【要約】山口恵理子「特集 装飾論の展開とその可能性」『文化交流研究』筑波大学文化交流研究会編 pp33-45(2013)

(1)要約

本稿は、紀要『文化交流研究』の特集「装飾論」におけて寄せられた装飾にまつわる先行研究を紹介しているものである。著者がゼミにおいて取り扱った、ゼンパー(1860−63)、リーグル(1893)、ヴェルド(1895)、ロース(1910)、ペヴスナー(1936)、ヴォリンガー、ブーエ(1979)、そしてゴンブリッチ(1979,2006)、ロジャーフライ(1910,1917)の思想から装飾論をまとめている。ゴンブリッチによれば、プリミティブなるものへの志向は、装飾性なるものの志向と結ばれていることを明らかにしている。このようなゴンブリッチのプリミティブなるものと装飾とのつながりに着目し、18世紀から20世紀に至るまで装飾は芸術としてどのような扱いを受けたか簡単に振り返っている。
その中で、1830年代から60年代ごろのイギリスにおけるデザイン改革運動を取り上げている。オーウェンジョーンズThe Grammar of Onament(1856)やゼンパーは起源的なるものや、装飾と自然とのつながりを深く求める傾向にあったと考察する。更に、中世の装飾を賛美した建築家のウィリアム・バーンズ、デザイナーピュージンを介し、彼が非常にジョン・ラスキン(1851)の思想から影響を受けていたことを説明する。アーツアンドクラフトで有名なウィリアム・モリスも大きく影響を受けている。
また、ヴォリンガーはアールヌーボーにおける影響を強く与えている。ヴォリンガー『抽象と感情移入』では装飾における「線」は、感覚的であり絵画的な意思的な表現に結びつくという思想から、ヴェルドの作品のような新たな生命を生み出した。
20世紀に入ると、ロースによる装飾性の否定は有名だが、ロースの発言からも装飾に対して幼稚なプリミティブなものである。著者は、ロジャーフライの子供の絵とブッシュマンの絵の比較論から、ゴールドウォーターの論考を援用し、プリミティブなるもののの装飾は、前衛美術へと接木され、2次元の平面の中で論じられるようになった事実を明らかにしている。

ここで著者は、装飾をそのまま二次元的な空間に収めずに、環境との関係性も考慮して再度装飾を考える、ゼンパーが主張した、目的に応じた素材と技術との関係に今後は注目すべきではないかと今後の装飾の展望について示している。

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