Weekly Quest <米国債について>
(2023年10月30日号)
毎週月曜日に Weekly Quest と称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。
米国債金利の上昇が止まりませんが、半年前に金利上昇頭打ちと判断し株から債券にシフトした投資家は債券でも損失を出す始末になっています。インフレの上昇が終わり景気も良くなり早期に利下げがあると思った投資家が多かったようです。
いろいろな経済指標がコロナ前の状態に戻ったと言うならいざ知らず、まだまだ程遠いと言うことを認識すべきです。FED はインフレ率が2%が正常値として、そこに戻るまでは金融引き締めを続けると言っているわけですから、金利上昇も長期間にわたり続く可能性があります。
今回は債券市場の現状を考えてみます。
これは、現状に一致する状況です。債券が売られて金利が上昇しているわけですが、”債券が売られる” ということは何を意味するのかと言うと、今の状況だと「今後まだ市場金利が上昇する」ことを意味しています。さらに、債券が売られて株式も売られるというのは、投資家が資金を市場から引き上げている状況で完全にリスクオフの状態だということです。
この先、金利が上昇するなら今保有している債券の利回りよりも有利な利回りで買うことができるかもしれませんので、今保有している債券を売って、しばらく様子を見てあとで買い直した方が良いということになります。
だから債券が売られていると言うことです。しばらく様子を見ていれば債券の金利が株式の配当利回りよりもはるかに魅力的な水準になり、本格的に株式が売られるようになり完全にリスクオフの状態になります。
それに対して買い手は、今が金利上昇のピークと見た投資家が買っている、もしくは資産アロケーションの都合で買わざるを得ない投資家が買っている(主に機関投資家)わけですが、特に機関投資家の場合は株式先物などでヘッジ売りをかけており、さらなる金利上昇が起きても損失を最小限に抑えるようにしています。
逆に債券が買われて株式も買われていると言う状況がありますが、これはインフレが終了しつつありそれに伴い引き締め方向だった金融政策が緩められる時の動きです。この場合、「景気も良くなってきたし、企業業績も回復してきた」と言うのが普通に感じられるようになり、リスクオンの流れと言うことになります。
債券が買われることにより利回りが低下し、株式の配当利回りの方が有利になってきた場合です。しかし、現在はこう言う状況ではありません。
また、投資先としての米国債ですが、償還まで保有すれば発行体であるアメリカ政府が破綻しない限りはドルベースで単価が100で償還することになりますので、毎年計算上では償還までの期間に応じて均等に単価が上昇していくわけですが、途中で売却するとなると単価から売却手数料など(手数料とは書いていない)が引かれた売却単価で売ることになり、なかなか理論通りの単価で売却することは難しくなります。
さらに、単価が100以上になっている債券では償還時に100で戻るわけですから償還差損が発生することになります(それを含めての最終利回りです)。また、途中売却をドルで行った場合も譲渡損益は円貨で計算されることになりますので利益が出れば税金が引かれることになります。
償還期間が長ければ債券といえどもいろいろなリスクにさらされるということになり、思ったように利益が上がらないことがあります。また、短期間の債券では途中売却が難しくなりますので、いずれにせよ短期売却益狙いで債券を買うことはお勧めしません。
ちなみに証券会社では債券売買手数料としては徴収していませんが、時価にスプレッドをつけて売買単価としてスプレッドを上乗せしたり引いたりしている売買単価を掲載しているケースがほとんどです。
このスプレッドが結構大きいことにも注意が必要です。買った瞬間にスプレッド分が評価損になるケースがほとんどです。あくまでも債券は償還まで保有すると言うのが前提になります。持っているドルで債券を買うよりは外貨MMFに充当するのがベターだと思いますが、円貨で買う場合は今の円安を考えると躊躇してしまうのは当然ですね。
私なら米国株を売却したドルを円貨に変えてしまい円キャッシュとして待機資金にします。様子見は投資機会の損失などとよく言われますが、下がったからと言って買付し、それこそ損を出しただけのここ1〜2年間であったことは明白ですね。投資機会の損失など詭弁もいいところです。当たり前ですが、投資資金の損失を出さないことが第一です。
コロナ禍ではアメリカ政府は経済を支えるために莫大な資金を投入したことは記憶に新しいです。人によっては給料よりも給付金の方が多くなったということもありました。
この資金繰りを支えてるために、せっせと債券を買っていたのは他ならぬ FRB でした。この結果 FRBの資産は大きく膨れ上がってしまい、この後、現在に至るまで後始末に追われているということになります。
しかし、アメリカの財政赤字は拡大の一途を辿っていて一向に財政黒字になる気配がありません。とにかくアメリカ政府はおカネが必要なのです。
そのために毎回国債が発行されていくわけですが、GDPに占める割合こそ75%ぐらいで推移しており日本と比較すると大したことない数字に見えますが、日本が異常なだけで、アメリカも健全な水準とは言えません。
さらに、予算の節目になると政治が体たらくで揉める始末なのはご存知の通り。そういった部分を格付け会社が嫌がり格下げにつながるわけです。こういった際限のない予算拡大による国債増発で金利への上昇圧力が今後一段と強くなっていくのであれば、金利低下の可能性は低いのではないかと思います。
これは底打ちへの転換点ではありません。金利の転換点ではないかというお話です。以前にも取り上げましたが、米国10年債の超長期チャートを見てみます。
これを見ると1981年から2020年までの約40年間にわたり米国10年債利回りはずっと下がりっぱなしでした。この間株式市場はいろいろな暴落があったものの、ほぼ右肩上がりに上昇してきました。
長期にわたる株価上昇の原動力は低金利だったと言うことです。こういった歴史を背景に ”インデックスは右肩上がり” と言われてきましたが、これからの動きも果たしてずっと右肩上がりといえるのでしょうか。
米国債の動きを見ていると2020年が転換点になったような気がしてなりません。このブログでも何度も言ってきましたが、2020年を境にアメリカを取り巻く環境が激変してアメリカ経済も舵取りの変更を余儀なくされています。
いままでなかったような大規模ストライキ、ロシアのウクライナ侵攻、中東情勢の変化、米中間の貿易障害など、アメリカにとっては余計なコストがかかるような事態ばかり起きています。
これが全て解決し円満な世の中になれば別ですが、そんな簡単にはいきそうにありません。そう言う中で政策金利が引き上げられインフレが収束せず、市場金利が上昇し始めたのです。この金利上昇が今後40年間続くとは言いませんが、大きく方向転換したような気がするのは私だけでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考記事 :