なぜ火エレメントが最初なのか(4)━━人間の「火」種
ではまとめに入ろう。
このシリーズでは、なぜ他のエレメントではなく火エレメントが最初なのかという問いに答えを与えるために、人格の概念と、火エレでいう「精神」の内実に着目してきた。そこで見出されたのは、火エレメントが文字通り物事の火種であり、現実世界に現れる前の(感覚によって知覚できる前の)イデアだ、ということである。
4.1. 牡羊座は可能性の束、物事が現れる前兆
人間の他に物事の可能性なるものを想像できる動物はいない(ように思われる)。最も賢い動物の一種であるチンパンジーには言語を覚えることができたものもいたが、死後の世界については「苦しみのない世界に、さようなら」と言った。
つまり彼らには(言い過ぎかもしれないが)死後の世界というものは存在しないということが示唆されているように思われる。しかし人間は違う。今の世界と過去の世界の違いを峻別し、あまつさえ未来や、他にあり得た世界まで論じることができる。そうでなくては今と昔の自分が本当に同一の存在なのかをわざわざ論争することもないだろう。
この「他にあり得た物事」、可能性の束が牡羊座という存在なのではないだろうか。魚座のように可能性が区別されずに漠然と海になっているならば、私たちは決断することができない。決断するためには、ありうる可能性を区別し、重み付けして、「認識」して意識に昇らせる必要がある。これら一連のプロセスが、牡羊座が司っているものなのではないか。具体的に行為として私たちの精神を地上に引き下ろし行為する前の、個人なりの善悪に裏付けられた「精神」、それこそが牡羊座である。
4.2. 火は人を人たらしめる━━技術哲学的補遺
火と人間との関連で見逃せないことは、火を使う動物は人間だけだということだ。
西洋の神話で言えば、火を与えた存在はプロメテウスである。技術と人間の関係性を論じる技術哲学では、このプロメテウスの話は必ず出てくる。人間の定義には「考える葦である」だとか色々な定義があるが、技術哲学で重視されているのは火である。この記事を読んでいる人には神話に詳しい人もいるかもしれないが、プロメテウスがどういう神かというと、天上から神のものである火を盗み、人間に与えた結果、ゼウスに罰された神である。
そして彼の名前は、プロ(始まり)/メテウス(知恵)、つまり知恵の始まり(始まりの知恵?)という意味である。神話の観点からいって、「人間の世界に先取りしていたものを与えたという話になるので、プロメテウスの話は非常に重要な意味合いを持っている」のだ(鎌田 2022)。人間たる知恵の始まり、先駆け━━実に牡羊座らしい話ではないか?
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