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【あかり】の絵本を作りました◇

 

    僕とおじいちゃんの時間旅行

 ある日、ようちゃんはおじいちゃんの家に遊びに行きました。 
最近おじいちゃんは物忘れが増えてきて、時々昔のことばかり話すようになっていました。ようちゃんは、そんなおじいちゃんのことを少し心配していましたが、おじいちゃんといっしょに過ごす時間は大好きでした。
 その日もおじいちゃんはいつもの椅子に座り、窓の外を見ながら静かに話し始めました。
 『ようちゃん覚えてるかい?』むかしはここに大きな川が流れていて、おじいちゃんはいつも大きな魚を釣っていたんだよ。』
 ようちゃんは昔をかしげました。『おじいちゃん、この近くに川なんてないよ』
 すると、おじいちゃんは少し微笑んで『ああ、そうか。でも昔の記憶はとても鮮明なんだ。まるで、昨日のことのようにね。』と遠い目をして言いました。
 ようちゃんは、おじいちゃんの手を握り『その川の話をきかせて、おじいちゃん』と言いました。
 おじいちゃんは目を輝かせて、ようちゃんといっしょにその「川」へと時間旅行を始めました。おじいちゃんの話の中では、川は清らかに流れ、魚がたくさん泳いでいました。おじいちゃんは子ども時代の友達と釣りをし、太陽の下で笑い合っていました。
 「すごいなおじいちゃん。そんな冒険があったなんて。」とようちゃんは興奮しながら聞いていました。
 次におじいちゃんは、ようちゃんを自分の若いころの仕事場に連れて行きました。おじいちゃんは若いころ、大工として街で働いていて、多くの家や橋を作ったことがあると言いました。おじいちゃんは、手の感触や木の香りが記憶の中に鮮明に残っているようでした。
 「この手で、たくさんの家を建てたんだよ。みんなの住む場所を作るのが、おじいちゃんの生きがいだったんだ」と、おじいちゃんは誇らしげに言いました。
 ようちゃんは、そっとおじいちゃんの手を見つめました。少ししわがれたその手は、確かに昔、たくさんの家や橋を作り、町の人々を支えてきたのでした。
 時間がたつにつれ、ようちゃんはおじいちゃんの【時間旅行】にすっかり夢中になっていました。
 でもふとした時、おじいちゃんはまた現実にもどってきた様子で、目をこすりながら「ああ、どこまで話したっけ?」と少し混乱していました。
 ようちゃんはやさしく答えました。「おじいちゃん、今日は一緒にたくさんの場所を旅したよ。おじいちゃんの川や昔の仕事場にね。おじいちゃんの冒険、すごく楽しかった」
 おじいちゃんは静かに頷き、少し寂しそうに微笑みました。「そうかい、ありがとう、ようちゃん。」
 その瞬間、ようちゃんは気つきました。おじいちゃんが時々記憶の中に迷い込んでしまっても、その冒険の時間はおじいちゃんの大切な宝物だということ。そして、ようちゃんはその宝物を一緒に探すことができる特別な存在だということを。
  
 「おじいちゃん、また一緒に時間旅行しようね。」ようちゃんはおじいちゃんの手を握りしめました。
 おじいちゃんは目を閉じ、微笑み、「もちろんだよ。次はどこに行こうかね」と答えました。

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