誰かと本の話がしたくなる/『吉野朔実は本が大好き』
ブックガイドや本にまつわるエッセイ、漫画が好きで、見つけるとつい買ってしまいます。『吉野朔実は本が大好き 吉野朔実劇場 ALL IN ONE』(本の雑誌社)はネットで見てずっと気になっていたものの、あまりのボリュームとお値段(¥3,000+税)に躊躇していました。
昨夏、浅草台東館で開催されたBOOK MARKET2022で本の雑誌社さんのブースで実物に触れ、「やっぱりほしい!」と思い切って購入。担当の方も思い入れがあるらしく、「吉野さんの作品をもっと読みたかったですね」なんてしんみりしてしまいました。
ページをめくると、まだ今ほど手軽にネット検索ができなかった時代の空気感が伝わってきて、「そうそう、気になることがあったらまず本屋か図書館に行ってたよね〜」なんて懐かしい気持ちが込み上げてきたり、ちゃちゃっとネットで本を注文するようになると「便利な時代になったなー」と実感しながらもちょっと寂しい気持ちになったり、時代の流れをひしひしと感じました。
それと同時に、やっぱり「本の話ができる友だちがいるっていいな」と痛感したのでした。
このエッセイ漫画には、吉野さんのお友だちや仕事で関わる編集者などが登場しますが、みな本好きで本について話すことが好きな人たちばかり。会えば自然と「あの本読んだ?」「今読んでるこの本面白いから読み終わったら貸すよ」「こないだ教えてくれた本読んだよ」と、挨拶がわりに本の話をしているのです。
個人的にハッとしたセリフはこれ。
思い返せば、学生時代よく一緒にいた友だちはみんな本を読む子たちでした。
好きなジャンルはさまざまだし、みんな部活やオシャレや恋愛も目一杯楽しんでいたので、本について熱い会話を交わすようなことはあまりなかったけど。
その子たちとはもうすっかり疎遠になってしまって、今どこでどんな人生を送っているのかは不明だけど、きっと今も本を読んでいるのだろうな、と勝手な想像をしては昔を懐かしんでいます。
ああ、本の話がしたいな。
と何年も思っていますが、身近にそんな相手もいないし、読書サークルなんかに参加するのはちょっと違うよなぁ……。
何というか、ある一冊について熱く語り合うとか、深読みして考察するとか、うまいこと言ってやろうとか、マウント取ってやろうとか、聞いてもいないのに内容を一方的にベラベラしゃべるとか、そういうのはもうほんと勘弁してほしくて。
そうじゃなくて、たとえば
A「駅前に新しいラーメン屋できたよね?」
B「そこわたし気になってた」
C「オレ行ったよ。結構うまかった」
A「そうなんだ。じゃあ今度行ってみよう」
B「わたしも。女ひとりでも入りやすいかな?」
C「若い女の人もいたから入りやすいと思うよ」
こんな会話でいいんです。
「あの本読んだ?」「まだ。読みたいと思ってた」「面白かったよ。途中で複雑な展開になるけど、読んだ後スッキリした気持ちになるよ」「〇〇みたいな感じ?」「そうそう。そんな感じ!」
あまり深掘りしなくてもいいし、読む前から先入観を植え付けないでほしいし、軽い雑談程度でいいんです。
でもきっと、今から新しい人間関係を築くのは難しいんだろうな。
悲しくはあるけど、それを選んだのは自分だからしょうがない。
この本を読んで、著者が築き上げた交友関係が羨ましくなってしまいました。