サブカルなんて呼ばないで。
よく行くカレー屋の店員さんが福満しげゆきの漫画に出てくる女性にソックリだ。
いや、ソックリというよりほぼほぼ福満しげゆき作画の女性だ。
そのカレー屋はチェーン店では無く、個人経営でカウンター席しかない小さな店で福満しげゆき作画女性はおそらく経営者の親族とかではなくて雇われだ。なんとなくそうだよ。
ショートカットで感じの良い彼女はいつも黒いTシャツにエプロンで「服装まで福満しげゆき漫画だ…」と思いながら、注文をする。
時々、彼女目当てだろうなとおぼしき男性客が来ているし「休みはいつ?〇〇に行こう」などと誘う客も見たことがある。
彼女を見ていると私は自分が男の気分になっていて、そんな客を嫌だなとか羨ましいなと思っている。
男の気分で声をかけてみたいなとも思うけど、やっぱり私は女だし何より会話の話題も無い。
「福満しげゆきの漫画に出てくる女の子に似ていますね。」なんて、急に女の客に言われたらどうだろう?自分だったら、と考えたら有りなのだが、だから今までたくさん失敗してきた。
たぶん彼女は「そうですか」といつもの柔らかい笑顔で返してくれるのだろう。
彼女が福満しげゆきの漫画を知っていなかったらアウトだし、もし福満しげゆきの漫画をめちゃめちゃ憎んでたら、もっとアウトだし。
「ロシアカレーはどうしてロシアなんですか?」
ロシアカレーという名前のカレーがあるので、ふと思い切って尋ねると暫く止まった後に彼女は
「ちょっと分からないですね。…ホワイトソースがかかってるからでしょうか。」
と言ってからクスクス笑った。
2人しかいない小さな店内でクスクスと笑い合った。
もうこれで充分ですよ。
福満しげゆきの漫画にソックリの店員さんがいるカレー屋さんで「福満しげゆき作画だ…。」と思いながら、カレーを注文して福満しげゆき作画の女性が自分の目の前で作ってくれるカレーを食べられる環境にあるのは、とても幸せだ。
これからも私は彼女に自分の思っていることを言わないし、そもそも私は彼女の印象にも残っていないだろう。
それで充分ですよ。
ジャンボリーカレーという名前のカレーがあるので「ジャンボリーカレーはどうしてジャンボリーカレーなんですか?」と今度、尋ねてみようかと思ったけどメニューに説明が既に書いてあった。
充分ですよ。
オプションで揚げ餃子をのせてくれる。