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溶け込み目線を調整する:クリエイティブリーダーシップ特論 第12回 大山貴子さん

このnoteは武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコースの授業の一環として書かれたものです。

クリエイティブリーダーシップ特論 第12回(2021/09/27)
 
講師 :大山貴子さん
大山さんは株式会社fogを立ち上げ、サーキュラリティのエコシステムをデザインする活動を行なっています。最近では、鳥越に循環型のリビングラボであるélab(エラボ)のオープンに向けても活動されています。

米ボストンサフォーク大にて中南米でのゲリラ農村留学やウガンダの人道支援&平和構築に従事、卒業。ニューヨークにて新聞社、EdTechでの海外戦略、編集&ライティング業を経て、2014年に帰国。日本における食の安全や環境面での取組みの必要性を感じ、100BANCH入居プロジェクトとしてフードウェイストを考える各種企画やワークショップ開発を実施後、株式会社fogを創設。循環型社会の実現をテーマにしたプロセス設計を食や行動分析、コレクティブインパクトを起こすコミュニティ形成などから行う。


今回は大山さんのご経歴や今までの活動を振り返りながら、どのような視座を持って活動されているのかについてお話頂きました。


共視(ともにめせんをつくる)デザイン

大山さん及びfogの活動は、セミナーや記事などを通して拝見していたものの、学問的なバックグラウンドやキャリアについてはあまり知る機会がなかったので、ご経歴の話は新鮮でした。
社会学や文化人類学的なバックグラウンド、メディア・ジャーナリズムのキャリアがあるというお話でしたが、大山さんに、物事を本質的に捉え、安易に線引きをしないという姿勢が一貫して感じられるのは、そうした背景があることも影響しているのではないかなと感じました。
 
現在、大山さんの活動の主体となっているのは、fogとélabです。それらの活動はどちらも「共視(ともにめせんをつくる)デザイン」だと言います。
どちらもサーキュラリティに関わる実践であり、サーキュラー変革の起点が「人」である以上、いかにみんなの目線を揃えていくかということが重要だと言います。
 
élabは活動として、サーキュラーを日常化させることを掲げています。そもそも「サーキュラー」などという名を冠することなくとも、各地で当たり前のように行われている循環型の実践があり、そこに目線を合わせることが重要だと大山さんは仰います・
 
大山さんはウガンダでのフィールドワークや、海外での生活のなかで、現地では当たり前になっている日々の営みに「溶け込み目線を調整する」ことで多くの気づきを得てきたといいます。
 
当たり前に大切にされているからこそ敢えて言語化されないような価値観を、実践のうちに見出す大山さんの姿勢は、何よりもその好奇心や人間への信頼に裏打ちされているのではないかと感じました。


大切にしていること

大山さんが大切にしていることとして挙げた4つの項目がいずれも示唆的です。

・多角的に対象を見る
・境界線を曖昧にする
・脱サステナブル
・巻き込むために甘える・依存する


1つ目と2つ目は批評的な精神と言えるかと思います。何かを決めつけてしまうことは、ある種の安定を生みますが、それは可能性を狭めるばかりか、ときには暴力的にすらなります。
 
「脱サステナブル」というのは、現状の環境配慮型の取り組みが、手段であるはずの「サステナブル」や「サーキュラー」を自己目的化し、本質を欠いたものになっている(ことが多い)ことへのアンチテーゼと言えます。本来の目的は心地よい生活や健康的な暮らしであるはずなのに、「サステナブル」という名を冠するだけで、それが善だと判断するような思考停止に陥っている。そうした状況が少なからず見られると大山さんは仰います。
 
4つ目は「裸の王様」にならないための戒めであるとともに、「誰一人取り残さない」ための優しさでもあります。


感想

冒頭に述べた通り、大山さんの視座を知ることができる講義でした。
上に挙げていない話で印象的だったのがコンポストをビジネスにするかどうかについて。
コンポストは微生物の力を借りて廃棄物などを分解するもので、それで人間が収益を上げるというのが本当にいいのかどうかすごく悩まれたと言います。結果として、ビジネス化をすることはなく、ソーシャルサービスとして展開することとしたと言います。
ここにも、安易に物事を進めずに、より良いあり方を考える大山さんの批評的な態度が現れています。
 
環境問題や社会問題を前すると、その途方もなさに立ちすくんでしまうときがありますが、本当に大切にしたいことを捉え、日常的な実践のうちに可能性と希望を見出すこと、そしてそれを誰も置いてきぼりにしないペースで展開していくこと、そうした大山さんの取り組みや姿勢が心強く、勇気と刺激を頂きました。

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