彼女の才能
「今日は一人で行く」
「どうして?」
「もう連れていかない」
彼女はわけが分からず泣きだした。僕も心の中で完全に泣いていた。
僕は二人の家を出た。ライバルは少ないほうがいい。悔しかった。ダメな僕を慰めていて欲しかった。放したくなかった。離れたくなかった。君の翼を引きちぎってまでも僕の隣にずっといてほしかった。傷ついていた君を僕の道に引きずり込んだ。そんなことに幸せはないのに苦しいだけなのにそんなことしか出来なかった。僕の歪んだ精一杯の愛がそうさせていた。でも彼女の才能を潰してはいけない。未来を遮ってはいけないと理解していることも自分を追いつめた。そして一番怖いのは君を好きにならなければよかったと自分が思ってしまうこと。
僕たちは一人じゃ立っていられない。倒れそうな相手を支えあっている。だから倒れる時は一緒なんだと思っていた。僕は狭く小さく生きている。一人になるのが怖くて嘘で君を繋ぎとめた。
僕が見ている君は自分だ。僕がそうさせた。僕は言わせた。「これでいい」それは僕の本当の言葉。このままじゃダメだとか言っているのは嘘。彼女の瞳にはばれてしまっているだろう。自分が、二人がこのままじゃ破滅だ。都合のいいように作り上げた君の言葉は偽物だ。こんなことに満足している自分は終わりだ。
僕の目は罪を犯しすぎて汚れきっている。すべてが霞んで見える中で君を見つめるのは危険だ。