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すすきとねこじゃらし

小学校中学年の頃のお月見の日の事です。

夕方,母に
「そこの高校の校庭から,すすきを取ってきて。」
と頼まれました。

家から歩いて3分のところに高校があったのです。
夕焼けの中,校庭にすすきを取りに行きました。
茜色の空がきれいでした。

そこの高校,昔は校門はいつでも開いていて
誰でも通れたのです。
校庭は桜並木の土手に囲まれていました。
もちろん秋だから桜は咲いていません。

ぼくは土手を上って
ああ,これすすきだよな,と
4,5本抜いて家に持ち帰りました。

「なに,これ? すすきだと思ってんの?」
家に持って帰ったらみんなに笑われました。
ぼくがすすきだと思って持って帰ったものは
すすきじゃなかったのです。

「これ,ねこじゃらし(エノコログサ)ってんだよ。」

すっごく恥ずかしかったです。
母親はいつも怒るときに,相手を責める時に,話の最初に
「なんで」
をつけます。

「なんでねこじゃらしをとってきたの?」
なんでって,間違えたからに決まってる。

でもそんなことはみんな分かってます。
わざと持ってくるはずありません。

笑われてバカにされて
恥ずかしくて恥ずかしくて
もう一度行って取ってこようかと思いましたが
もう,どれがすすきか自信がありません。

間違えたらどうしよう?
今度間違えたら恥の上塗りですからなかなか動けませんでした。

その年のお月見に
縁側にだんごと梨はあったと思いますが,
すすきがあったかどうかは忘れました。

今は
すすきとねこじゃらし(エノコログサ)の区別はつくようになりました。
けど
すすきとねこじゃらし
どちらを見てもあの時の恥ずかしさがよみがえってくるのでした。


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