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Photo by
ted_ozawa
噛みながら
皮膚の奥まで走る鈍い痛みで真夜中から目を覚ました。枕を抱くようにしてうつ伏せに寝ていた私の背中からあいつがゆっくりと顔をあげるのが重みでわかり、顔にかかるくらい長い前髪が腰の裏に当たって傷口をくすぐった。じんじんと痛いその場所をひんやりとした指先が凹凸を確かめるみたいに撫でていた。うめき声を上げながら後ろ手にさらさらした丸い頭を押しのけようとすると、おもちゃの如き歯が悪びれもせずふたたび刺さる。
こいつはいつもそうだった。
ずる賢い顔した小型の肉食恐竜に身体中を半端に齧られた自分を想像して奇妙な気分になり、据え膳とでも言わんばかりに転がったずんぐりむっくりの草食恐竜をまどろみの中で自分と混ぜた。泥に沈んだような眠気でまだ回らない寝起きの頭。あんたのじゃない、乾いた唇が呟いた。私はあんたのじゃない。
あいつは濡れた傷口を夜の柳のような指でまた撫でて、闇に消え入る相槌を返した。それを殺してしまわぬよう、数秒待って微かに息を吐きつつヤクザ映画で転がされた死体みたいな寝返りを打つと、人類史を秘めた宇宙色の瞳がふたつ黙ってこちらを見ていた。
私にはストローを噛む癖がある。