【トレーシングレポート#12】ランソプラゾールの on-demand 投与への変更を提案
「いま、逆流性食道炎の症状は全くないみたいだし、患者さんもランソプラゾールを飲む必要性を感じていないようす。それに、この患者さんは骨粗鬆症だから、PPI は中止したほうがメリットがあるかもしれない…」
処方箋の内容について疑問点・不明点を感じた場合には、疑義照会をします。
しかし、内容が誤っているわけではなく、そのままであっても患者さんに明確な不利益が生じるとは限らない場合はどうでしょう?
あるいは、今の薬のままでも構わないとは思うものの、目の前の患者さんに対してもっとよい薬物治療ができる可能性に思い当たったときはどうしますか?
PPI(プロトンポンプ阻害薬)はとてもよく処方される薬なので、安全だという印象を持ちやすいですが、そうでもありません。
実際、下痢・鉄欠乏・ビタミンB12欠乏症・低マグネシウム血症などの副作用は、現場でも経験しました。また、肺炎・Clostridium difficile 感染症・慢性腎臓病・骨折の発症リスクが増大するとも言われています(様々な報告があり、一概には判断できないものもあります)。
では、副作用を避けるために積極的に中止すればよいかというと、それはそれで問題があります。
たとえば、症状が安定していない難治性GERD 、長期間低用量アスピリン服用時、消化管出血リスクの高いNSAIDs服用者、などは期間を定めず服用することが必要になる可能性が高いです。
また、出血性潰瘍の既往やパレット食道、重度の食道炎がある場合は、中止あるいは漸減をしません。
「じゃあ、飲んでいる理由が不明だったり、検査結果が問題なくて自覚症状が何もない患者さんなら、中止したらイイんだ!」
と思うのですが、そう簡単でもありません。
PPI を 長期内服中の患者さんが急に中止すると、rebound hyperacidity とよばれる中止後の胃酸分泌過多をおこすことがあるので、注意が必要です。
そこで、決まった方法が確立されているわけではないのですが、毎週 50 %ずつ減量し最低用量になったら中止する、on-demand 療法(症状が出そうと感じたら内服し、改善したら中止する)にする、など患者さんが受け入れやすい方法をとります。
このように、PPI の減量・中止は個々の患者さん毎にメリットとデメリットを丁寧に考える必要があり、判断を機械的に下すことができません。自覚症状をともなう疾患なので、患者さん自身の思いや考えを確認することがとても重要です。
今回のようなケースで疑義照会をしても、「そのまま出しておいてください」と医師から返事があることが大半だと思います。
このような場合は、情報提供書(トレーシングレポート)による処方提案が有効です。
トレーシングレポートの利点のひとつは、電話に比べて質も量も優れた文章での情報を、医師に伝えられることです。
疑義照会の電話をかける時、薬剤師は薬剤師で忙しいですが、医師はそれ以上に慌ただしくしています。そんな中、薬剤師は口頭で手短に要点を話し、医師はそれに対して瞬時に決断を下さなくてはいけません。薬局も病院も、患者さんでいっぱいです。どことなく張り詰めたような空気感も伝わってきます。そのような状況で医師から出される回答が「そのまま出してください」です。
一方トレーシングレポートの場合、医師は余裕があるときに薬剤師の考察を文章でしっかり確認でき、そのうえで次回の診察に臨むことができます。この点で、トレーシングレポートは疑義照会よりも優れています。
もちろん、その場で結論を出さなければならないケースでは疑義照会が必須です。しかし、すべてのケースを疑義照会だけで解決しようとするのは無理があります。
このように、疑義照会とトレーシングレポートを置かれた状況によってうまく使い分けることで、薬剤師のアセスメントがしっかりと医師に届くようになり、薬剤師 - 患者 - 医師の連携が深まって、医療の質が上がります。
ただ、はじめてトレーシングレポートによる処方提案をする場合、どうやって患者さんに話をしたらよいのか、医師に対してどんな文章を書いたらよいのか、考えているうちに進めなくなってしまうこともあると思います。
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この内容が誰に対しても正解というわけではありません。
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以下が有料部分についての概要です。
【処方および提案内容など】
70 代 女性
1.ランソプラゾールOD錠15mg 1 錠
1 日 1 回 朝食後 28日分
2.リセドロン酸ナトリウム錠75mg 1 錠
1 日 1 回 起床時 1日分 ( 月 1 回 )
・現病歴:逆流性食道炎、骨粗鬆症
・併用薬:なし
・肝機能障害:なし
・腎機能:軽度低下
・処方提案の内容 :ランソプラゾールOD錠15mg の on-demand 投与への変更
・提案結果 : on-demand 投与に変更.
・その後の経過 : 数回服用した後は症状が出ず、そのまま中止。
【特徴】
・薬剤師と患者さんのやりとりを会話形式で記載
・上記を基に作成したトレーシングレポート
【デメリット】
・解説はありません。しかし、患者さんとの会話とトレーシングレポートを比較することで、文書作成にあたりどのような情報が必要なのか、患者さんとの会話をどのように文章にしたらよいのか、分かるようになっています。
【参考文献】
Proton-pump inhibitors and risk of fractures: an update meta-analysis.
Zhou B, Huang Y, Li H, Sun W, Liu J.
Osteoporos Int. 2016 Jan;27(1):339-47. PMID: 26462494
Deprescribing proton pump inhibitors: Evidence-based clinical practice guideline.
Farrell B, Pottie K, Thompson W, Boghossian T, Pizzola L, Rashid FJ, Rojas-Fernandez C, Walsh K, Welch V, Moayyedi P.
Can Fam Physician. 2017 May;63(5):354-364. PMID: 28500192
【対象】
・トレーシングレポートを使って処方提案をしてみたいとは思うものの、行動を起こせずにいる方
・トレーシングレポートの文章が書けずに困っている方
・患者さんから情報を聞き出すことや、医師への情報提供にあたっての同意をとることに難しさを感じている方
【対象外】
・疑義照会で十分な処方提案ができると確信している方
・患者さんから、じぶんが欲しい情報を難なく情報収集できる方
・医師に向けて文章を書くことに、難しさを感じていない方
最後に…
疑義照会がマイナスをゼロにするためのものだとすると、トレーシングレポートによる処方提案はゼロをプラスにするためのものと言えるかもしれません。
トレーシングレポートによる処方提案は、患者さんの医療の質を高め、患者さんに寄り添うための、あなたの新しい武器になります。
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