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シン・鶴の恩返し【短編小説#19】

昔、昔あるところに貧しかったけど、徐々に裕福になりつつあるおじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある寒い雪の日、おじいさんは罠にかかっている一羽の鶴を見つけました。

「おやまぁ、可愛そうに。さぁさぁ、はなしてあげる。これから気をつけるんだよ。」
手馴れた手つきで鶴を罠から逃がしてやると、鶴は山のほうに飛んでいきました。

家に帰ると、おじいさんはおばあさんに
「罠にかかった鶴を助けたよ。今日も良いことをしたよ。」
と伝えました。

その時、入り口をたたく音がしました。
おじいさんとおばあさんは目を合わせました。
そしておばあさんが扉をあけると、美しい娘が立っていました。

「ある人を探していると、雪で道に迷ってしまいました。どうか一晩ここに泊めてもらえないでしょうか。」

「今晩は特に冷えるよ。一晩と言わずに遠慮なく泊まっていきなさい。」とおじいさんとおばあさんは喜んで迎え入れました。

その日から、娘はしばらくの間、おじいさんの家で暮らすようになりました。娘はどうやら誰かを探し続けている様子でした。

ある日、娘はこう言いました。「お世話になりっぱなしで申し訳ないです。私に機を織らせてください。但し、機を織っている間は、決して部屋をのぞかないでください。決して、決してのぞかないでください。」

「わかりました。決してのぞきませんよ。すばらしい布を織ってくださいね。」とおじいさんは嬉しそうに笑顔で答えました。

トンカラリ、トントン、トンカラリ、トントン、トンカラリ

娘は次の日もその次の日も休まず織り続けました。
そして、3日目の夜に音が止むと、一巻きの布を持って娘は出てきました。あまりの美しい織物におじいさんとおばあさんは狂喜しました。

「これは町で高く売れそうだ。早速明日にでも町で売ってくるよ。」とおじいさんは言いました。実際に翌日、町へ行くと、それはそれは高く売れました。が、町ではすでにおじいさんの布は評判になっていました。

それからもまた娘は織物を織りはじめました。
月日は流れ、3ヶ月がたった頃には、娘もだんだんとやせ細っていました。読者の皆さんはご存知の通り、実はこの娘は、おじいさんが助けた鶴で、自分の羽を使って布を織っていたのです。それでだんだんとやせ細って力も出なくなっておりました。

あまり長居をしては、いけない。
このままでは、行方不明になった姉鶴たちを探す前に、自分が倒れてしまう、と思い、家を出ることを決心しました。
そして、お別れの品として、最後の布を織ることを決めました。

娘は「今日はこれまで以上に素晴らしい布を作るつもりなので、絶対に見ないでくださいね。」といつもより強く念を押しました。

すると、おじいさんは「分かったよ。その代わり、私の部屋も今日は絶対に見てはいけないよ」と念を押しました。

布織りを始めたものの、娘はおじいさんの一言が気になって仕方ありませんでした。そして、とうとうおじいさんの部屋をあけてしまったのです。

中には誰もいませんでした。
いなかったのですが、あるものを発見しました。
そこには鶴自身が最初にひっかかった、罠があったのです。

そしてそこには、行方不明になった姉鶴たちが織ったと思われる布も数枚ありました。

その瞬間、娘はすべてを悟りました。
自分の姉鶴たちは、まんまとこの老夫婦にだまされ、機織で酷使された挙句に殺されたのだと。そして、自分もまた善意で機を織っていたが、まんまと、つけ入れられていたのだと。

しかし、残念ながら時すでに遅しでした。
娘の耳元で誰かがささやきました。

「見ましたね。あなたはもうここにはいられません。長い間ありがとうございました。」


ある寒い冬の日、雪の中に何かが動いていました。
それは、嬉しそうに罠をしかける、おじいさんの姿でした。

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