドはこのようにアイサツをした。それがセクション10では、
「イイイイイ……イイイヤアーッ!」ドーンブレイドは下手投げでUCA兵を、投げ飛ばした!「グワーッ!」UCA兵は地面を転がり、仰向けに倒れた。「……」ドーンブレイドはUCA兵を睨み、それから目を上げた。「……?」木の枝を押しのけ、近づいてくる姿があった。「……カネト=サン……だと……?」 29
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 30, 2020
「ドーモ」茶色装束のニンジャはドーンブレイドを見据え、アイサツした。「ファイアストームです」「ファイアストーム……?」ドーンブレイドは震えた。「……だ……惰弱な!貴様はカネト=サンだ!」「それを言うなら、お前はジェイソンだろうが」「貴様は名を与えられていない!」「知るか……!」30
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 30, 2020
となっている。ここで完全に二人の立場は逆転した。
登場してすぐの頃のカネトは何回も「わからない」と口にしていた。戦いを重ね、カラテの描写が変化し、「知るか……!」と言い切れる強さをカネト=サンは手に入れた。
ここで思い出されるのが、一個前のエピソードのこの場面である。
「ニンジャスレイヤー?」ディヴァイダーは不吉な名前に眉根を寄せる。「何だか知らぬが貴様、ネザーキョウのニンジャではないな。ネザーキョウにおいて、タイクーンのコクダカを受け入れぬトザマの権利は著しく制限されている事、知らぬわけもあるまいな」「知らん。感謝する。どうでもいい」 1
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) December 23, 2019
S3第5話【ドリームキャッチャー・ディジタル・リコン】より
このマスラダの力強く強烈で簡潔な「知らん。感謝する。どうでもいい」と同じ響きが、このカネト=サンにもある。
「そのビデオを……チッ」クレイグは状況判断し、両手を開ける必要に思い至った。「離さずついて来い」「わ……わかった」カネトは頷いた。死に際の「博士」の言葉の記憶が背筋を凍らせた。「この世界がネザーオヒガンとやらか」「多分」「何がどうなっている。カネト=サン」「わからない……」 41
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 16, 2020
わからない。わかりようもない。とにかく侮ってはならないのだ。トムが後にする都は常識の通用しない世界だ。地獄が口を開け、オニが徘徊し、バケモノがのたうつ世界に、文明国の尺度は通用しないのだから……!「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」機体が揺れる! 3
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 30, 2020
ネザーキョウの「わからない」を打ち破ることができるのは「知らん」「知るか」という言葉なのである。
一方ドーンブレイドにはファイアストームの名前の持つ魔術性を理解していない。それはカネトがこの一連の逃走の中で掴んだものである。それ以前のカネトしか知らないジェイソンであるドーンブレイドは勝つことができない。
殴られながら、時間がゆっくりになった。やはりだ……打撃は知れている。何がファイアストームか。カネトは惰弱なチューニンに過ぎない。妄想、思い込みに過ぎない。だが……「グワーッ!」今のドーンブレイドは彼のカラテを受けきることができない!続くハイキックが避けられない!「グワーッ!」 32
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) March 30, 2020
カネトのカラテは確かに頼りなく、チューニンの強さというものはたいしたことがないと考えられる。しかしその中でカネトは必死にあがいた。それは彼自身が生き延びるためのカラテではない。もしそう思っていたのなら、ジェイソンやトムの後を追うことはなかったはずである。彼があの場所に来たのは、彼がファイアストームだからであり、彼がふるうカラテはファイアストームのものである。
チューニンは強いニンジャではない。しかしそこから強さを得ることがあるとするならば、それはアケチ・ニンジャによって与えられるだけのものでなく、彼ら自身が自身の意志で掴み得ることのできるものなのだ。
追伸:
連載当時読んでいた時、カネトが飛行機から墜落後に帰ってきたのを見て、憑依ニンジャになったのかと一瞬喜んだ後、ボロボロの彼の様子を見て違うことが分かって悲しかった。憑依ニンジャになれれば助かるかもしれないと思ったので……。でもそんな感傷を吹き飛ばすようなすがすがしさもあって。
この場面を思うたび、「ニンジャ・サルベイション」でユダカのこのシーンを思い出します。
「何で」「イヤーッ!」「グワーッ!」青緑のニンジャがキャリバーの脇腹に蹴りをくらわせる。キャリバーは鉄パイプに手をのばす。即座にそれが剣にかわる。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」剣が弾き飛ばされる。「何で」ユダカは嗚咽した。「何で俺はニンジャじゃねえんだよ」 56
— ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer (@NJSLYR) April 12, 2015
この感情についてはまだ言葉にできないです。自分の死を覚悟した絶望的な場面で、「ファイアストームです」とアイサツをした彼のことを悲壮だと感じると同時に神々しくもあり……やっぱり説明できません。でもすごく良いシーンですよね。
追伸2:
このエピソードのように、ちょっとどうしようもない部分のある人々が経験を通じて生まれ変わったように別の人生を知るという展開は他にもあります。「リボルバー・アンド・ヌンチャク」とか、「アンエクスペクテッド・ゲスト」のように。ほろ苦さは残るがどちらも名エピソードでわたしは好きです。
ただこの二つのエピソードと比較すると、AOMでも大家兼シェリフとして生きるジュンゴーと、名医として清々しく晴れやかに死んだカブセとは違い、カネトが自分の最期を知って欲しかったであろう元妻や娘たちは永遠に知ることができないという悲しさが強烈に残ります。トムはカネトがファイアストームとして死んだことを知っていますが、過去の思い出については聞いていません。だから墓の位置を伝える相手もいません。
もしも彼がここで生き延びることができたならば、リアルニンジャになる道もあったり、家族の元に帰ることもできたかもしれない、と思うとショッギョ・ムッジョと思わずにはいられません。とはいえ本人は満足して亡くなっているので、生きている人間の欲がもっと彼に与えられるものがあったらと感じているだけに過ぎないでしょう。
ただカネトがこの戦いで得たカラテがトムを守り、ファイアストームがUCAへと戻り、ネザーキョウへと大打撃を与える要因の一つとなったことが彼の生きた証でしょう。個としては死んだかもしれませんが、彼のカラテはネザーキョウを揺るがす大きな流れを生んだのです。
?読み返したくなりましたか?
↓はい↓
「エスケープ・フロム・ホンノウジ」
おわり