武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論 第1回(2021/04/12)
このnoteは武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコースの授業の一環として書かれたものです。
クリエイティブリーダーシップ特論 第1回(2021/04/12)
講師:足立成亮さん、陣内雄さん
足立さんは林業アーティストとして、陣内さんは建築家として、そしてなにより「木こり」として、outwoodsという屋号で林業をベースに森と人を繋ぐ活動をされています。
今回の講演では、outwoodsとしての林業活動や、陣内さんが自宅をセルフビルドされた際のお話を伺いました。
「ずーーっと、やっていける林業」
大型の機械を導入する既存の林業とは異なり、お二人はできるだけ山を傷つけないように、自分たちで道を作り、チェーンソーで木を切って運びだすというスタイル。
環境保全、サステナブル、長期目線…いろいろな言い方があるなかで、陣内さんが述べられたは「ずーーっと、やっていける林業」。実直な思い、そして地道な現場作業が活動の根幹にあるのだと感じました。
「森林作業道」
お二人が林業を営むうえで重要な仕事となるのがヤマに「道」をつくること。その「道」は作業の動線としてだけではなく、まさに森と人を繋ぐものとして機能します。マウンテンバイクチームと共同で道をメンテナンスしたり、逆に展示や出店という形で街に森を持ち込んだり。少しでもヤマに人が入るように、林業に目を向けてもらえるように、活動を行なっています。
「機械でもシステムでもなく、人が持つ知恵をヤマに持ち込む装置こそが『道』である」
そのような考えのもと行われてきたお二人の様々な活動そのものこそが、「道」であり、ひとつの作品とも言えます。
「道」とは
足立さんは「道」に関連して、「必要が機能を高めていく」と仰いました。これはまさに「道」がどのように作られるのかを端的に表していると思います。何かを探して足跡をつける。その先に求めるべき何かがあれば、皆がそこを通るようになる。そうして踏み固められていくことで、「道」ができる。その「何か」は必ずしも資材や食料だけでなく、眺望や霊妙な空気だったりする。少しでも人が訪れればその「道」はより強固になっていくし、使う者がいなくなれば廃れていってしまう。
「森林作業道」のお話は、ハイカーたちが使うトレイルと歩行について書かれた『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』という本の、以下のような記述を想起させました。
わたしたちが土からつくるトレイルも、同じように泥と思考の混合から生まれたものだ。時間とともに、足跡のようにより多くの思考が重ねられ、新たな意味が加えられる。トレイルは単なる移動の跡ではなく、文化を伝える経路となり、人と場所と物語をつなぐ。そしてトレイルを歩く人の世界を、たとえ脆くとも、ひとつにまとめる。
『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』ロバート・ムーア著 岩崎晋也訳 エイアンドエフ 2018年
「道」と境界
「道」とは、多様性を取り込むバウンダリーオブジェクトと言えるのではないでしょうか。ヤマに入る目的は人によって違うだろうし、そこには当然人間以外の暮らしも存在している。多様な在り方を尊重し、互いの境界を考えることが求められます。
「人と動物の境界は非常に難しい問題だ」と足立さんは仰いました。デリケートで、答えのないものであることが窺えます。「道」を作ることを通して、その境界の在り方を探っているのだと感じました。足立さんは、作業道具をクマと取り合ったり、野生動物の死の瞬間に遭遇したりと、ヤマに入ることで他種との様々な交流があったといいます。
出逢い、互いを知ることなしには、関係性を作っていくことはできないのだと思います。そうした意味で、多様なものが出逢う場としての「道」を作るということが、繊細な境界の問題を考えるうえで重要な意義を持つのだと感じました。
〈参考〉
足立成亮
http://tobiucamp.com/2016/07/outwoods/
outwoods
https://ja-jp.facebook.com/outwoods
『トレイルズ 「道」と歩くことの哲学』
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?