
クリスマス会のプレゼント交換
小学校の中学年の時
クラスでクリスマス会がありました。
「クリスマス会ではプレゼント交換をします。
何かプレゼントにふさわしいものを持ってきてください。」
というお話が前日までに何度かありました。
あったんだけど,
「まあ,明日準備すればいいだろう。」
「忘れてた。明日でいいか。」
と先延ばしをくり返していました。
「ねえ,もう買った?」
「うん,いいもの買ったよ!」
なんてみんなの声を聞いてはいましたが,
「まだいいだろう。」
とか
「明日でいいや。」
なんて先延ばしをくり返していました。
そして当日の朝,
「あ~今日はクリスマス会だ~。 勉強が少なくていいな~。」
と喜んでいた時に突然思い出しました。
「あ,プレゼント買ってない!」
どうしよう,どうしようと半べそ状態でした。
仕方がないので朝から開いている近くの店に行きました。
そこではお菓子や,洗剤や,ゴムひもや,パンや,いろいろなものが売ってました。
時間がないので一番目につきやすいところにあったパンを買いました。
コッペパンの中にマーガリンかなんか塗ってあるパンでした。
お店のおばちゃんに入れてもらった紙袋のまま,学校に持っていきました。
その日は朝からクリスマス会でした。
グループで出し物をしたり,歌を歌ったり,ゲームをしたりと会は楽しく進んでいきました。
楽しい会なんですけど,ぼくはプレゼント交換が気になって
『どうしよう,どうしよう』
とハカハカしていました。
そりゃ,パンは大切な食べ物です。食べ物は感謝していただくものです。
でも,どう考えてもパンは小学生のクリスマスのプレゼント交換にふさわしくありません。
しかもクシャッとした藁半紙の紙袋のものなんて,心も何にもこもっていません。
とうとうクリスマス会プログラム最後の
《プレゼント交換》
の時間になりました。
みんな自分のプレゼントをロッカーから持ってきて座ります。
『どうしようかな~? こんなんでいいのかな~?』
とは思ったものの,もうどうしようもありません。
すがるような気持ちで周りを見ても
藁半紙の紙袋なんて持っている人はいませんでしたし,
『プレゼント忘れました』
と先生に言う人もいませんでした。
みんなでプレゼントをもってサークルを作り
音楽に合わせてプレゼントを時計回りに回していきました。
ぼくは自分に回って来るプレゼントより,
自分の持ってきた紙袋が気がかりでそっちばかり見ていました。
きれいなリボンで結ばれたプレゼントもあれば
きれいな包装紙で包まれたプレゼントもありました。
クシャッとした紙袋に入っているのってぼくのプレゼントくらいでした。
やがて音楽が止まり,
回っていたプレゼントはその時持っている人のものになりました。
ぼくはひそかに
『ぼくのパンがぼくに回ってきますように』
と願っていましたが
藁半紙の紙袋はトシヒコくんのところで止まりました。
「さあ,みなさん,プレゼントを開けてみましょう!」
先生が言いました。
ぼくはトシヒコ君が気になりましたが,とてもトシヒコ君の方を見られませんでした。
「先生! トシヒコ君のはパンだよ! ひどいよ~!」
「ホントだ! ひど~い! だれこんなの持ってきたの⁉」
トシヒコ君の両脇の女の子が言っているのが聞こえました。
え~! どれどれ~⁉
野次馬もたくさんトシヒコ君の周りに集まってきました。
ぼくは申し訳なくてトシヒコ君の顔を見られませんでした。
まわりのみんなが何か言う度に,申し訳なくて体が熱くなってました。
自分がもらったプレゼントもなんだか覚えていませんでした。
先生は
「まあ,それもプレゼントだから~」
なんて言って穏やかに収めようとしていました。
「こんなもの誰が持ってきたんですか?」
なんて言いませんでした。
言っても多分,ぼくは名乗り出なかったでしょう。
前も書いたけどぼくは隠蔽体質だったから。
多分その日はずーっとトシヒコ君の方を見られませんでした。
申し訳なくて,こわくて,情けなくて
トシヒコ君の顔を見られませんでした。
声も聞きませんでした。
だから
トシヒコ君がそのパンをもらって
どんな気持ちだったかは分かりません。
分からないけどそこらへんで普通に売ってるパンです。
トシヒコ君がたとえパンが大好きだったとしても
きっとクリスマスプレゼントとしてはふさわしいとは思っていなかったでしょう。
トシヒコ君とぼくがもらったプレゼント,交換してあげればよかったなあ。