週末エッセイ#49「おにぎりえんぴつ」
幼い頃、憧れていたのに手に入らなかったものがいくつもある。おもちゃ、ゲーム、文房具、洋服……
色々あるが、特に印象に残っているもののうちの一つに、
「おにぎりえんぴつ」
というものがあった。
その名前から連想されるとおり、その鉛筆は一般的なえんぴつのような六角柱ではなく三角柱になっていて、小学生がえんぴつの正しい持ち方を習得するのを補助をしてくれるようなものだった。
三角形のえんぴつ自体は、おそらく色んなメーカーが出していると思うのだが、
私が今回お話したいのは、「三角形のえんぴつ」全体の事ではなく、特定の商品のことだ。
小学校の頃、「おにぎりえんぴつ」を持っている子はクラスに何人かいた。しかし私は「おにぎりえんぴつを持たざる者」だった。
「おにぎりえんぴつ」は、本体の色はうす茶色で、イラストなどの柄は入っていないシンプルなデザインなのだが、おしりの部分にまるっこい文字で「お!にぎりえんぴつ」と印字してある。
私はそのえんぴつを持っている子がとてもうらやましかった。三角形のえんぴつが当時の自分にとっては不思議だったし、
形もさることながら、その「お!にぎりえんぴつ」という名前にも心をくすぐられた。
三角形=おにぎり=にぎり(えんぴつの持ち方)でダジャレのような面白いネーミングだし、その印字された字のフォントもなんだか不思議なフォントで、遊び心のあるその鉛筆が非常に珍しくて可笑しくて、憧れの存在だった。
私のふでばこには、六角形のえんぴつしか入っていない…!!
私だってあんな洒落たえんぴつが欲しい!そう思い、
近所のスーパーに行くたびに「お!にぎりえんぴつ」を探したが、見つけることは出来なかった。
もしかすると、あれはどこかの塾に通っている子がもらえるものだったのかもしれない。
「お!にぎりえんぴつ」ユーザーの子はみんな字が綺麗だったような気がする。そういう鉛筆を使っているのだから当然のことなのかもしれないが、字は綺麗だしみんなとは一味違う個性的な文房具を使っているしで、彼らは私にとってちょっとした嫉妬の対象でもあった。他のノットおにぎりユーザーがここまでの大きな感情をあのえんぴつに抱いていたかどうかは謎だ。
あのえんぴつがあれば、私も綺麗な字が書ける気がした。
しかし悲しいことに、小学校を卒業し、中学、高校と進学する過程で、
三角形の鉛筆に遭遇することはあっても、「お!にぎりえんぴつ」と出会う機会はついに訪れなかった。
ちなみに私は中1くらいまでペンの持ち方がおかしかったのだが、中3の時に社会科の先生から「高校受験の時、正しいペンの持ち方をしていないと落とされるかもしれないぞ」と脅され、必死で矯正した。
今考えると、試験官がペンの持ち方なんて見ているとは思えないが、あの頃は純粋だった。
話がそれたが、
私は今でも職場の落とし物ボックスの中に三角形のえんぴつをみかけると「お!」と反応してしまう。
しかしやはり、三角形の鉛筆を見かけることはあっても、あの時憧れた「お!にぎりえんぴつ」に出会う事は、いまだに出来ていない。
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