
「美しい」の研究報告(2月)
くだらなくて輝かしいこと

「個人的な願いからスタートした自主制作映画です。」と語る、写真家・奥山由之が監督をつとめる映画『アットザベンチ』を観た。東京の街中にある公園に、ぽつんと佇むベンチを舞台に、様々な人の物語が語られるオムニバス長編作品。物語の中心となるベンチには、幼馴染の男女、別れ話をするカップル、口喧嘩をする姉妹…様々な人が集い、もどかしく、愛おしく優しい会話を繰り返す。
中でも第3話で放たれた「くだらないことでも、しがみついてないと自分を保ってられないの」という言葉が印象的だった。側から見ると「くだらないこと」でも、それを見つめる本人にとってはキラキラと輝く希望の光だったりするのだ。
今日という一日に焦点を当てると、どうでもいいことや忘れたくなることが沢山あっても、後から振り返ると「あの時は美しかったなあ」と思ってしまったりする。悲しい出来事も嬉しい出来事も、人生というマクロの視点で見るとどれもとても美しいのだ、と感じられた、そんな映画。
思い出を編む

彼と共に、一年間の写真と言葉をまとめたビジュアルブックを作った。これまで撮り溜めた写真と、それに合わせた言葉を並べるという構成の本。完成品が無事に手元に届いたことも嬉しかったが、それ以上に制作過程がとでも楽しかった。カメラロールに散らばる写真たちを引っ張り出し、改めて一つ一つの写真に向き合って、あんなことあったね、こんな気持ちになったね、と思い出たちの温もりを感じながら、大事に一年を編む。その作業がなんとも尊く、愛おしい。
スマホ一つでいつでも写真が撮れて、簡単に思い出を保存できる現代は、「思い出」が形骸化しがちだ。だから、あえて思い出の手触りを感じながら、「本」という手元に残る形に残すことで、未来に意味を残すことができるんじゃないかと思う。(製本はMY BOOKさんにて)
心の体温が上がる時間

住宅街の中に佇む創作フレンチレストラン『FRANZ(フランツ)』を訪れた。かつて工房だった木造の建物を使って営むこの場所は、一見するとレストランとは思えない外観だが、店内に一歩入るとどこか懐かしく、アットホームなオープンキッチンが広がる。
店内の光は、一本の長い蝋燭のみ。その蝋燭の香りが店内の温かな雰囲気を演出してくれていることに気付く。どのお料理も、季節とこだわりが詰め込まれたものばかり。時間を過ごすうちに、まるでオーナーである福田さんのお家にこっそりお邪魔して、とっておきのご飯をお裾分けしてもらっている感覚になる。
静かで、優しく、温かな空間は、オーナーさんの人柄を象徴するかのようだ。お店に来る前と帰る時で、心の体温が2℃ほど上がったような気がする、そんな場所に出会えた幸せを噛み締める。