ライダーになりたかった
子どもの頃,仮面ライダーが大好きでした。
仮面ライダーの《ライダー》は
【バイクなどに乗る人】という意味です。
今の仮面ライダーは車に乗ってたり電車を運転したりで
《仮面ドライバー》もいるみたいですが
ぼくが好きだったのは《仮面ライダー》です。
子どもの頃は自転車でよく《仮面ライダーごっこ》をしました。
ウィリーという,前輪浮かしに挑戦してみたり(できませんでした)
「ライダーキック!」
と叫びながら自転車に乗りながら友達を蹴るまねをしたり
友達の自転車と自分の自転車を正面からぶつけてどっちが倒れるか競ってみたり
教会の前庭の石階段をサドルからおしりを浮かせてガタンガタンと降りてみたり
ブレーキと共に後輪を滑らせて横に止まってみたり
過酷なことばかりして自転車にはかわいそうなことをしました。
でもホントにバイクに乗ってる気分で楽しかったのです。
5年生の時TVで
《ワイルド7》
という番組が始まりました。
無法者の警察官7人がバイクで悪を退治する
というドラマです。
これがまたカッコよくて
今度はワイルド7にもなったつもりで自転車をとばしていました。
そのくらいの時に
何のきっかけか忘れましたが
ある日母が
「うちではバイクに乗るなんて絶対に許しませんからね!」
と怒りながら言いました。
『え~,いつかはバイクに乗りたかったのに~。』
と思いました。
とても悔しい気持ちでいっぱいでした。
もはや絶望感しかありませんでした。
しかし,母の言うことは絶対だったのであきらめてしまいました。
『うちではバイクに乗れない』
そのルールが,ぼくの胸にしっかり刻み込まれてしまいました。
ぼくが中学の時,父が
「通勤に便利だから。」
と,免許を取って原付のスーパーカブを買いました。
原付=原動機付自転車で50CC以下ですが,バイクはバイクです。
「え? いいの? バイクだよ?」
でも母は何も言いませんでした。
ぼくが高2の時,兄が
「予備校に行くのに便利だから。」
と言うことで免許を取ってヤマハのMRを買いました。
父のバイクはいわゆる
《おっちゃんバイク,スクーター型,営業用》
だったので,まだぼくの中でも許せたのですが
兄のは原付でも
《ちゃんとしたバイク》
に見えるバイクでした。
ぼくは
「えー,ずるい! お母さん,前に
【「うちではバイクに乗るなんて絶対に許しませんからね!」】
って言ったじゃない!」
とぼくは強く抗議しましたが,母は
「え? そんなこと言ったっけ?」
と何も言いませんでした。
『え? あれだけの勢いで言ったのに覚えてないの⁉』
ぼくはしばらくずーっとむくれていました。
ここで素直に
「やったー! バイクに乗っていいんだ,ぼくもバイクに乗るぞ!」
と思えばよかったものの,
『じゃあ,ここまで【バイクに乗れない】と諦めていたぼくは何だったの?
うちではバイクに乗れないと決まってたんだからぼくは絶対乗らないぞ!』
と考えてしまったぼくは,なんてアホなんでしょう。
ぼくが大学1年の時,弟が
「かっこいい,乗りたい!」
ということで,免許を取って
確かCBRの400CC
のバイクを買いました。
今度はホントのバイクです。
母はその時も何も言いませんでした。
見るからにかっこいいバイクでした。
かっこいいとは思ったものの
いや,かっこいいからなおさらぼくはくやしくてムスッとしてました。
「兄貴も免許取って買ったらいいさ。」
と弟が言いましたが
「うちではバイクに乗ってダメなんだ!」
とぼくは怒鳴りました。
もはや意固地になっていました。
ああ,アホだ。
でもたとえぼくが過去に戻って
「後で後悔するぞ」
と言っても,あの時のぼくはきかなかったでしょう。
「後悔するなら後悔するでいい,損するなら損するでいい!
きまりは決まりだ。お母さんがそう言ったんだからね!」
と言うでしょう。
ああ,そうか。
ぼくはバイクに乗れなかったことを
『お母さんのせい』
にしたかったんだ。
ぼくは母には怖くて逆らえない代わりに,言えない代わりに,母に
《「うちではバイクに乗るなんて絶対に許しませんからね!」って言ったじゃないか!
『お母さんのせい』で
バイクに乗れずにつまんなかったんだよ!
くやしかったんだよ!
後悔したんだよ!
損したんだよ!》
ということをずーっと思っていることを何かの拍子でわからせたかったんだ。
そして母に
「ああ,悪かったね,そんなこと言ってね。」
と後悔させたかったんだ。
そんな気持ちになって欲しかったんだ。
ずーっとそう思って
でもずーっと母には言わないで
こんなに年月が経ってしまいました。
おそらく母は,そんなこととっくの昔に忘れているでしょう。
ぼくだけひとり40年近くうじうじとしていたんです。
あ~人生もったいないことした。
3年前,うちの息子がバイクを買いました。
息子のバイクは丸いライトじゃなくて
まるで仮面ライダーのバイクの様に逆三角形のとがったツインライトでとってもかっこいいのでした。
息子がバイクの免許を取る時,うちの奥さんは
「バイクは危ない~」
と心配していましたが,
ぼくは
「バイク? いいよ~,もちろん!」
と賛成でした。
新車のバイクに跨る息子を見てうらやましい限りでした。
玄関前に置いたそのバイクを見て
跨ごうとしてみたら
もはや身体が硬くて,足が上がらず,すっとは跨げませんでした。
それでもなんとか跨いでハンドルを握って
バイクからの景色を眺めてみました。
フード越しの風景,黒い計器類,
ハンドルの感触,サドルの感触,
小さい頃からあこがれていたバイクにやっと乗れました。
あ~いいなあ。
「お父さん,運転してみる?」
息子が言いましたが,免許ないのにできません。
あ~くやしい。
バイクに乗りたかったよな。
つまらない意地張らないで
意固地にならないで
母さんに見せつけるなんて考えないで
バイクに乗ればよかったよな。
ぼくもバイクの免許取って
バイクに乗ればよかったな
来世では楽しくバイクに乗る計画を立ててきたいと思います。