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カネト=サンのカラテ描写について -『エスケープ・フロム・ホンノウジ』より

 前に投稿したニンジャ自由研究をしている中で、「エスケープ・フロム・ホンノウジ」 を読み返したらあまりにも熱い展開にあてられて、一気に書いてしまった感想です。感想というか、ほとんどカネトのことしか話してないです。あと引用がめちゃくちゃ多くて申し訳ないです。というかこのエピソードを全部読み返してほしいです。まだ読んでいない人は幸運です是非読んでください


 シーズン3に入ってからのニンジャスレイヤーの物語の中に出てくるようになった「チューニン」というニンジャたちは、けっして目立つ存在ではない。ニンジャであればスリケンで一撃、ちょっと強い武器を持ったモータルでも殺すことができるような存在である。シーズン3におけるクローンヤクザのような存在である。

 そのチューニンに焦点が当たったのが『エスケープ・フロム・ホンノウジ』というエピソードである。

 カネトというチューニンが登場するのは、セクションの3からである。彼はアケチ・ニンジャから直々にカイデンされる機会を得ながらも、あまりにもおぞましいネザーオヒガンの光景や特別なコクダカに恐れをなし逃げ出した。それゆえに彼はアケチ勢から見れば惰弱である。

カネトのカラテ

 このカネトという男、物語の最初カラテをほとんど描写されない。セクション3、ネザーオヒガンで一緒にいるクレイグ隊長がオニたちを倒す中、

とあるのが最初のカラテの描写である。

 クレイグ隊長に比べると随分とモッサリとしたカラテである。

 潜伏していたドンブリ食堂「だのや」の人や仲間を助けるために、ゲニンたちをファイアストーム隊員たちが撃っている中で、セクション5における彼のカラテ描写は

だけである。ニンジャと呼ぶにはあまりにも頼りない。

 カネト本人のカラテが元々どうであったかは不明である。

と本人は言っているが、彼が英雄視していたマイトイカラス=サンもだいたいわかったマスラダによって倒されていることもあり、おそらくニンジャスレイヤーに遭遇していれば一瞬で爆発四散させられる程度だろう。

 そのカネトの描写は徐々に変化していき、セクション6以降カネトのカラテ描写は増えていく。

 セクション4以降、はっきりと描写されているイクサの中で、クレイグ隊長によって倒されたチューニン、ゲニンたちは5忍である。ちょっとそれについて自由研究のために作った一覧があるので見て欲しい。上から爆発四散した順になっている(読みにくくてすまんな、本当にすまん)。ただしこれはニンジャ対ニンジャの爆発四散についての研究であったため、他の隊員の記録はない。しかし、明らかにカネトがはたす役割がファイアストーム隊の中で増えているのは明らかである。

「エスケープ・フロム・ホンノウジ」
#2-23から24 左のゲニン 2(クレイグ隊長、トムがカバー)
#2-23から24 右のゲニン 2(クレイグ隊長によって)
#2-33から34  トラック運転席に乗っていたチューニン・トルーパー 2(クレイグ隊長によって)
#4-24から25 マレボル 2(クレイグ隊長によって)
#5-28 カネトのことを知っていたゲニン 1(クレイグ隊長によって)
#5-30から31 チューニン 2(クレイグ隊長によって)
#5-35 正面から来たゲニン 1(クレイグ隊長によって)
#6-9 死体を超え迫るゲニン 1(カネトによって))
#6-9から10 チューニン 2(クレイグ隊長によって)
#6-9から10 チューニン 2(カネトによって)
#6-13から14 スモトリゲニン 2(カネトによって)

【屈強区第二広場:#6-23から41】
#6-26から36 チューニン騎兵 11(カネトによって)

#7-22から30 ポゼッション 9(カネト)
#7-18から34 クレイグ隊長 17(ジェイソンによって)

#8-10から13 オムロが残高ゼロのバイクチューニン二人 3(カネトによってカイシャク)
#8-16から18 チューニン 3(カネトの飛び蹴りによって)
#8-16から19 チューニン 4(カネトが喉にチョップしたことにより)
#8-34から38 ゲニン3忍 5(カネトによって)
#8-46から47 カイトゲニン 2(カネトによって)
◇#7-18から34 ジェイソン 17(対クレイグ隊長)
◇#8-47から51、#9-1から11、 ジェイソン 15(対カネト)
#9-18から34 ジェイソン 17(対フィルギア、トム、#30からファイアストーム)
個人的にはこの表を見るだけで泣けてくるカネトのカラテ思い出アルバム

 クレイグ隊長は隊員たちを守るためにタタミで防壁を作ったりと忙しい中での単純な比較はできないが、カネトは恐れを抱えつつも戦っている

 そして遂には名前を持ったニンジャとも戦う。

 もちろんこれは彼一人の戦果ではないが、それでもオニに怖がっていた彼が自分よりも強い存在に立ち向かうようになったのである。

 クレイグ隊長が爆発四散した後、カネトはニンジャとして、道案内としてファイアストーム隊を脱出させるために行動するようになる。このあたりになると、カネトのカラテの描写もかなり変化する

 見事な連携である。

 カネトのカラテは明らかに鋭さを増している。もはやゲニン一人一人とのイクサでも危うさはなく、すっきりと無駄のないカラテは描写が省かれている。

 そして遂に、カネトはジェイソンと戦う。

 ここまでくると、「カネトは勇気を振り絞り、走り込んで、脇腹にケリを入れた!」のようなもたもたしたカラテはまったく見当たらない。

「ファイアストーム」とは

 カネトの目的はファイアストームの隊員たちのものとは異なる。隊員たちはそれぞれの任務の達成を目的としている。その中でもクレイグ隊長は隊員たちをUCAに連れて帰ることが目的である。しかしカネトはネザーキョウから出て生き延びることが目的である。

これがカネトがチューニンとなった理由である。

 残された最後の道を失った彼だが、まだ未練があった。

 何度もカネトは悔恨の言葉を口にする。それに対し、

 クレイグ隊長はこう言った。

 セクション9でのジェイソンとの戦いの中、カネトはこう言う、

彼はもはや悔やんでいない。得られなかった物事をくよくよ考えず、自分の状況を受け入れ、その上でさらに前へと進むことを選んだのだ。

 だからこそ彼は「ファイアストーム」となったのである。

 これはセクション3でカネトがチューニンとなる前の出来事であるが、これがセクション10において繰り返される

 ファイアストームが背骨を折り、自身の炎で焼かれたジェイソンをトムとフィルギアが追い詰めた後に登場するのがカネトである。彼はこの時、自らのことを「ファイアストーム」と名乗る。

 これはクレイグ隊長が亡くなる場面での

という一連の流れによってカネトたちファイアストーム隊全員に与えられた名なのだろう。特にここでカネトを指名したことにより、企業という背景を持たないカネトを「ファイアストーム」へと強烈に結びつけることになったのだろう。

 ニンジャネームは魔術的なものである。カネトがただのチューニンであることを考えると、カイデンされたジェイソンですらなんとか助かったような落下で、腹に穴が空きながらも生存することは難しいはずである。その中で彼は蘇り、ファイアストームと名乗った。まるで憑依ニンジャであるが、彼はただのチューニンである。ある意味でそれは残酷である。

 セクション7にて相対した時、カネトとドーンブレイドはこのようにアイサツをした。それがセクション10では、

となっている。ここで完全に二人の立場は逆転した。

 登場してすぐの頃のカネトは何回も「わからない」と口にしていた。戦いを重ね、カラテの描写が変化し、「知るか……!」と言い切れる強さをカネト=サンは手に入れた。

 ここで思い出されるのが、一個前のエピソードのこの場面である。

 S3第5話【ドリームキャッチャー・ディジタル・リコン】より

 このマスラダの力強く強烈で簡潔な「知らん。感謝する。どうでもいい」と同じ響きが、このカネト=サンにもある。


 ネザーキョウの「わからない」を打ち破ることができるのは「知らん」「知るか」という言葉なのである。

 一方ドーンブレイドにはファイアストームの名前の持つ魔術性を理解していない。それはカネトがこの一連の逃走の中で掴んだものである。それ以前のカネトしか知らないジェイソンであるドーンブレイドは勝つことができない。

 カネトのカラテは確かに頼りなく、チューニンの強さというものはたいしたことがないと考えられる。しかしその中でカネトは必死にあがいた。それは彼自身が生き延びるためのカラテではない。もしそう思っていたのなら、ジェイソンやトムの後を追うことはなかったはずである。彼があの場所に来たのは、彼がファイアストームだからであり、彼がふるうカラテはファイアストームのものである。

 チューニンは強いニンジャではない。しかしそこから強さを得ることがあるとするならば、それはアケチ・ニンジャによって与えられるだけのものでなく、彼ら自身が自身の意志で掴み得ることのできるものなのだ。

追伸:

 連載当時読んでいた時、カネトが飛行機から墜落後に帰ってきたのを見て、憑依ニンジャになったのかと一瞬喜んだ後、ボロボロの彼の様子を見て違うことが分かって悲しかった。憑依ニンジャになれれば助かるかもしれないと思ったので……。でもそんな感傷を吹き飛ばすようなすがすがしさもあって。

 この場面を思うたび、「ニンジャ・サルベイション」でユダカのこのシーンを思い出します。

 この感情についてはまだ言葉にできないです。自分の死を覚悟した絶望的な場面で、「ファイアストームです」とアイサツをした彼のことを悲壮だと感じると同時に神々しくもあり……やっぱり説明できません。でもすごく良いシーンですよね。


追伸2:

 このエピソードのように、ちょっとどうしようもない部分のある人々が経験を通じて生まれ変わったように別の人生を知るという展開は他にもあります。「リボルバー・アンド・ヌンチャク」とか、「アンエクスペクテッド・ゲスト」のように。ほろ苦さは残るがどちらも名エピソードでわたしは好きです。

 ただこの二つのエピソードと比較すると、AOMでも大家兼シェリフとして生きるジュンゴーと、名医として清々しく晴れやかに死んだカブセとは違い、カネトが自分の最期を知って欲しかったであろう元妻や娘たちは永遠に知ることができないという悲しさが強烈に残ります。トムはカネトがファイアストームとして死んだことを知っていますが、過去の思い出については聞いていません。だから墓の位置を伝える相手もいません。

 もしも彼がここで生き延びることができたならば、リアルニンジャになる道もあったり、家族の元に帰ることもできたかもしれない、と思うとショッギョ・ムッジョと思わずにはいられません。とはいえ本人は満足して亡くなっているので、生きている人間の欲がもっと彼に与えられるものがあったらと感じているだけに過ぎないでしょう。

 ただカネトがこの戦いで得たカラテがトムを守り、ファイアストームがUCAへと戻り、ネザーキョウへと大打撃を与える要因の一つとなったことが彼の生きた証でしょう。個としては死んだかもしれませんが、彼のカラテはネザーキョウを揺るがす大きな流れを生んだのです。


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エスケープ・フロム・ホンノウジ

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