プリマドンナ

iPhoneに入ったどのミュージックも腹立たしかった。君が僕のもののまま死んでいかないのが腹立たしかった。生暖かい涙と鼻水を、拭いてしまうのも嘘くさくて嫌だった。

公園の電気はきちんと付いていて、たまには車が横を通って、こんな時でさえ世界は眠らなくて、黙らなくて嫌だった。「黙れよ、世界。うるせぇよ」って。そんなダッサい自分も、もう全部全部嫌だった。

自転車漕いで夕暮れの寒い河辺でふたり、だらだらしてひゃーひゃー言いながら帰ったあと。僕は夜中ぎんぎらぎんに冴えた目をかっぴらいたまま、ひとり公園に引き返して、引くほどぼろぼろ泣いていた。

夕方、わざとらしくきらめく水面が君の目に映ってた。なんで何もいわないの。「好きな人ができました」って言わないの?

すでに電話でついていた話をなぞって、サァ美シク別レマショウったってそうはいかない。そう言いたいのに。バージンロードに突如現れるヒーローみたいに君を引き止めたいのに、結局、もう出来てる芝居に参加する。だってこの世界の主役は君なんだ。君が描く世界には逆らえない。

日はぐんぐんと水面に吸い込まれていった。それを見ないふりして二人でひゃあひゃあ言っていた。君は遊歩道のコンクリート塀のところに寝転んでいて、夕日の赤がTシャツをどんどん染めて、何だか生贄みたいだった。このまま僕が、川の中に君を引きずり落とすってシナリオはもちろん無い。僕らは馬鹿だった。

愛しているから、君の世界をもう引っ掻き回したりできないんだ。行き場のない怒りが砂を蹴り上げる。獣みたいに叫びたかった。愛しているんだよ、主役の君。君の世界から僕が消えても、舞台の床下に埋まった死体を忘れないでくれ。それがきっと、君を一層美しくするのだから。

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