手紙

始めてもらった手紙の

「好きだ」という

宝物ような文字に

コンプレックスの塊だった

私の心が一瞬に溶けて

胸いっぱいにうれしさが

広がって行き

泣いてしまったのです

「あの頃の私はホントに

泣き虫でしたね

よく言えば繊細さん

心が幼かったのですね」


(実は前から私も貴方が

好きだったの、貴方の横顔が

いつも気になって

チラチラ見てしまっていたので

私の気持ちに気づかれて

しまったのではないかと

密かに心配していたの)


それは私の初恋でした


(その美しい横顔と

真剣に仕事をする

まなざしが大好きなの)


そばにいて

一緒に仕事が出来るだけで

幸せでした

給湯室で手渡された手紙には

「仕事が終わったら

歩道橋の上で待ってるから」

とありました


季節はちょうど

今頃だったかな?

その日は朝からとても寒くて

午後からはチラチラ雪が

降って来ていました


その後の仕事は

心臓がパクパクして

困りましたが

何とか終わらせて

走って歩道橋へ行った私


雪はどんどん積もって来て

「東京でもこんなに雪が

降るんだなあ」

と思って歩道橋を見上げると

寒そうにコートの襟を立て

彼は佇んでいました


何も言えずに

走って彼のそばに行くと

サッと私の手を握り

彼のコートのポケットに

入れてくれました

彼の手も

氷のように冷たかったけど

私は並んで歩くだけで

天に上ったような気持ちで

幸せでした


今でも鮮明に

あの日の歩道橋の気持ちを

私は覚えています


「一緒に帰ろう」

と言われただけでしたが

彼も私のことを

ずっと思ってくれていたのが

手から全身に

伝わって来ていましたから

本当に、本当に幸せでした

言葉は要りませんでした


それからは

毎日彼が待っていてくれて

一緒に帰りました

私が遠くに住んでいたので

いつも私の駅まで

駅からも遠い

私の家の近くまで

一緒に送って来てくれて

家の近くまで来ると

今度は私がまた

駅まで一緒に行くという

何とも幼い恋愛でしたね


毎日繰り返して

送って行って送られて

2年ほどが経ちました


映画観たりお茶を飲んでは

いろんな話をしましたが

まだ心の幼い私を

彼が気使って

くれていたのでしょう

そんな淡い恋でした


でも

あれが最後だった

最後にとうとう

別れ際に抱きしめられて

心臓はもう破裂しそうで

自分でもコチコチに

固まってしまったのが

わかりましたが

彼は「フッ」と笑って

もう一度私の目を見つめると

私のおでこに「チュッ」と

キスをしました

「じゃ、おやすみ」

そうして彼は帰って行きました


その後に何故か私は

避けられるようになりました

ある日私は

彼の友達に

「君のお姉さんが会いに来て

大事な妹だから云々と

言われたらしいよ

君の事諦めたみたいだね」

「今日は〇〇さんと

デートしてるよ」

と言われたのでした


その場でもう

私の目からは

涙がドンドンあふれ出し

まだ何か言ってるその人を

振り切るようにして

急いで帰ったのです


家に着くまで泣き通しでした

電車を待つ駅でも

電車の中でも

そして家に帰ってからも

階段の途中に座り込んで

いつまでもいつまでも

泣いていました


今は亡き兄が

そんな私を見て

「羨ましいよ俺は人を

そんなに泣くほど

好きになった事はない」

と言ったのですが

今思うと

何も話していなかったのに

何故失恋したと

解ったのでしょう?

そりゃそうだわね

毎日ルンルンで

仕事に出かけていく妹を

私は気が付かなかったけれど

大人の兄は

全てわかっていたのですね


いつまでも

痛いような

くすぐったいような

恋に恋していたのかも

知れない

幼い私の心も

愛おしく思い出します


雪の夜の思い出です


























この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?