まえに書いたもの その3 『立ち位置はどこ?』
以前、三か月に一度のペースで連載していた読売新聞大阪版コラム
『女のミカタ』 2016.12.26 掲載のものをば。
年末に書いたものなので、忘年会や大掃除などのフレーズが出てきております。季違いじゃがしかたがない。
※ゲラで直した部分など、実際の紙面とは少し異なる場合があります。
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とある私鉄の始発駅。早めに到着した電車が「どうぞ」と言わんばかりにドアを開けて出発を待っている。
ガラガラの車内に乗り込みロングシートに腰掛け、開いているドア越しに、見るともなしにホームの様子を眺めていた。
「こんなにガラガラでこの路線大丈夫なんやろか。うちの家から近くて便利やのに、利用者が少なくて廃止になったら困るー」
と、大きなお世話かつ自分勝手な考えにふけっていたそのとき。
ホームアナウンスがこう告げた。
「転落事故防止のため、白線の内側をお歩きください」
いつもなら聞き流してしまうような、ごく普通のアナウンスなのだけど、なぜかそのときは「ん?」と気になった。
「内側なんか歩いたら線路に落ちるやん」と。
すぐに「あ、ちがうちがう」と気が付いたのだけれど、電車の中からホームを見ているとつい、白線から電車内までのスペースが「内側」だと思い込んでしまい、わざわざそんな幅の狭いところ歩いたら危ないやんか!と思ってしまったのだ。
当たり前ですが、転落事故防止のためにはホームの真ん中あたりを歩かないといけません。
かように「内側」「外側」というのは相対的なものである。
当たり前のように「白線の外側」だと思っていた部分でも、自分が電車の中にいるとうっかり「内側」だと錯覚してしまう。
いま自分はどこに居るのか。どこに立っているのか。自分の意志でそこに立っているのか。そして線はどこに引かれているのか。
忘年会や大掃除にてんてこまいの年の瀬だけれど、年越しには、自分の立ち位置と線の位置をしっかりと考えてみようと思っている。
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