いちばん最初に、トレーシングレポートによる処方提案を書くべき患者さんは?
「よし、わたしもトレーシングレポートによる処方提案をしよう!」と思ったものの、いったいどのような患者さんに声を掛けたらよいのか悩んでしまい、はじめの一歩を踏み出せないまま過ごしている。
こんな状態になっていないでしょうか?
結論からお話しすると、いちばん最初に声をかけるべき患者さんは、
あなたが会話をしやすい患者さんです。
その理由は 2 つあります。
まず 1 つ目は、トレーシングレポートに患者さんの考えや思いを記載すると、採用率が格段に高くなるため、しっかり会話できるかどうかが非常に重要だからです。
そのため、こちらの話を聞いているのかいないのかハッキリしない返事をする患者さん、今すぐに帰りたくてウズウズしている患者さん、明らかにイライラしている患者さんは、慣れないうちは対象外にしたほうが良いかもしれません。
これらの患者さんに共通しているのは、腰をすえて話をできない状態であること。このような状況では、あなたが類まれな特殊能力でも持っていないかぎり、患者さんの考えや思いを知ることはとても困難です。
逆に、以前からあなたと信頼関係が築けていて、質問に気持ちよく答えてくれるような患者さんであれば、考えや思いを聞き出すハードルは大幅に下がります。
ひとこと質問をしただけで、患者さんのほうから積極的に話してくれることもあるでしょう。そのような状況はとても望ましいです。
考えや思いの例としては、薬や治療に対してどのように感じているのか、服薬に不都合はないのか(不都合ではないと患者さん自身が思い込んでいるだけではないのか)、いま患者さんが望んでいることは何なのか、この先どういった生活をおくることを望んでいるのか、などがあげられます。
ガイドラインや論文などの客観的なエビデンスのみを根拠に処方提案した場合、採用率は高くなりません。そのわけは、客観的なエビデンスだけを提示するのは、単なる情報提供にすぎないからです。誤解を恐れずに言えば、ガイドラインや論文は乾き物の情報です。インターネットにさえ接続できれば、誰もが簡単に手に入れられる情報なのです。
一方、患者さんの思いや考えを記載し、それを実現させるためにガイドラインや論文などのエビデンスを根拠にしてあなたが生み出した提案は、この世界で唯一無二の最新の情報になります。
せっかく時間をかけてトレーシングレポートを作成するなら、やはり採用してもらえたほうが嬉しいですし、患者さんや医師にとっても有用なほうが良いと思います。
2 つ目の理由は、しっかり患者さんと会話をすることがトラブルの回避に繋がるからです。
採用の可否に関わらず、トレーシングレポートによる処方提案をした際に、患者さんとトラブルになってしまうケースがあります。
具体的には、
提案どおり変更になったが、思ったような結果が得られなかったケース
提案どおり変更になったが、副作用が出てしまったケース
提案したことにより薬局での支払いが高くなったことに不満があるケース
医師に対して勝手に薬剤師が情報提供したとクレームが生じるケース
などです。
これらは、患者さんとしっかり会話をして、服薬指導時に確認すれば回避できます。
一度トラブルになると、患者さんとの信頼関係を回復させるのは大変ですし、場合によっては医師との信頼関係にも影響してしまう可能性を否定できません。
また、最初の一歩でトラブルが起こってしまうと意気が下がり、もうトレーシングレポートで処方提案するのはやめてしまおうか、なんて思ってしまうかもしれません。
それは、何よりあなたの薬局に来る患者さんにとって、すごく大きな損失です。このさき、あなたが処方提案をすることによって医療の質を高められるはずだった何十人何百人の患者さんが、その機会を失ってしまうからです。
そのような未来を回避するためにも、最初のうちは、しっかり会話をすることができる患者さんを対象にするのがおススメです。
まずはあなたが会話をしやすく、思いや考えをしっかり聞けるような患者さんに、ぜひトレーシングレポートによる処方提案を実施してみてください。
もし、あなたがはじめの一歩を踏み出すきっかけになれたなら、とても嬉しいです。