あの色が欲しい物語
『赤絵画』
東京の夜は深く、暗闇に覆われていた。
若き画家タケシは、アトリエの片隅で絵筆を握りしめながら、最愛の彼女アヤを見つめていた。彼女は病に倒れ、次第に力を失っていた。最期の瞬間、アヤは微笑みながら、タケシの手を握り締めた。
「もう苦しまなくていいよ」と、彼女の声はかすかだった。その夜、アヤは自らの手首を切り、その命を絶った。
タケシはその悲劇に打ちのめされ、彼女の死を受け入れることができなかった。
彼はその悲しみを絵に込めた。
キャンバスに向かって、アヤの肖像画を描いた。
その絵は信じられないほどの美しさと悲しみを湛え、多くの人々の心を捉えた。
アヤの死後、タケシの「赤」を基調とした絵画は一躍有名になった。
彼の作品は、美術館やギャラリーで展示され、彼は一流の画家としての地位を確立した。
しかし、その成功の陰には深い悲しみと狂気が潜んでいた。タケシの心の奥底では、さらに鮮やかな赤を求める欲望が芽生え始めていた。
ある日、タケシは彼の作品を展示する大きな美術展で、多くの称賛を浴びる中、ふとした瞬間にアヤのことを思い出し、胸が痛んだ。
その夜、タケシはアトリエに戻り、新しい作品に取りかかった。キャンバスに向かう彼の手は、自分でも抑えられない衝動に駆られていた。
タケシの絵がますます注目を集める中、彼は次第に苦しむようになる。
彼の作品に魅了された人々が次々と彼の元を訪れるが、タケシはその中で特に印象的な人物に出会う。
ある日、彼のギャラリーに若いジャーナリストが現れる。
タケシは驚いた。
彼女はアヤにそっくりだったのだ。
彼女はタケシの過去と作品に強い興味を持ち、その背後にある秘密を探ろうとする。
アヤがタケシにインタビューを申し込むと、彼は一瞬ためらったが、彼女の熱意に負けて承諾することにした。インタビューの中で、タケシの作品に隠された秘密に徐々に近づいていく。
「タケシさん、あなたの絵には特別な何かがあると感じます。この赤の色、他のどの画家とも違う独特なものです。何がそのインスピレーションになっているのでしょうか?」
タケシは答えた。
「それは…私の内なる感情です。悲しみや苦しみ、そして愛。それらが混ざり合って、この色が生まれるのです」
「具体的には、どのような出来事がその感情を引き起こしたのですか?」
タケシの手が微かに震え始める。彼の目は遠くを見つめ、過去の記憶に浸る。
「それは…私の最愛の人が…アヤが…」
「彼女さんのことですか?もっと教えてください。アヤさんがあなたの作品にどのような影響を与えたのか」
タケシの表情が険しくなる。彼の内なる狂気が徐々に表面に現れ始める。「彼女は…アヤは私の全てでした。アヤがいなくなった今、私は…」
「その悲しみが、あなたの絵に込められているのですね」
タケシの手が急に止まり、彼の目がインタビュアーに鋭く向けられる。
「君は何を知っているんだ?何を探っている?」
「私はただ、あなたの作品の真実を知りたいだけです。」
タケシの呼吸が荒くなり、彼の手が震え始める。
「君はアヤに似ている。アヤを描いた時を思い出すよ」
彼の内なる狂気が浮かび上がる。
「アヤから流れるあの赤い色…あれが本物の赤だった」
「え?」とインタビュアーの彼女は絶句した。
と同時に彼女の胸に筆が刺さった。
彼女は倒れた。
「この赤は、君の血で描かれるんだ」
血が流れ出す中、タケシは新たな絵を描き始めた。
その絵は再びヒットし、彼の狂気はさらに深まっていった。