星の輝きと罪と罰
母は時々、昭和の古いスターの唄を口ずさむ。その日もそうだった。名前を聞いても唄を聞いてもさっぱりわからない。「この人はね、顔はいまいちだったんだけど、声がとてもよくてね。それで爆発的に売れたんよ。でもそのあとは落ち目になってね」
「へえ〜(よくある話)」
「でも、復活のチャンスがきてね。その時彼は結婚していたんだけど愛人がいたんよ。
でもレコード会社からは”問題になるようなことはないですよね!?”っていわれて、その人は”はい”って答えてね」
「へえ〜(よくある話)」
「そうしたら、愛人が巡業にもついていくと言い張ったみたい。でもバレると復帰に差し障るでしょう」
「そうね」
「だからその人、殺しちゃったのよ、愛人を」
「ええええ!!!!」
すごく、びっくりした。
「それで?」
「逮捕されて刑務所に入ってね、出てきたの」
「出てきたの?」「そう」「それで?」
「それでもやっぱり女の人がついてね」
「なるほどね(さすが)」
結局、何十歳も年下の奥様をめとったその元アイドルは、70代か80代か・・・天寿をまっとうしたらしい。
なんだ、それは。
アイドルになって(たぶん)モテまくって
結婚して、愛人と出会い、殺し、
刑務所ライフを経験して
何十歳も歳下の奥さんに看取られた人生だと?
なんてジューシーなんだ。
どれだけ濃厚なんだ。
濃い。厚い。面白い。うらやましい・・・。なんだかそう思ってしまった。
そんなわたしはクレイジーで少し変態なのもしれない。
(注:人を殺めたいという意味では決してありません)
その人の歌声、魅力、チャームポイント。
そして圧倒的に抜け落ちていたところ、
必要だったのに育たなかったところ。
人として問題だらけだったのかもしれない。
どうしようもない人だったのかもしれない。
それさえも全て過ぎ去ったいま、
それでもある時代に全国の女の子たちを幸せな気持ちにしたその功績はすばらしいと思う。
彼の才能であり、何万人もの人をハッピーにする力の発露だったのだ。
ふっとyoutubeをサーフィンしていて見つけた
とある野外ライブの動画。
それは覚せい剤で現在は消え去っているあるシンガーのライブだった。
まったくファンではなかった。
それでも気晴らしに聴いていたら、なぜか胸がぎゅーっとなって、右目から涙が一筋伝った。
そんな自分の反応に、我ながらとても驚いた。
その歌声は、本当に、金色のねっとりとした蜜のようにキラキラ発光していて最高だった。
最初の一声でもう違う。
心の色がふわり、と変わってしまった。
にこやかに歌うその二人の間には、笑顔と大きな信頼があるのが見える。
すばらしい数分間、その瞬間のエネルギーが、余すことなく封じ込められていた。
わたしは思う。
結局のところ、その時代において法にどれだけ触れようが、迷惑をかけようが、
唯一無二の一個人にもたらされた宇宙からのギフトの素晴らしさが損なわれることは一切ないのだと。
掛け値なしにすばらしいものはすばらしい。
しょうがないのだ。アートなんだから。
芸術なんだから。
頭の理屈なんて吹っ飛んでしまう。
好き、素敵。最高。以上。それでいい。
だからそういった輝きが見られなくなるのは、まったくもって世界の損失だとつくづく思う。
これは本人だけの人生の問題じゃない。
わたしたち全員の損失でもあるのだ。
この世界、宇宙の損失だと思わずにはいられない。
その証明のような動画だった。
見られてよかった。
あの、リッチで、ねっとりとしていて濃厚であったかい、あの歌声が、もう一度生で聞けたらどれだけ嬉しいだろう。
どれだけ世界が鮮やかに色づくだろう。
心からそう思わずにはいられない。
がんばれ!
がんばって最高のコンディションで帰ってこいよ。
そう思っている。