置き場 第0号 読みました日記
短歌連作サークル・置き場に参加させていただきました。
⇓第0号へのリンクです
ゆっくり拝読しました。
編集お疲れさまです。また、場所をお貸しいただきありがとうございます。
『置き場』について
企画・編集の藤井柊太さんの編集後記と作品所感、他の方の感想を拝読し、私も各連作のなかから好きな1首を引かせていただきたいな〜と思いました。
以下敬称略にて失礼します。
◆目次
①各連作から1首引用
②短歌・連作感想4首
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有休の申請で押すシヤチハタの永久に似た赤の陰影
鵺を放つ(マイグラデーション)/金森人浩
ここから逃げて そしたらきっと なにを選んでも後悔するんだ
ベビーモビール/鴇巣
実際にいましんでいる人がいる宅配の紙に名前を記す
願い/展翅零
雨の日はコップ片手に外に出てコップが溶けるまで酸性雨
セットドリンクバー/笠原楓奏(ふーか)
ぼくの手は日に日に小さくなるばかり 光年という薄れた単位
塩湖の晩年/篠原仮眠
換気扇 タバコはナス科で喫煙は野菜炒めらしい、ほんとうに
熱源/なべとびすこ
スパイスが未だここにいる主張する瓦斯焜炉の縁のはねたあと
カレーの次の日/間之口葵一
シャンプーをされているとき大切な人が横切っても気づかない
ショートボブ/真島朱火
変わらない「なんでもない日」にあることを私のすべてにのこしておきたい
なんでもない日の君と僕/すみか
泣いちゃう、とつめたい風のなかで笑う ぼくらくらげの仲間になれない
だめになれる/久久カナ
首を吊る想像してた「久しぶり」沈まないあおいひかり見てた
SECRET LOG Ⅶ/そらとクローバー
雪の似合う犬は頑固に立ち止まり何があってもわからない先
タイムカプセル/豊冨瑞歩
いつからと訊かれて急に口ごもる午後、雪が降りそうで降らない
無職の冬/小俵鱚太
ここからは去るものばかり花束を一輪ずつの薔薇にもどして
まぼろしの海鳴り/さとうはな
交通量調査員の熱うばはれてゆく枇杷の花にほふ風下
短日/寺阪誠記
加湿器にみづ足してゐる背のまるく冬の朝にはじつと見てゐた
くそつたれの世界/岡本恵
基幹バス通りを歩くいっせいに銀杏が散って、でも桜通
晩秋、国道19号から県道68号へ/岡田奈紀佐
深海に十メートルのイカが棲み眼の大きさは三十センチ
三十センチ/くろだたけし
ズレ不可避風光る闇渇く語句和歌見遣る可否是か非か触れず
(ずれふかひかぜひかるやみかわくごくわかみやるかひぜかひかふれず)
『回文歌』/青村豆十郎
育毛のCM 脱毛のCM 皆なにかが深刻そうだ
回顧/他人が見た夢の話
燈明の騒めくゆふべ雷獣のごときが屋根をはしるのを見つ
鐘/小野りす
あたらしいほいくえんは、と君が云う仮園舎なる言葉を知らず
あたらしいほいくえん/塩本抄
キャッチャーフライを上げ損なって直倫のコーチ就任初日が終わる
♯63 堂上直倫/天野うずめ
髪や肌すべてをまぜて生み出したわたしたちから雑種の匂い
ancient blue/小泉夜雨
損なわれませんように ふたりぶんの腕の長さが頼もしいから
宇宙から来た僕らの仲間/陸の孤島
まじないと呼べばちからを持つことの、ならば地熱のようなちからを
影絵のための話/早月くら
雨粒は車窓に降りてそののちにほんのかすかにはしゃいでみえた
冬のかたち/鈴木ベルキ
まだ知らない兄がいたかと驚いてよく見たら司法書士だった
包み焼かれて/森屋たもん
なにもかもある浜辺にはあなたさえ居てさよならを思い知るのだ
月に暮らす/湯島はじめ
清廉の(ダンスフロアは一瞬の盛り上がりを見せる)冬の月
私に次ぐ私、あなたに次ぐあなた(冬の場合)/さめない
なにに怒り続けてるか忘れた年越しそばはみどりのたぬき
年末/みずの
昏さから忘れてしまう花の河 ポケットから五本指をとりだす
心象/石村まい
きみの手を手で抱きしめる 手紙って届いてしまうからはしたない
どうしても?/ほのふわり
実際に君を自宅に招いたら魔法は解けてしまうだろうか
魔法/澪那本気子
おれたちがみんな、生まれてきたくて、生まれてきたとしたらどうする?
ひかりの/星海ゆに
外されたイルミネーション 心臓は脈を打つたび少しずつ死ぬ
生活のすべて/古河惺
透明な餃子を作るてのひらの空洞だけがほろびないから
花の匂いで空っぽの宇宙服/穴棍蛇にひき
新しいあなたの癖に気付くときまた遠くなる青空は秋
忘れる季節/古川柊
前を向き追いかけるための坂がある大橋優はまだ前を向く
ニチダイシンジダイ/貝澤駿一
夜の空を平面だと言うひとのくれた言葉がこんなに豊か
シュガーバターサンドの木/君村類
霙降る露天風呂への燃料を気にしてしまう無論サウナも
湯治ライフ/涸れ井戸
空海が座ったという岩に乗り顔も知らない空海を呼ぶ
エリオット作戦/あめのちあさひ
スイレンの花片を千切りまた千切りここへは誰も生まれぬように
冬ざれ/白幡皐
カーテンに藍色の時おもしろいラジオがさよなら、さよならって言う
まぶたの縫い目/花島照子
家族みな多分家出と思わない通過儀礼のような外出
通過儀礼/あるこじ
母さんのように寂しくなっていく私に降れば良いのに霙
霙/和田晴美
踏み荒らされていない田と畑あり衰えたなりのいまを耕す
古地図にもうわたしはいない/深水遊脚
きみと言ふさみしい世界に触れるため馴染ませてゐるハンドクリーム
『冬の浮力』/有村桔梗
そのあとにやや泣きました作っても食べてくれない父を叱れば
しにくい/榎本ユミ
「成仏はできないかもね」と言ってたしまだツイッター見てるかもだし
葬送/白藤あめ
狂いそうな時計だったから手首から外してそれから狂わない時計
86%/西鎮
ナトリウムランプのひかりにまみれたらしりとり終えますかの雰囲気
Pardon? がやけに流行った教室で/渓響
愛してる人の育ったこの町は私にとって逃げたいアウェー
過去、今、そして/諏訪灯
ヤッホーのホを言う前の一瞬がどんなときよりいちばんたのしい
鳥、鳥、鳥/アカマツヒトコト
曲がっても曲がっても書架 身一つに刻める言葉に限りはあるか
ヘルシンキにて/古井咲花
それはもう世界が色を変えるほど会社の人の不倫を聞いた
夜/野川りく
ぽっきりと折れた剣をまだ握るこんなに遠いハッピーエンド
勇者の剣/神丘風
まぐのりあ、花の名前を知ることは、マグノリア。ほぼ魔法なんだよ
冬を殺める/月下さい
顕微鏡うれしかっただけ夏にある水のすべてがある天の国
夏の庭/ぶん
あたし達自分にやさしくしたいときホワイトチョコレート語にしましょう
チョコレート・バード/鈴木智花
どこにでも行ける重りを手放せば自由の国の通行許可書
アルト/今井マイ
手はすべて埋まって他人の傘からは雨の弾ける音が聞こえる
火を渡す/永井駿
耳の裏洗うとき耳の裏洗うって思ってる みんなはどうだろう
ヨガの動画/小池耕
身のうちに宿る火種の芽吹くころあなたは誰のためのはるかぜ
誰のはるかぜ 〜源氏物語花の乱 第一・藤壺〜/杉谷麻衣
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短歌感想4首
換気扇 タバコはナス科で喫煙は野菜炒めらしい、ほんとうに
熱源/なべとびすこ
(「ほんとうに」の、断定口調なのに言い聞かせてるような、脆っとした雰囲気に心惹かれました。
煙草を野菜って言うのめちゃくちゃだ……(すみません)と思いつつも、自然とそう思えたというか……
「タバコはナス科で喫煙は野菜炒め」というフレーズと響きがたまらなく好きです。
換気扇、で間が空くのも好きです。ちょっと無理のある言い分、と、それを「らしい」と受け止めてる第三者がいる。時間的な距離感や奥行きを感じました。
同連作中の「テレビしかつけられなかったアレクサがテレビもつけられなくなっていた」も好きです。心にざりっと引っかかりました。連作タイトル「熱源」と主体にはいつも距離があって、それを俯瞰してる感じが好きです。)
なにもかもある浜辺にはあなたさえ居てさよならを思い知るのだ
月に暮らす/湯島はじめ
(「あなたさえ居て」「さよならを思い知るのだ」の言葉の切なさに泣いてしまいそうになりました。
有るものはいつか無くなる、そのなかにあなたさえ含まれている。今すぐではないけど未来にいつか必ず約束されている。突きつけられるのはとてもキツい……。
「さよなら」の、さらっとした表現もべたつきがなくて素敵。
なにもかもある浜辺、は誰しもが持ってまたいつか離れていく生活の場所そのものと感じます。
泣いちゃうくらい好きです。
同連作中の「月に暮らす予習くらいに暮らしたらからだを好きでいられただろうか」も好き……。地球の1/6程度の重力、の暮らしを愛する感覚と、衣食住・実存する肉体を尊ぶ感覚が引き合っているように感じました。好きです……!)
透明な餃子を作るてのひらの空洞だけがほろびないから
花の匂いで空っぽの宇宙服/穴棍蛇にひき
(う、うつくしい……好き。透明な餃子、つるりとしていて、色んな物を内包していて生まれたての星みたいだな〜……と思いました。
餃子を作る手つきの、皮を広げたり種を包んだり波々を細かく編んだりする指の形の美しさも自然と連想しました。
見えないものを作るという行為から、その輪郭を浮き出させているのが素敵です。
「空洞だけがほろびない」という言葉に、無くならないものの気配を感じました。
同連作中の「宇宙服だけが帰ってその中が花の匂いに充たされている」も好きです。形あるものは皆一定の方向へ向かうきり戻ってこれないこと、それでもその内側(とも言えるし外側とも言える)には花の匂いが充ちている、示唆めいた感じが好きです。)
まぐのりあ、花の名前を知ることは、マグノリア。ほぼ魔法なんだよ
冬を殺める/月下さい
(好き……! 花の、その名前を知ってしまった途端に世界は上書きされてもう以前の世界には戻せなくなる、その感覚を想起しました。
上の句の「まぐのりあ」、はまだ知らない言葉を舌の上で転がしてる感じ。下の句の「マグノリア」の花として認知した感じ。1首の中であっという間に世界が書き換えられていくのがすごいな。魔法だな、と思いました。
花の名前を知ることはほぼ魔法、という言葉、とても好きです。マグノリア(モクレン)の咲く春の華やかさや嬉しさ、実際に吹く風の冷たさを思い出しました。
同連作中の「歩行者の青信号がきみどりにひかれば歩いて行けるぼくらは」も好きです。冬を殺めて春に向かっていく、振り返りつつ前を向くひたむきな感じが好きです。)
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以上になります。まだ書き足りないけど一度締めようと思います。
偉そうに、わかった感じで書いてしまい大変申し訳ありません……。
編集する(以後気を付ける)ので、お手数ですが気になるところ等あればご指摘いただければ幸いです。
(あと私の稚拙な連作も、読んでいただいた方やコメントくださった方にはありがとうございますの気持ちです。)
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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