桃の花と隣のおばちゃん
もう誰も住んでいない、
実家の隣の家に
桃の花が咲いていた。
隣にはおじちゃんを早く亡くして
一人暮らしをしていたおばちゃんが住んでいた。
おばちゃんとは
回覧板を届ける時に顔を合わせるくらいの付き合いで
いつもニコニコして私の名前を呼んでくれた
記憶しかない。
私が結婚をして家を出た後
老人ホームに移ったらしいと母から聞いて
しばらくして
そういえば、亡くなったらしいよと
聞いた時は
そっかぁ、なんか寂しいね
と、言ったようなぼんやりとした
記憶があった。
誰も住んでいない家の玄関先で
綺麗な桃の花を見つけた時に
誰もいなくても咲くんだなぁと
なんだか切なく
そしてすごく、ホッとした。
一抹の寂しさはあるけれど
隣のおばちゃんが
この世から居なくなっても
周りの世界は止まることなく
美しく続けていたのかと思うと
『全て終わった』
と感じていたものが
ちゃんと『続いていく』と気づく
私の意識を超えたところで
それは『在る』し
『なくならない』のだと。
桃の花の中にふんわりと
おばちゃんの笑顔が
浮かんだ気がした