ホームランボールを4度キャッチしたことがあるのに、ブーケはキャッチできない女の物語
『ブーケボール』
私は野球が大好きで、よく球場に観戦に行く。
そんな私には自慢できる特技がある。
それは、ホームランボールをキャッチすることだ。
今までに4度もホームランボールをキャッチしたことがあるのだ。
しかも、そのうち2度は記念すべきホームランだった。
一度目は、広島の丸選手の20号ホームラン。
あの時は、レフトスタンドで観客がキャッチしてしまったと思ったら、私のグローブに入っていたのだ。
丸選手に返すか迷ったけど、サイン入りのバットと交換してもらった。
二度目は、大谷翔平選手の飛距離125mの打球。 あれは本当に凄かった。 ジャッジ選手がキャッチしようとしたけど、私が先に手を伸ばしてキャッチしたのだ。
ニュースになってかなり有名人になった。
私はホームランボールをキャッチする天才なのだと思っていた。
でも、それは野球の話だけだった。
私は結婚式に呼ばれるたびにブーケトスに参加するけど、一度もブーケをキャッチできないのだ。
友達や親戚は次々と結婚していくけど、私はまだ彼氏すらいない。
ホームランボールをキャッチする才能があるのに、なぜブーケをキャッチできないのか?
私は不思議で仕方がなかった。
そんなある日、私はまた結婚式に呼ばれた。
新郎は私の高校時代の同級生で、新婦は私の大学時代の同級生だった。
二人とも野球部出身で、野球好き同士で仲良くなって結婚したらしい。
私は二人の幸せを心から祝福したけど、少し寂しさも感じた。
二人より絶対私の方が野球好きなのに、私の方がホームランいっぱいキャッチしているのに…。
なんで…。
私はその場が耐えられなくなり外に出た。
外に出ると、夜空に星が輝いていた。
私は空を見上げて、深呼吸した。 今まで私はホームランボールをキャッチすることに執着していたけど、それは本当に幸せなことだったのだろうか?
私は自分に問いかけた。 そして、私は気づいた。
私はホームランボールをキャッチすることで、自分の寂しさや不安を紛らわせていただけだったのだと。
私は本当の幸せを求めていなかったのだと。
いくら二人を嫉んでも何も変わらない。
私が今日ここに来た理由。
それは、二人を祝福する。
ただそれだけ。
…あわよくばブーケをキャッチする。
私は式に戻った。
そして思いっきり二人を祝福した。
そして、最後のブーケトス。
もう私はいつもの私ではなかった。
悟った私には、ブーケトスはただのブーケトス。
取れたらラッキーだし、取れなくても何も思うことはない。
さあ、ブーケトスが始まる。
どっしりとしようじゃないか。私はそう思った。
しかし思わぬサプライズが待っていた。
それは、新郎新婦が野球関係で繋がったということで、ブーケトスもブーケではなく、野球ボールだったのだ。
私は心の迷った。
野球ボールをキャッチするとなると話は変わってくる。
私は4度もホームランボールをキャッチしている。
こんなド素人どもにボールをキャッチさせるわけにはいかない。
しかし、私は先ほど悟ったばかりだ。
新婦が後ろ向きでボールを投げた。
もう私は球場にいた。
ボールの軌道だけを見ていた。
両隣の肩を利用して、誰よりも高くジャンプした。
私はキャッチした。
周りは少し引いていたが、私はボールをキャッチした。
あれから三年が経った。
私はあれからまたホームランボールをキャッチした2度も。
これで、私がホームランボールをキャッチした回数は6回、ブーケボールをキャッチした回数は1回になった。
来月の結婚式で、今度こそブーケをキャッチする予定です。