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① 愛しすぎる女たち 愛ゆえに束縛してしまう

 なぜ私の愛はむくわれないの? からまわりなの?
 愛は嬉しいもの、幸せなもの、楽しいもの。そう思いたい。
 それを心も体も求めている。
 なのになぜ、正反対の孤独や苦しみにおちいってしまうの?       このコラムは、そんな女達のなぜに向き合い、どうしてそうなったかの恋愛心理を解き明かしていく連載です。


 時として人は愛しすぎてしまう。
 愛ゆえに悩み、愛ゆえに苦しむ。
 なぜ女達は愛しすぎてしまうのか?
 心の呪縛から解き放たれて、幸せになるにはどうしたらいいのか?
 愛しすぎる女達の実態と、なぜそうなるのかの心のメカニズムの解明。
 心平安な幸せな人生への切り替えへの道。
 すべての愛しすぎる女達へ送ります。                

 彼女たちは、美しく、聡明で、努力家です。
 とてもめぐまれている、すぐれていると思える箇所もあります。
 幸せになっていい人。
 幸せになれる人。
 でも現実では幸せでない。
 いつも悩んでいる。
 苦しみ、傷つき、心がボロボロ…。
 自分が望んだ反対の方向に行ってしまう。
 私自身も振り返ってみれば、愛しすぎる女だったのかも、知れません。
 愛しすぎる理由や現象は人様々。
 その中の一人、過剰な嫉妬をしてしまう女性を紹介します。

(1)愛ゆえに束縛 前半

「愛する人をつなぎとめておきたくて、しつこく相手を束縛監視してしまいました」
     26歳・薬剤師 美貴(仮名)

 和則(仮名)とは、勤めている薬局店で、知り合いました。
 彼の勤めている会社が近くにあって、彼は風邪薬や栄養剤などをよく買いに来てたんです。
「この所仕事が忙しくて、あまり睡眠時間がとれなくて、頭ぼーっとしてるんです。しゃきっと頭がはたらいて元気になる栄養剤って、ありませんか?」
「それなら、これが効くかも。濃度の高いカフェインとたんぱく質のナイアシンが入っているので。でも一番は、ちゃんと睡眠を取る事ですよ」
 笑いながら説明すると、
「わかってるんですけどね」
 頭をかきながら和則も愛嬌のある笑顔を見せました。
 言葉を交わすうちに親しくなり、彼にデートに誘われ交際するように。
 付き合って半年後、彼が私のアパートに転がり込むような形で、同棲するようになったのです。
 最初はとっても上手く行っていました。
 私は彼のために、朝ご飯もお弁当も夕食も手作りで用意して、彼が家で快適にすごせるよう、一生懸命努力したんです。
 彼と約束していたことに、一日3回のラインがあります。
 昼に一回。夕方に一回、そして帰宅する前に一回。
 ラインでその日の予定をやりとりするようにしていたんです。
 だけど、一ヶ月もしないうちに、彼は私の方からラインを送っても返事を返さないようになってきたんです。
 私は何かあったかしらと心配で、10回も20回も送ってしまいます。
 その数が増えていきました。
「なぜ返事をくれないの? 心配だからつい送ってしまうんじゃない!」
「俺だってやることあるんだから、すぐになんて返せないよ!」
 彼は不機嫌になります。
「愛し合っているのなら、ラインやメールのやりとりするのが普通でしょ!」
「いちいちどこにいるか現状報告しなくてもいいだろう?」
「私、メールをもらうと安心するの」
「俺を信用してないんだ。いちいち干渉しないでくれ! うざったいんだよ!」
 彼が怒鳴ります。
 こんなはずじゃなかったのに。
 仲良くお互いに隠し事のない、なんでも報告しあえる温かい家庭が作りたかったのに…。
 私の思いとは裏腹に、喧嘩が絶えないようになりました。
 休日、彼がでかけると、
「どこに行って誰と逢うの?」
 詰問してしまいます。
「うるさいなあ、どこでもいいじゃないか、ほっといてくれよ」
「言ってくれればいいじゃない! 言ってくれれば安心するのに」
 お互いがお互いの行き場所を相手に告げるのは、同棲していたら当然ではないでしょうか?
 なのに和則は、私が聞けば聞くほど反発して、黙って家をあけるようになりました。
 彼は私を避けるようになり、朝まで帰らない日々が続いたのです。
(いったい、どこにいるんだろう? 私を捨てるつもりじゃ)
(新しい女が出来たんだ。きっと今頃は、彼女と仲良くご飯食べ入るんだ、向かい合って)
 そんな妄想までが、まるで映画を見るように、映像となってまざまざと浮かんで来るのです
(きっと、私以外に好きな女性がいるんだわ。だから私が行く先を聞くと怒るんだ)
 そう私が思ってもしかたないですよね。
 私は彼が寝ている隙にこっそり彼のスマホを操作して、居場所が私のスマフォに送られるようにしました。
 そうすると、怪しいことばかり出てくるのです。
 私の親友は、

「そんなことしてたらあなたが苦しくなるばかりだからやめなさい」    と忠告します。
 でも、やめられないんです。
 ある時、それが彼にバレました。
 仕事で遅くなると言っていた彼が渋谷の行きつけの居酒屋にいることがわかったので、
(彼は私に嘘をついてる!)
 いても立ってもいられなかった私は、その居酒屋に電話をかけて彼を呼び出してしまったのです。
 真相がわかって彼は激高しました。
 そして、
「美貴のことは好きだったけど、そんなに俺が信用できないんだったら、付き合えない」
 別れを宣言されたんです。
「待って、あなたが好きだから、疑ってしまうの。一生私を愛するって言ったじゃない!! あんなに楽しかったじゃない!」
 私は泣き叫んで彼を引きとめました。
 でも彼の決心は変わらなかったのです。
 三日後、私のいないすきに自分の荷物をまとめて出て行きました。

 私の何がいけなかったんでしょうか?
 一人になると思い出すのは、和則と過ごした最初の頃の楽しい日々の思い出ばかりです。
 彼の笑顔。
 彼が奮発しておごってくれた誕生日のレストラン。
「このくらいの食事を、いつも美貴に食べさせてやりたいと思ってるんだ」
 と言ってくれたこと。
「こんなに俺を愛してくれる女はお前だけだよ」
「俺の愛は永遠だ」
 彼が誓い、囁いてくれた愛の言葉の数々。
(ディズニーランドに行って、楽しかったよね)
(始めて私の部屋に来た時、手料理を食べられるなんて感激、なんて美味しいんだ!幸せだよって、喜んでくれたよね)
 どうしていいことばかり思い出すのでしょう。
 私が彼を責めたから、彼を束縛したから、彼を疑ったから、彼が去ってしまった。
 謝りたい。
 やりなおしたい。
 もう一度帰ってきてもらいたい。
 彼に謝りのメールを送りました。 
 でも、すべてのメールや電話番号がブロックされていました。
 彼とは別れて一年たちます。
 でも、いまだにネットで検索して彼を追ってしまうんです。
 彼との思い出がありすぎて。
 私は彼をこんなに愛しているのに、どうして彼を失ってしまったのでしょうか…。

(2)
 美貴は、薬剤師と言う職業も持ち、美しく聡明で、仕事にも責任感があり、職場の同僚や会社から信頼されている女性です。
 それがどうしてこんなことをしてしまうのでしょう。
 美貴は決して彼から嫌われたくて、何通ものメールを送りつけたり、スマフォの探知機能で彼の居所を監視したりしたわけではありません。
 彼を失うのがこわかったからとった行動が、逆に彼との関係を壊してしまったのです。
 
 美貴のように、嫌われるとわかっていながら、相手への束縛や嫉妬がやめられない、と言う女性はすごく多いです。
 過剰に疑ったり妄想してしまうのです。
 なぜ男性を自由にさせておけないのか。
 それは、信頼していないからです。
 だから、いつも相手を疑ってしまう。
 あの人は私を捨てようとしているのではないか。
 心変わりをしてしまうのではないか。
 その恐怖から抜け出せないのです。
 そうではないと言う、確証が欲しい。
 安心したいんです。
 でもいつも相手に、
(浮気するんじゃないでしょうね)
(私以外に好きな女性がいるのでは)
 そういい続けていると、最初は心から女性を愛して(そんな事ないよ)と言ってくれていた男性も、だんだんと疲れてきます。
 最初のうちは、
(愛しているのはお前だけだから)
 と答えてくれていた男性も、疲れがたまると、 
「こっちのことも考えてくれよ」
 いつもいつも女性をなだめて機嫌をとることが、心の負担になりおっくうになってくるのです。
 そうすると女性は、最初の頃は、やさしくちゃんと答えてくれたのに、やっぱり私をもう愛していないんだ…いっそう不安になります。
 そしていっそう彼を責めてしまうのです。

 人は言われたような人間になる傾向がある、と言う言葉を知っていますか?
 心理学では、ラベリング効果と言います。
「あなた浮気してるでしょ!」
「他の人が好きなんじゃないの?」
「私の事愛してないよね」
 そういわれ続けると、そんなものかな、と思ってしまう。
(あなたは浮気している、あなたは私を裏切ろうとしている)
 そんな人間像がインプットされてしまうのです。
 とっても損ですよね。
 そんなことは望んでいないのに…。
 だから、浮気されたくなければ、 
「あなたは浮気すような人じゃないもの。私信じてる」
 と言ったほうがいいのです。
 なにか怪しげなことが見つかったとしても、
「あなたの事、信じてるから」
 と笑顔でいたほうが、いい結果を生むのです。
 相手はぎょっとして、自分の行動を改めます。
 愛しすぎる女性たちも、実はうすうすわかっています。
 疑うといい結果にはならない。
 口やかましく責め続けると、相手は逃げ腰になる。
 疑わない方がいい。
 ましてや勝手な妄想は抱かないほうがいい。
 わかっていながら、やめられないのです。
 不安に押しつぶされそうになって、相手を責めてしまう。
 しつこく責めて、言い争いになる。
 自分でもやめたい。
 でもやめられないのは、不安が大きいからです。
 その不安に押しつぶされそうだからです。
 どうしてそんな不安をいだくのか?
 そこにはなにか原因があるはずです。
 美貴の話を聞いてみましょう。

(3) 

〇美貴の告白。

 私は茨城出身です。学校教師の母と、公務員の父と、弟一人です。今は弟が母親と住んでいます」                        今思えば、母は、とても狭い世界で生きていたような気がします。
 近所の目や親戚、父の祖父母の評判をすごく気にしていて、
「そんなことすると、世間になんて言われるかわからない!」
「お母さんが恥ずかしい!」
 と激高する人でした。
 世間の評判を落とすことは許されない。
 だから私は、母の機嫌が悪くならないように、いつも成績がよく、先生に褒められるようないい子でいないといけないと、そう思っていたのです。

 父親は、そんな母親がけむったかったのでしょうか。
 家で飲む酒量が増えて、酒をやめさせよとする母と喧嘩することが多くなりました。
 普段の父はとてもやさしく、私は父が大好きでした。
 父は休みの日には、私と弟を釣りに連れて行ってくれたり、動物園につれていってくれたり、よく遊んでくれたのです。
 その父が、急に姿を消しました。
 ある日から、突然家に帰ってこなくなったのです。
 母は、ずっと私に父親の悪口を言っていました。
「お金も送ってくれない。血も涙もない、一緒にいる若い女に骨抜きにされているんだ」
 と。
 父親の悪口を聞かされるのが、悲しかったです。
 一度だけ父が、小学校の帰りに私を待っていてくれて、ファミレスに行ったことがあります。
「なんでも好きなのをお食べ。でも母さんには内緒だよ」
 父は、
「みんな元気にしてるか? 美貴は元気にしていたか」
 と聞きます。
「お父さんは、美貴の事が好きじゃないんだね」
 と言った私は、自分でも思いかけず泣き出してしまいました。
「そんなことないよ、だけど、色々事情があってね」
 父は謝りましたが、
(私を好きなら、どっかに行ってしまうはずがない)
 と思っていました。
 父と母は、まもなく離婚しました。
 父はその女性と結婚して、子供も生まれたようです。
 それ以来、逢ってません。
 弟の結婚式にも父は来ませんでした。
 母が呼ばなかったようです。
 私は大学を卒業すると、すぐに実家をはなれて、東京に一人暮らしをはじめました。
 今も頭に、一つの考えがかけめぐっています。
(なぜ父は私を捨てたんだろう? 私がもっと可愛ければ、利巧だったら、気が利いていれば、父は私のもとから去らなかったんじゃないか? )と。

 子供の頃に起こった出来事が美貴の心にトラウマとして残り、悔恨や苦悩を生んでしまうのかもしれません。
 特に美貴の場合は、大好きな父親がいなくなった寂しさを深く感じていたのでしょう。
 過去の投影を、知り合った彼に見てしまったのです。

 美貴は言います。
(今でも私は、心から君を愛してると言ってくれた彼も、急に心変わりをして私の元から去ってしまうんじゃないか、と言う思いがはなれないんです。それで、いくつもの恋を失ったと言うのに…) 

次号に続く。クリックで読めます

 


 



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